出版物

東京大学の森林再生-自然の遷移か,人間の都合か-

東京大学の森林再生-自然の遷移か,人間の都合か-

東京大学演習林愛知演習林ブックレット・シリーズ3
税込1,060円 A5判 126ページ 2011年1月発行

蔵治光一郎 編集

東京大学には、森林再生の研究・教育とその実践に日本国内・国外で精力的に取り組んでいる教職員・学生がたくさん所属しています。本書はその中から、大学院農学生命科学研究科の附属施設である演習林で、大正時代から続けられてきた森林再生の取り組みと、結果として再生された林の「未来のあるべき姿」をめぐる議論について紹介するものです。

大学の演習林、と聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。山の奥深くにあるうっそうとした森、という方もいるでしょうし、整然と植えられたスギやヒノキの林、という方もいると思います。木が伐採され、丸太が運び出される林業の森を思い浮かべられる方もいるかもしれません。しかし、中にはちょっと変わった経緯で設置された大学演習林もあります。
本書で取り上げる東京大学愛知演習林は、そのような、ちょっと変わった大学演習林の1つです。愛知演習林は、森林を人間が過剰に利用し続けた結果、草木がすべて失われ、ハゲ山と化した丘陵に、人間の力で森林を再生させる技術を研究・教育することを目的として設置された演習林なのです。
表紙の写真をみていただくとわかるように、放置しても森林が再生しないハゲ山からは降雨のたびに大量の土砂が流出し、下流の水害の原因となっていました。土砂流出を防止するため、治山・砂防工事や植林が行われてきました。長年の努力が実を結び、今、丘陵は緑を取り戻しつつあります。
近年、里山という言葉が流行するようになり、都市近郊の丘陵の林に対する関心も高まっています。里山の景観は人間が手を加え続けないと維持できないという意見も聞かれますし、人間が手を加え続けないと貴重な生き物が絶滅してしまうという意見も聞かれます。こういった意見が間違っているわけではありません、しかし、かつてそこにあった豊かな森林を再生不可能なまでに破壊したのも、ハゲ山に治山・砂防工事や植林をして森林を再生させたのも、すべて人間の都合だったという歴史を、私たちは忘れてはいないでしょうか。
緑を取り戻しつつある自然は、今や人間の都合に振り回されることなく、遷移できるようになりました。木は老木となって自然に枯れ、落ち葉や枯れ木が腐り、土壌動物がそれを分解し、土に養分を蓄積できるようになりました。それなのに人間は、また別の都合を持ち出してきて、自然の遷移に逆らうような管理をするのか、と木々たちは思っているのではないでしょうか。
自然の遷移か、人間の都合か。2010 年2 月に愛知県犬山市で行われた、身近な林の未来のあるべき姿を議論したシンポジウムでの講演や議論の記録をもとに、本書を構成しました。人間が再生した都市近郊の林の未来をめぐる議論の奥深さを感じ取っていただければ幸いです。

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