林長の挨拶

fukuda.jpg東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林は、森林を対象とした基礎的、応用的な研究や学生実習などの教育に供することを目的として設置された研究科附属施設で、120年以上の歴史を持っています。

気候帯や研究目的に応じて各地に設置された7か所の地方演習林の面積の合計は、東京大学が管理する土地の99%に当たる約32,300 ha(東京23区の約1/2)に及びます。地方演習林と農学部キャンパスの企画部とを合わせて計25名の専任教員、約70名の事務職員・技術職員、さらに研究員や非常勤職員などの充実したスタッフと、林道、宿舎、固定試験地、長期データの蓄積などの豊富な研究基盤が、演習林の活動を支えています。

千葉演習林は、明治27(1894)年に房総半島の清澄山周辺に設置された日本初の大学演習林で、モミ・ツガと照葉樹からなる原生的な暖温帯天然林には和名に「キヨスミ」の名を冠する多くの植物種が生育しているほか、100年以上にわたって成長と施業内容が記録されているスギ人工林や、1930年に開花結実した種子に由来し1997年に一斉開花したモウソウチクなどがあり、森林経営、水文、植物、野生動物、地質などの研究教育が行われています。

北海道演習林は富良野市に位置し、エゾマツやミズナラなどからなる亜寒帯天然林を対象とした「林分施業法」の実験を50年以上継続しています。ヒグマが生息する生態系の保全と、最高値で落札される優良材生産とを両立した持続的森林経営は、国内外から高く評価されています。

秩父演習林は、埼玉県の荒川源流域の急峻な山地帯(冷温帯)林に設置され、ブナ・イヌブナ天然林とシカ食害、渓流昆虫の生態、山村社会、ロボットカメラ映像を用いた環境教育など多様な研究と野外実習が行われています。

田無演習林は、西東京市の住宅地に囲まれた都市近郊林で、苗畑での学生実習や樹木医学の研究フィールドであるとともに市民の憩いの場ともなっています。

生態水文学研究所は愛知県の荒廃した丘陵地に設置され、はげ山の緑化による植生回復と並行して量水観測を90年以上継続しており、森林の水源涵養機能をはじめとする生態系サービス研究の中心地となっています。

富士癒しの森研究所は、東京大学「山中寮」が設置されている山中湖畔のカラマツ林を主体とし、森林の保健休養機能や景観、薪の利用などの教育研究が行われています。

樹芸研究所は伊豆半島南端に位置し、東京大学「下賀茂寮」が併設されています。クスノキやアブラギリなどの特用樹の人工林や、温泉熱を利用した温室でのカカオやユーカリなどの熱帯・亜熱帯樹木の研究、炭焼きやチョコレートづくりなどの体験教育が行われています。

農学部1号館には、地方演習林を統括し企画調整を行う部署としての演習林企画部と教育研究の拠点としての教育研究センターが設置されています。学生は所属専攻やフィールドとしている演習林、研究テーマ、国籍等に関わらず机を並べてともに学び、毎月の「演習林ゼミ」では地方演習林の多様な教員の研究に触れ、アドバイスを受けることができます。

演習林は、農学生命科学研究科の研究・教育以外にも、全学体験ゼミナールや他部局・他大学の実習や研究フィールドとして活発に利用されています。また、一般公開や子ども向けイベント等も行われ、地域における学校教育や市民教育の場としても貢献しています。さらに、アジアを中心とした大学演習林のネットワークも構築され、教員の専門性や地方演習林の特色を活かした国際共同研究プロジェクトや、シンポジウム開催、留学生やインターンシップの受け入れもさかんです。こうした演習林の多様な活動の成果は、定期刊行物「演習林報告」「演習林」およびブックレット類などとして出版されています。また、演習林の保有する長期にわたる気象、水文、生態調査やGIS等のデータ、動植物標本等の資料は、広く活用してもらうために「基盤データ」として一元管理する体制を整えています。

多彩な教員による指導と職員による手厚いサポート体制、宿泊施設の完備した演習林での研究に興味を持っていただけたら、農学部1号館1階の演習林教育研究センターを遠慮なく訪ねてみてください。

2018年4月
東京大学大学院農学生命科学研究科
附属演習林長
福田 健二