林長の挨拶

東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林は、森林を対象とした教育・研究の場を提供するために設置された研究科附属施設です。130年近い歴史を有し、学内のみならず、広く国内外の教育・研究機関から学生実習や多様な研究のフィールドとして利用されています。

目的に応じて、千葉、北海道、秩父、田無、愛知、富士、伊豆の7箇所に設置された地方演習林の合計面積は、約32,300 haで、東京23区の面積の約半分に相当し、東京大学が管理する土地の99%にも達します。地方演習林と弥生キャンパスには計24名の専任教員、約70名の事務職員・技術職員、さらには研究員や非常勤職員など多くのスタッフが在籍し、森林の維持管理のみならず、宿泊施設、固定試験地、長期データの蓄積等の豊富な研究基盤を支えて続けています。

千葉演習林(房総半島南部の清澄山周辺)は、国内で初めて設置された大学演習林で、照葉樹林やモミ・ツガを中心とした暖温帯天然林、100年以上の施業記録が残るスギ人工林などがあります。 北海道演習林(富良野市)は、地方演習林の中で最も広く(約22,700 ha)、針広混交天然林を対象とした「林分施業法」の実践がよく知られています。 秩父演習林(埼玉県秩父市荒川源流域)は、ブナ・イヌブナ等に代表される冷温帯落葉広葉樹林帯の急峻な山岳地帯に位置し、動植物や山村社会等に関する多様な実習・研究の場となっています。 田無演習林(西東京市)は、都市近郊林として教育・研究のみならず、一般の方々にも多く利用されている演習林です。 生態水文学研究所(愛知県、一部静岡県)は、90年以上継続されている量水観測によるデータ蓄積等、森林水文学を中心とした生態学研究のフィールドとなっています。 富士癒しの森研究所(山梨県山中湖村)は、富士山・山中湖といった観光資源に隣接しており、森林のリクリエーション機能に関する研究が盛んに行われています。 樹芸研究所(静岡県伊豆半島南端)では、温泉熱を利用した温室での熱帯・亜熱帯樹木の研究、クスノキ、アブラギリといった特用樹の研究等が実施されています。 これらの地方演習林はそれぞれの特色を生かした活動を行う一方で、森林GIS、気象、水文・水質、動植物、試験地データ等を基盤データと位置づけ、所定の形式で管理・蓄積しています。

弥生キャンパスには、地方演習林を統括して企画調整を行う演習林企画部や学生の教育や社会連携の拠点である教育・社会連携センター等が設置されています。演習林所属の学生は、専攻や学年、研究フィールドが異なっていても、弥生キャンパスに机を与えられ、共に切磋琢磨して学ぶことができます。また、月に1回実施される演習林ゼミ等を通じて、多様な演習林の教員から幅広い視点にもとづいたアドバイスを受けることもできます。

演習林は、農学生命科学研究科・農学部の教育・研究だけでなく、全学体験ゼミナール等、他部局や他大学の教育の場としても幅広く利用されています。地方演習林では一般向けの公開イベントも数多く実施されています。また、国際交流も活発で、アジアを中心とした大学演習林の国際的ネットワークを活用したプロジェクトやシンポジウムが毎年のように企画され、留学生や国際的なインターンシップの受け入れも盛んです。  

このように東京大学の演習林には多様な研究フィールドだけでなく、それを支える多くの教員、スタッフ、施設、サポート体制が備わっていて、森林に関わる研究を目指す学生にとって良好な環境を提供することができます。この研究環境に興味を持った方は、ぜひ農学部1号館1階にある演習林教育・社会連携センターに問い合わせてみてください。

2021年4月
東京大学大学院農学生命科学研究科
附属演習林長
久保田 耕平