【研究紹介】地温に応答したスギの低温耐性獲得機構

研究部 教授 丹下 健

2005年5月29日

 常緑樹の葉は、冬季であれば低温障害を受けることのない低温や降霜によって秋や春には甚大な被害を受けることが知られています。これは常緑樹が周囲の温度環境の変化に応じて樹体の低温耐性を変化させていることを示しています。葉の低温耐性は、溶質濃度を高めることで、凍結温度を低下させたり細胞外凍結時の細胞内水の脱水に対する乾燥耐性を高めたりという、葉の水分特性を変化させることによって発揮されます。そこで暖温帯を主な生育地域とするスギが周囲の温度環境をどのように感知し、葉の低温耐性を高めたり低めたりしているのかを明らかにすることを目的に、実験的に地下部と地上部の温度環境を別々に制御して葉の水分特性がどのように変わるのかを調べました。

 これまでに、(1)野外に生育するスギの葉は、溶質濃度の指標となる浸透ポテンシャルや膨圧を失うときの水ポテンシャルが秋から冬にかけて低下し、特に気温が5℃以下で急激に低下する季節変化を示すこと、(2)このような葉の水分特性の急激な変化は、葉の温度が高くても地温を5℃以下に下げると起こり、逆に、葉の温度を5℃以下にしても地温が高いと起きないことなどを示し、秋から冬にかけての葉の水分特性が地温(根の温度)によって制御されていることを明らかにしました。地温の低下が葉の水分特性に与える影響としては、水の粘性の増大や根の細胞膜の水分透過性の低下、根の成長低下(停止)による光合成産物に対するシンク能の低下(葉への光合成産物(糖)の蓄積)などが考えられます。

 温暖化の影響か、近年、異常気象が頻発しています。異常寒波などによる森林生態系への気象被害の発生予測には、樹木の低温耐性獲得機構を明らかにすることが重要と考えています。関連する研究成果は以下の論文で公表されています。

<参考文献>

[1] Norisada, M., Hara, M., Yagi, H., Tange, T., (2005) Root temperature drives winter acclimation of shoot water relations in Cryptomeria japonica seedlings. Tree Physiology 25, 1447-1455.

[2] 波羅仁・則定真利子・丹下健・八木久義(1998)スギとタイワンスギの低温に対する反応.東大演報 99:111-123.

[3] 則定真利子・丹下健・松本陽介・丸山温 (1996)東京大学千葉演習林に植栽されたスギ科6種の水分生理特性の季節変化.森林立地 38:73-79.