【研究紹介】住民参加による森林管理・利用システム

森林生態圏管理学研究室 農学特定研究員 佐竹(秋廣)敬恵

2006年2月28日

 近年,里山保全活動や河川上流地域における植林活動,森林教育・エコミュージアムなどの森林利用活動が,地域内外の関係者の参加と協力関係(パートナーシップ)によって各地で行なわれています。これらの事例は,森林の管理・利用のあり方を,森林所有者だけでなく,身近な森林の受益者である地域住民,行政,さらには地域を超えて森林から何らかの恩恵を受けている一般市民といった森林の関係者の合意によって決定する森林管理・利用システムが要請されている現れといってよいでしょう。しかし事例が比較的新しく多様であるため,システムの概要や形成過程は十分に解明されていません。そこで私は2001年,全国各地で森林保全活動を行なっている森林ボランティア団体(この中には行政が運営するものも含まれます),漁業協同組合などを対象にアンケート調査を行い,活動の実態・住民参加・パートナーシップの現状と課題について分析しました[2][3][4]。さらに,都市近郊地域における事例の比較研究[1],行政の関与に注目をした検討を行なうことで,特にパートナーシップが誰のリーダーシップでいかに形成されるか,また形成される上での課題は何かについて詳しく検討しました。

 その結果,参加の拡がり(地域内参加型,超地域的参加型)とリーダーシップ(地域住民主導型,市民主導型,地域内行政主導型,広域行政主導型)の違いから,合計6つのタイプのシステム(モデル)が考えられました[5]。このモデルでは,パートナーシップの主要な構成員を住民(市民)・森林所有者・行政に限定していますが,実際には漁業関係者や企業,教育研究機関などが重要な関係者となる事例もあり,今後はこれらの関係者が主要な関係者として参加するシステムについてもより詳しい事例研究を行なって検討する必要があります。

<参考文献>

[1] 秋廣敬恵(2003) 都市近郊地域における住民参加・パートナーシップによる森林管理システムの形成過程. 日林関支論54:97~100.

[2] 秋廣敬恵(2005a)森林管理・利用における行政主導によるパートナーシップ形成過程. 日林関支論56:51~54.

[3] 秋廣敬恵(2005b)森林ボランティア団体の活動実態と森林管理・利用への「住民参加」に関する社会経済学的考察. 東大演報113:155-196.

[4] 秋廣敬恵(2005c)地域社会における森林管理・利用への住民参加・パートナーシップに関する社会経済学的考察(Ⅰ)-パートナーシップ形成過程の類型化-. 森林計画誌39:123-142.

[5] 佐竹敬恵(2005)地域社会における森林の管理・利用への住民参加およびパートナーシップに関する研究. 東京大学博士論文, 231pp.