【研究紹介】北海道で取り組んでいること

北海道演習林 講師 鴨田 重裕

2003年6月6日

 私は百余年の歴史を持つ東京大学北海道演習林に勤務しています。私たちがここで何に取り組んでいるか紹介したいと思います。人間は生きている限り、エネルギーを利用し続けます。これは自然保護や動物愛護を意識高く実践している人間であっても避けて通ることはできません。自分の存在がまわりに全く影響を及ぼさないことなどあり得ません。では全てをあきらめる他ないのでしょうか?

 エネルギーにはいろいろな形がありますが、20世紀に大量に利用されたエネルギーは石炭や石油など化石燃料と言われるものです。これらは古生代や中生代の生物由来の“化石”ですから、埋まっている分しか存在しません。化石燃料が限りある資源であるのに対し、木材は再生産が可能な資源です。無限の資源ではなくて、再生産可能な資源というところがミソです。再生産し続けるにはそれなりに工夫が必要です。

 木材を生産する産業を林業と言います。日本の林業の実情は非常に芳しくない状況にあります。なぜ芳しくないのか?の話はここではあまり触れないことにします。東京大学北海道演習林で取り組んでいる林業は、自然の森林の姿を大きく変えることなく、つまり、本来森林が持っている様々な機能を損なわないように注意を払いながら木材生産を行っていくという壮大な実験を行っています。少し詳しく言いますと“ドロガメ先生”という偉い先生が導入した林分施業法というやり方を実行しています。林分施業法の基本は自然の回復力を超えない範囲で木材を収穫して、10年間後には現状以上に森林の状態が回復されることを目指すというものです。実際はどうか?トドマツという樹がどんどん生えてくるところでは、うまく行っていると言えます。でも、トドマツを軸に考えられないところでは、どうやらこれまでの手法ではあまりうまく回すことができないようです。ではどうすれば良いのか?それが東京大学北海道演習林が今後取り組んでいかなければならないテーマです。これまでの施業実験では対照の概念が少し希薄でした。実験ですから対照を適当に配置して、適当な手法を探っていく努力を続けて行きたいと思っています。林業が見捨てられかけていることに警鐘を鳴らし、林業の一つのあり方を実験を通して示していくことが東京大学北海道演習林の使命であろうと信じています。