【研究紹介】普及段階に入る地域材住宅

北海道演習林 助手 安村 直樹

2005年6月6日

 我が国には面積25百万ha、蓄積(2)40億m3の森林資源があって、毎年およそ1億m3ずつ成長しています。しかしこのうち木材やパルプとして利用されるべく伐採されるのは2千万m3あまりに過ぎません[1]。持続可能な森林資源は、資源小国の我が国にとって貴重な資源なのですが、実にもったいない話です。我が国の森林から産出される木材の利用を拡大するためには、まず利用先の確保が重要です。私は利用先として地域材住宅に注目し、さまざまな事例について調査・研究しています。地域材住宅が広く普及することにより林業、林産業が振興し、ひいては望ましい森林管理に貢献することが期待されます。

 林野庁によると2003年において地域材住宅に関わる団体(3)は全国で182団体あります。こうした地域材住宅の団体設立は時期別に特徴が見られます[2][3]。1980年代、特に後半に入って設立の相次いだ時期には、木材産地(やま側)に所在する大工・工務店が中心となった団体が多く見られました。木材だけでなく大工もやま側から消費地(まち側)に直接出向いて建築するケースも多く、伝統的な建築技術をセールスポイントにしています。これを第一世代とします。1990年代には、まち側に所在し、設計事務所が中心となって設立される団体が増加しました。やま側の団体も含め、山林ツアーや住宅相談会を実施して消費者(住み手)とのつながりを重視しています。さらに地域の環境保全に地域材住宅が有用であると訴えるようにもなっていきます。こうした団体を第二世代と位置づけることができます。近年では、暮らしやすさや耐震性と言った住宅の基本性能を前面に出す団体が見受けられるようになりました。いわば第三世代の登場です[4]。第一世代や第二世代に見られる伝統的な建築技術や地域の環境保全といったアピール、そして特定産地の木材という魅力は一部の限られた住み手に支持されるにとどまっているためです。住宅の基本性能をしっかりとおさえて「売れる家づくり」をすることにより地域材住宅の潜在的な購入層が大幅に拡大するものと期待されます。

 地域材住宅のさらなる普及のためには住み手対策だけでは不十分です。「売れる家」は「作りやすい家」でもあるべきです。森林所有者、製材業者、材木店、大工・工務店、そして設計士と、家づくりに関連する多くの作り手が連携することにより、作りやすさに工夫を凝らしていく作り手対策が大切です。例えば、地域材住宅の多くは、構造部の木材を隠さずに現して利用していますが、こうした住宅では大工に要求される技術水準が高くなります。可能な範囲内で構造をシンプルにできれば、技術水準が下がり、より多くの大工・工務店が地域材住宅に携わることができます。木材に関して言えば、これから本格的な収穫期に入る戦後造林木を有効に活用するために大断面長尺材(4)の使用を極力避けた設計をすることが重要になりますし、規格化された木材を利用すれば材の製造、管理、ストックが容易になり多方面にメリットが生じます。

 今後は「売れる家づくり」「作りやすい家づくり」が浸透し、地域材住宅が広く普及することが期待されます。冒頭にも述べたように地域材住宅の普及がどのように地域の林業・林産業、あるいは地域の森林管理に影響するのか、見極めていきたいと考えています。

<参考文献>

[1] http://www.rinya.maff.go.jp/toukei/genkyou/index.htm (2005年5月31日取得)

[2] 安村直樹ほか(2001)産直住宅事業体の現状と課題-事業体へのアンケート調査を元に-.林業経済637:14-24.

[3] 嶋瀬拓也(2002)地域材による家造り運動の現状と今日的意義-産直住宅運動との対比において-.林業経済640:1-16.小嶋睦夫(2003)産直運動-林・住リンケージによる森林資源管理の合意形成の芽生え-.「森林資源管理の社会化」(財)九州大学出版会:295-303.

[4] 安村直樹(2005)地域材住宅事業にみる上下流連携の成果-宮崎県諸塚村、高知県嶺北地域を事例に-.ICU・COE公開セミナー<分権・共生社会の森林・林業・山村>:63-80.

<用語解説>

(1) 地域材住宅:地元産の木材を構造部に使用した住宅。やま側にとっては、木材需要の拡大や連携の仕方によっては立木価格の上昇が望め、まち側にとっては木材をふんだんに利用するなどしてその他の住宅との差別化を図れるなどのメリットがあります。

(2) 蓄積:樹木の容積のこと

(3) 団体:「団体」とは森林所有者、製材工場、工務店等で構成されるグループで、その形態はNPO、協同組合や任意団体などさまざまです。

(4) 大断面長尺材:太く長い梁のこと。太く長い梁の存在は多様な空間設計を可能にしますが、太く長い丸太、すなわち高齢の樹木が必要であり、戦後に造林された若い樹木から生産することは困難です。