【研究紹介】非破壊検査による樹木の診断

田無試験地 助教授 山田 利博

2005年8月3日

 樹木が健康かどうか、あるいは内部が腐っていないかどうか外から見て知りたいという願いは古くからあるようです。聴診器をあててみる人もいますが、残念ながらそれだけでは木の健康状態は分かりません。傷つけずに木の中を見通すことができれば、公園の木や街路樹が倒れる危険性がどの程度か、また病気が広がろうとしているのかどうかを知ることができます。非破壊的な手法、小さな傷を付ける半非破壊的な手法ともに、これまで多種多様な方法が考案されていますが、コストや取り扱いの簡便さ、精度など一長一短でなかなか決定的打はありません。

 その中で、内部の空洞や腐朽の様子を大ざっぱでいいから非破壊的に見るためには、音の伝達速度やγ線の透過性を調べる方法が実用化されています。ただ、どちらの方法も内部の水の分布によって影響を受けます。樹種によって、腐朽には至っていないが死んだ組織(色が変わりますので材変色部と呼んでいます)が乾燥したり、逆に水が溜まったりしますので、正確な診断には、まず樹種毎の材変色・腐朽の特性を知る必要があります。今のところ、小さな傷を付ける方法、例えば錐のようなものを貫入するときの抵抗で診断する方法と併用することで情報の不足を補う必要があります。そこで、樹種毎の特性を把握するために、いくつかの樹種に傷を付けてその後の材変色・腐朽の進み具合と水の分布、それからこの両者に密接に関わる防御反応との関係を調べているところです。

 細かいところまで見る方法としては、さらに高価な機械が必要で、かつ実用的には苗木に限られますが、MRI(=核磁気共鳴断層撮影装置)や中性子線の透過性で調べる中性子ラジオグラフィ(1)があります。分解能はどちらも数十~100μmと大きな道管なら見ることができるレベルです。木全体あるいは枝を枯らしたり材質を劣化させたりする病気を材料に、中性子ラジオグラフィを用いることで、病原菌の病原力が違う場合、あるいは水ストレスがかかった場合に、苗木内部の病患部がどのように広がるのかが分かってきました。非破壊検査法は自然界で樹木と病原体とがどのように関わり合って生きているのかを知るための基礎資料を得る一つの有力な方法でもあります。

<参考文献>

[1] 渡辺直明 (2000) 野外現場で使用可能な樹木診断装置 . 樹木医学研究 4(1):23-32

[2] Yamada, T., Aoki, Y., Yamato, M., Komatsu, M., Kusumoto, D., Suzuki, K. & Nakanishi, T.M. (2005) Detection of wood discoloration in a canker fungus- inoculated Japanese cedar by neutron radiography. J. Radioanal. Nucl. Chem. 264(2):329-332

<用語解説>

(1) 中性子ラジオグラフィ:レントゲンと似たものであるが、X線の代わりに中性子線を用いる。中性子線は水素原子があると透過しにくいため、水の分布を調べるのに適している。X線やγ線は重い原子の方が透過しにくい。