【研究紹介】LiDAR 技術を活用した森林DX による地域内産直サプライチェーンの構築

鄧 送求(森林流域社会環境学研究室 樹芸研究所)

※本記事は2026年11月10日発行のニュースレターmorikara8号に掲載されます

 日本の林業は、森林資源が成熟期を迎えている一方で、木材価格の低迷や人手不足、再造林の停滞など、多くの課題を抱えています。特に、森林所有者への利益還元(山元還元)が十分に行われていないことは、持続可能な森林経営を阻害する大きな要因となっています。その背景には、川上(森林・木材生産)から川下(建築・住宅)までの需給情報が分断されており、木材流通が多段階化することで、物流や在庫管理に多くのコストが発生しているという構造的な問題があります。
 本研究では、LiDAR*1(レーザ計測)によるスマート林業技術1)を核とした森林DX*2を推進し、森林と建築をデジタルデータで結ぶ「森林産直サプライチェーン」の構築を目指しました(図1)。森林資源をデジタル化した「森林のデジタル在庫」を整備し、立木情報を住宅建築に直接活用することで、流通コストの削減と山元還元の実現を図りました。

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図1 森林・木材・建築におけるデータ連携の流れ

川上における精密な森林資源情報の把握

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図2 レーザ計測から住宅実証実験までの解析フロー

 建築用材の丸太を採材する対象地は長野県木島平村の約65年生カラマツ人工林です。森林計測には携行型モバイルレーザスキャナを用い、約0.5haの森林を短時間で高密度に計測しました。取得した三次元点群データから各立木を自動抽出し、樹幹の部分のみを抽出した後、10cm間隔で円盤状のスライス点群を生成しました。さらに、各円盤の点群データから樹幹の直径と中心点を連続的に推定しました。レーザ計測から住宅実証実験までの解析フローを図2に示しています。
 推定精度を検証するため、木登りによる現地調査を実施し、高さごとの直径を実測しました。その結果、104箇所の比較において平均誤差は約1.04cmであり、LiDARによる樹幹形状の高精度な把握が可能であることを確認しました。一方で、根張り付近や樹幹上部では計測精度がやや低下することが分かり、今後のアルゴリズム改善に向けた課題も明らかとなりました。

立木造材シミュレーション技術の開発

 さらに、本研究では取得した樹幹形状データを利用して造材シミュレーションプログラムを作成し、立木一本ごとに様々な材長で丸太を切り出すシミュレーションを行い、末口直径、元口直径、曲がり(最大矢高)などの品質情報を自動算出する技術を開発しました。これにより、森林内に存在する全ての立木について、どのような丸太をどの位置から採材できるかを事前に把握できる「森林のデジタル在庫」を構築しました。素材生産者や製材工場は、このデータベースから必要な丸太を検索・選定できるため、需要に応じた効率的な木材供給が可能となります。

森林と建築のデータ連携による実棟建設

 本研究の特徴は、森林側だけではなく建築側のデータとも連携していることです。住宅の設計図から必要となる構造部材を抽出し、その部材情報から必要な丸太の規格や本数を逆算しました。その結果、住宅2棟分に必要となる43本の丸太を森林内から選定し、実際の立木との照合を行いました。目視による品質確認を経て住宅用材として利用可能な立木を選定し、実際に伐採・製材・大型パネル化を行い、住宅建設まで実証しました。大型パネル工法を採用することで、建方作業は1棟あたり8時間以内で完了し、森林から住宅までを一貫してデジタル管理する仕組みの有効性を示しました。
 このような森林と建築を結ぶデータ連携は、従来の市場流通に依存しない受注生産を可能とし、物流コストや在庫管理コストの削減だけでなく、地域内で木材を循環利用する新たなサプライチェーンの実現につながります。また、木材の付加価値向上によって山元還元を促進し、再造林費用の確保や持続可能な森林経営にも大きく貢献することが期待されます。

今後の展望

 本研究で提案した「建築と森林のデジタル融合」は、森林DXと建築DXを統合した先進的な取り組みとして高く評価され、ウッドデザイン賞2022を受賞しました。今後は、ドローンLiDARやAIによる自動品質評価技術の高度化を進めるとともに、森林資源のデジタルツイン化を実現し、地域全体で森林資源を最適活用する次世代型森林サプライチェーンの構築を目指していきます。

*1 Light Detection And Rangingの略
*2 デジタルトランスフォーメーション

引用文献

1) 加藤正人・トウソウキュウ・竹中悠輝・張桂安・堀澤正彦・大野勝正・伊藤隆明(2019)レーザセンシングによるスマート精密林業.精密工学会誌85(3): 232-235.