【研究紹介】田無演習林に定着した外来チョウ-アカボシゴマダラを追う
前原 忠(森林圏生物機能生態学研究室 田無演習林)
※本記事は2026年11月10日発行のニュースレターmorikara8号に掲載されます
アカボシゴマダラとは
アカボシゴマダラ Hestina assimilis は、中国や台湾、朝鮮半島、奄美諸島などに自然分布する中型のタテハチョウです1)。白と黒のまだら模様の翅と、後翅後端に並ぶ鮮やかな赤い斑紋が特徴で、ゆったりと漂うように飛びます(図1a)。幼虫(図1c)は広葉樹のエノキ属(Celtis spp.)の葉を食べて成長します。本来このチョウは関東地方には生息していませんでした。しかし1995年頃から関東各地で目撃されるようになり、1998年には神奈川県で繁殖・定着が確認されました。形態学的特徴から、これらは奄美諸島に生息する日本産亜種ではなく、中国大陸由来の個体群と考えられています1)。現在、奄美亜種を除くアカボシゴマダラは特定外来生物に指定されており2)、同じエノキを利用する在来種のゴマダラチョウやオオムラサキへの影響が懸念されています。

図1 アカボシゴマダラの写真 a: 成虫 b: エノキの葉に産み付けられた卵 c: 幼虫
田無演習林における発生

図2 2019年6月から8月のアカボシゴマダラ卵・幼虫の個体数
田無演習林で見慣れない大きなチョウを見かけるようになったのは2007年頃でした3)。後翅後端に並ぶ赤い斑紋から、すぐにアカボシゴマダラであることが分かりました。その後も毎年飛来が確認され、見学路沿いには幼虫の食草であるエノキの若木が数多く生育していることから、演習林内で繁殖しているのではないか、という疑問を持つようになりました。そこで2019年に発生状況を詳しく調査しました。5月末から8月末まで月1〜2回、見学路沿いのエノキの若木約600本に番号を付け、葉を1枚ずつ観察して卵と幼虫を数えました(図2)。
その結果、6月中旬には卵と幼虫が合わせて54個体確認されました。その後は徐々に減少し、7月中旬には5個体となりました。これは成虫の寿命によって新たに産み付けられる卵が減少するとともに、卵がふ化して幼虫へ成長するためと考えられます。また、越冬した幼虫が春に羽化して第一世代となり、その子世代が夏に第二世代、さらに第三世代へとつながることから、田無演習林では少なくとも年3回発生していることが確認されました。さらに、卵から終齢幼虫までさまざまな発育段階の個体が確認されたことから、一時的に成虫が飛来しただけではなく、演習林内で世代を重ねながら生活環を維持していることが示されました。都市部の緑地でも安定して繁殖できることを示す結果と考えられます。
在来種への影響
今回の調査では、在来種ゴマダラチョウの幼虫はエノキの若木では確認されませんでした。ゴマダラチョウは成木を利用する可能性も指摘されており4)、両種で幼虫の利用環境をある程度使い分けているのかもしれません。
しかし、仮に幼虫の生息場所が異なっていたとしても、共通の天敵が増えることで在来種が間接的な影響を受ける可能性があります。外来種の影響は、一見競争が起きていないように見える場合でも、食物網を介して現れることがあります。そのため、今後もアカボシゴマダラの発生状況を継続的に調査するとともに、在来種への影響を多角的な視点から評価していく必要があります。
都市近郊に位置する田無演習林は、多くの人が利用する身近な森林である一方、都市化の進んだ環境に適応する生物や外来種の動向を長期的に観察できる貴重な研究フィールドでもあります。こうした継続調査は、生物多様性の保全や外来種対策を考える上で重要な基礎資料となります。今後も調査を継続し、都市の森林で起こる生態系の変化を記録・発信していきたいと考えています。
引用文献
1) 国立研究開発法人 国立環境研究所. 侵入生物データベース「アカボシゴマダラ」. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/60400.html (2026年7月24日閲覧).
2) 環境省. 日本の外来種対策. https://www.env.go.jp/nature/intro/1law/outline.html (2026年7月24日閲覧).
3) 東京大学演習林出版局編. 武蔵野に大学の森を訪ねて ~東京大学田無試験地の80年~. 132-135. 2010.
4) 岩野秀俊. 神奈川県におけるアカボシゴマダラの分布拡大の過程. 昆虫と自然. 40:6-8. 2005.