【研究紹介】森林生態系多様性基礎調査から明かす全国規模の森林炭素蓄積能力の実態
仲畑 了(森林圏生物機能生態学研究室 北海道演習林)
※本記事は2026年5月10日発行のニュースレターmorikara7号に掲載されています
森林の炭素蓄積量能力を正確に推定することは、カーボンニュートラルの実現に向けた重要な課題の一つです。林野庁が管轄する森林生態系多様性基礎調査(NFI: National Forest Inventory)は、日本の森林資源量を把握する上で重要なデータを提供します。特に、直近の第3期(2009~2013年実施)と第4期(2014~2018年実施)のデータを用いることで、年間の森林炭素固定量を正しく評価することが可能となります。
全国スギ林を対象とした新たな森林炭素蓄積モデルの構築
森林炭素蓄積量を将来にわたり予測するためには、林齢にともなう森林成長パターンを知る必要があります。しかし、過去の収穫表データは時代遅れとなりつつあり、特に不確実性の高い高齢林の成長を予測できる新しいモデルが必要とされています。 森林資源や木材産業の観点からスギ林は最も重要な森林タイプです。私たちの研究では、NFIデータに加え、大学演習林の資料を含めた既往文献調査(LS: Literature survey)を行い、高齢林をカバーする正確なスギ林成長モデルを推定しました1)。また、このモデルを用いて、複数の森林管理シナリオに基づく将来のスギ林総炭素蓄積量を予測しました。 新たな成長モデル(NFI-LSモデル)では、スギ林の最大炭素蓄積能力が247.1 MgC ha-1 *1となり、旧来の収穫表に基づくモデル(YTモデル)の値135.5 MgC ha-1に比べ1.8倍も高くなりました(図1)。新しい成長モデルを用いた予測によると、日本のスギ林は未だに膨大な炭素資源を蓄える能力があり、2100年までに最大で1000 TgC以上もの炭素を蓄積できる可能性があります。

図 1 スギ林における林齢と炭素蓄積密度の関係(上図)と森林発達過程の模式図(下図)。 (上図)赤点はNFI、青点はLS由来のデータを示す。実線は新たなモデル(NFI-LSモデル)、破線は旧来のモデル(YTモデル)である。実線の影は95%信用区間を示す。 (下図)発達過程における各段階の林齢は各成長モデルに基づいて計算した。Nakahata et al. (2025)の図を一部改変。
全国森林の炭素蓄積量・炭素固定能力の実態解明

図 2 第3期・第4期NFIデータに基づく森林タイプ別の(a)炭素蓄積密度と(b)総炭素蓄積量。エラーバーは95%信頼区間を示す。各棒グラフ上部の数値は年間の炭素固定速度を表す。Kumagai et al. (2026)の図を一部改変。
日本全国の森林による総炭素固定量の推定値は、二酸化炭素(CO2)排出削減目標の策定等において重要な指標となります。私たちは、あらゆる森林タイプにおける炭素固定能力を第3期・第4期NFIデータを用いて評価しました2)。 年間の総炭素固定量はすべての森林タイプを含めて 46.2 TgC yr-1 *2であることがわかりました(図2)。この数値は、旧来の収穫表に基づく推定値の約2倍に相当します。特に、スギ林は面積あたりの炭素固定速度が最も高く、森林による年間総炭素固定量の 43.1% を担っています。また、機械学習アルゴリズムを用いた詳細な解析(SHAP値)では、森林タイプが炭素固定能力に対して強く影響することがわかりました。 日本政府は2050年までのカーボンニュートラル実現を目指しています。現在、森林によるの年間炭素固定量はCO2換算で約5000万トンと見積もられています3)。しかし、私たちの研究では、年間炭素固定量は少なく見積もっても約1億2700万トンという異なる実態を示し、これまでの公的な推定値を大幅に上方修正する必要性を示唆しています。これらの知見が環境政策や森林管理に活用され、カーボンニュートラルの実現に向けて日本の森林が持つ潜在能力が最大限に発揮されることを期待しています。
*1 MgC ha-1 :森林1haあたりの炭素(C)の蓄積量(Mg:メガグラム)
*2 TgC yr-1:1年(yr)あたりの炭素(C)の固定量(Tg:テラグラム)
引用文献
1) Nakahata, R., Egusa, T., Kumagai, T. (2025) Current and future carbon stocks of a dominant forest plantation species, Cryptomeria japonica, throughout Japan. Journal of Environmental Management, 393, 126981.
2) Kumagai, T., Nakahata, R., Kameyama, T., Egusa, T. (2026) Revised estimates of forest carbon sequestration reveal the true sink capacity of Japanese forests. SSRN, http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.6090126.
3) 研究開発戦略センター (2022) 調査報告書:バイオマスをCO2吸収源としたネガティブエミッション技術(CRDS-FY2021-RR-05). 科学技術振興機構, 東京.