【研究紹介】約100年前から続くモウソウチクの開花周期研究試験地の現在
久本 洋子(森林圏生物機能生態学研究室 秩父演習林)
※本記事は2026年5月10日発行のニュースレターmorikara7号に掲載されています
竹は数十年に一度の周期で開花する
竹は長期間、地下茎やタケノコで栄養繁殖を続けた後、数十~百年近くの周期で、一斉に開花・枯死するという特異な生活史を持っています。この現象は古くから知られており、なぜ竹は開花までこれほど長く待つのか、という論文も報告されています。この論文では世界の竹類41種について文献の記録から開花までの年数がまとめられており、竹の種類によって開花周期が異なることが示唆されています。しかし、これらの開花年数は文献に基づく推定値です。正確な開花周期を確かめるには、実際に竹を植えて長期間育て、いつ開花するのかを観察することが確実です。
300年計画のモウソウチク開花周期実証試験
実際に、開花周期を調べるための植栽試験が、約100年前から日本で実施されてきました。その一つが、東京大学千葉演習林にあるモウソウチク開花周期実証試験地です(図1)。この試験は神奈川県山林会の近野英吉博士が提案したことに始まります。その提案に協力したのが当時の東京帝国大学演習林長・薗部一郎博士でした。近野博士は、1~2回の開花を確認した程度では確実な周期性とはいえないと考え、1 世代を約100年とみなして3世代を確認できるよう、300年にわたる長期試験を計画しました。そして、後世まで試験の意図が引き継がれるようにと、試験地内に説明文を刻んだ石標が設置されました(図1a, b)。 このような長期の実験は、研究者一個人では成し遂げることができません。組織として調査地を管理し、知見を積み重ねていける大学演習林のような環境を活かした研究プロジェクトの一つといえるでしょう。
図 1 千葉演習林モウソウチク開花周期実証試験地。a:試験地の中に設置された石標の表面。b:裏面には試験内容が刻まれている。c:1997年開花の様子(写真は千葉演習林所蔵)。d: 2024年現在の様子。
各地の1世代目のモウソウチクは67年目に開花した

図 2 モウソウチク実生の栽培状況。略称は次のとおり。郷台、札郷:東京大学千葉演習林、田無:東京大学田無演習林、筑波:森林総合研究所つくば本所、若山:若山農場、塩野室:栃木県林業センター、赤沼:森林総合研究所赤沼実験林、多摩:森林総合研究所多摩森林科学園、上賀茂:京都大学上賀茂試験地、粕屋:現・九州大学福岡演習林、富士:富士竹類植物園。小林ら(2024) を一部改変。
この試験地のモウソウチクは、元々は現在の横浜市保土ヶ谷区の民家に植栽された竹林の1株が、1930年に開花・結実したものが由来です(図2)。現地で種子から発芽した芽生え(実生)を採取し、3年間の養苗の後、1934年に千葉演習林に実生2株が植栽されました。この時、同時に千葉演習林の実生の兄弟にあたる実生たちが、東京大学田無演習林、森林総合研究所、京都大学上賀茂試験地等に植栽されました。そして、千葉演習林の実生を含むそれらのほとんどが1997年、すなわち発芽から67年目に開花しました(図1c)。
現在も各地に受け継がれる2世代目のモウソウチク
千葉演習林の試験地では、1997年の開花後に落下した種子が発芽し、現在は2世代目の実生が生育しています(図1d)。67年という開花周期が確かであれば、次回の開花は2064年になると予測されます。今後も千葉演習林では獣害対策の柵の維持や適切な間伐等を行って試験地を管理していく予定です。 では、兄弟たちの試験地は現在どのような状況なのでしょうか。私たちは、試験地の経緯や栽培記録を文献や聞き取り調査によって整理し、それらの情報を基に各地の植栽場所を実際に訪れて調べました1)。その結果、約100年前に始まった1世代目の試験地は全国10ヵ所で実施されたことが分かりました(図2)。そして、その一部の試験地は途中で消滅したり場所が不明になってしまったものの、7ヵ所の試験地では発芽からおよそ67年目にあたる1997年前後に千葉演習林の試験地と同様に開花したことが分かりました。さらに、2世代目にあたる実生は植物園等へ移植されるなど、さらに植栽場所を増やし、現在も竹林として維持されていることがわかりました。いくつかの試験地では千葉演習林と同じように試験地の由来を記した石碑や看板も現存していました。 本調査の結果、全国各地で2世代目のモウソウチクが今も生存していることが確認できました。これらの竹林は、100年前から続く研究のバトンを次世代へと繋ぐ貴重な存在です。これからも各地で維持されていくことが期待されます。 なお、今回ご紹介した67年という開花周期は特定の実生由来の系統に関するものであり、モウソウチク全般に当てはまるものではありません。全国に広く分布するモウソウチクは日本に移入されて300年近く経過していますがまだ大規模な一斉開花は起こっていませんので、今後も注視していく必要があるでしょう。
引用文献
1) 小林慧人・西山典秀・杉本恵里子・柏木治次・若山太郎・久本洋子(2024)「三百年計画, 竹の開花年限に関する実験」の過去から現在まで:実生起源のモウソウチクにおける長期植栽試験の実態.森林総合研究所研究報告,23:135-151.