【研究紹介】過密ヒノキ人工林の切置き間伐が表面流出量に及ぼす影響   

ファラナク・モイン(森林流域社会環境学研究室 生態水文学研究所)

※本記事は2025年11月10日発行のニュースレターmorikara6号に掲載されます

過密ヒノキ人工林で表面流出が起きやすい理由

 愛知県で最も面積が大きい豊田市の約70%は森林に覆われており、その多くは丘陵や山地に広がっています。そして、その森林の約半分を人工林が占めています。矢作川の上流域の森林のおよそ半分が豊田市の森林であり、これらの森林は地域の水資源を調節するうえで重要な役割を果たしています。2000年9月11日に秋雨前線と台風14号の影響による集中豪雨(東海豪雨)で、多大な被害が出ました。その後、森林ボランティアが中心となって「森の健康診断」が行われ、矢作川上流域の森林の約7割が過密状態の人工林に覆われていることが明らかになりました。これらの人工林では林冠が閉鎖し、林床までほとんど光が届きません。その結果、下層植生は乏しく、地表の大部分がむき出しの状態になっています。このような条件では、大雨の際に雨水が地表を直接流れやすくなり、斜面から急速に水が流れ出して渓流や河川へと流れ込む場合があります。

対策としての切置き間伐

 2015 年、豊田市と東京大学は「水源かん養機能モニタリング研究」という10年間の受託研究を開始しました。この研究では、過密ヒノキ人工林で間伐・皆伐前後の水源かん養機能の変化を調べています。その調査の一つが「表面流出量の観測」で、雨水が地中に浸透せずに地表を直接流れる量を測るものです。表面流は大雨時の洪水や土壌浸食の要因となるため、間伐などの処理がどのように影響するかを調べました。過密ヒノキ人工林の同じ斜面に三つの試験区を設置しました。T1区は間伐を行い伐倒木を林床にランダムに残した区、T2区は伐倒木を等高線に沿って配置した区(切置き間伐)、C区は間伐を行わない対照区です。2016年から2021年まで表面流出を観測し、2019年初めには両処理区で約40%を間伐しました。豊田市では伐倒木を運び出さずに林内に残置することを伐り捨て間伐ではなく切置き間伐と呼んで災害軽減策の一つとして推進しています。

これまでにわかったこと

 これまでの観測では、間伐前は三つの試験区で表面流出量に大きな差はありませんでした(図1、2)。しかし間伐後、二つの処理区では対照区のC区よりも表面流出量が少なくなりました。とくに伐倒木を等高線に沿って配置したT2区では、間伐後1年目から表面流出量が大きく減少し、減少した状態が少なくとも3年間維持されました(図1、2)。これらの結果から、伐倒木を等高線に沿って配置することで、間伐後しばらくの間、表面流出量を減少させることがわかりました。このような結果が得られた理由としては、間伐と伐倒木の残置を組み合わせることで、雨水が地面にしみこむ時間が長くなることが考えられます。とくに伐倒木を等高線に沿って並べることで、地表を流れる水の勢いをおさえ、水が土にしみこみやすくなる効果があると考えられます。このような仕組みによって、表面流出が減少した可能性があります。

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図1 間伐前後におけるT1・T2・C区の年間表面流出量

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図2 間伐前後におけるT1・T2・C区の月別降水量と表面流出量(Farahnaketal., 2023 の図を一部改変)

今後の展望

 本共同研究は、本地域における降水、表面流出、および森林管理の相互作用について貴重な知見をもたらしました。調査結果から、切置き間伐によって地表被覆が増加し、伐倒木が障壁として機能することで表面流出が抑制され、土壌への浸透が促進され、地下水涵養が高まることが示唆されました。地下水は、降水量が少ない時期でも河川流量を維持するうえで重要な役割を果たしています。これらの成果は、他地域の森林管理にも有益な情報を提供するとともに、人工林が持つ水文機能の理解を深めるものです。今後は、追加の間伐や森林床の状態維持に向けた新たな取り組みを含めた森林管理方針の調整について、地域の関係者と連携しながら慎重に検討を進める必要があります。継続的なモニタリングとデータ分析に基づく議論を通じて、科学的根拠に基づき、地域の要望や環境目標に沿った管理方針を策定していくことが期待されます

引用文献

Farahnak et al., 2023. https://doi.org/10.3390/su151914124