【研究紹介】タケ類の一斉開花を制御する花成遺伝子を探る
久本 洋子(森林圏生態学研究室/千葉演習林 助教) |
研究内容 |
タケ類は地下茎によって短期間で容易に再生するため、持続可能な有用資源として産業や環境保全への貢献が期待される反面、各地で放置竹林の拡大が問題視されています。一般に、タケ類は数十年に一度、一斉開花・枯死するという特異な生活史をもちます。めったに開花しないため交配によって新たな優良品種を作出することが困難です。また、日本列島の冷温帯の林床優占種であるササ属植物では、その一斉開花枯死が森林の天然更新のきっかけの1つとみなされています。 一斉開花・枯死に関する生態学的研究はこれまでに数多く報告されています。その結果、タケ類の開花挙動は種によって大きく異なり、全てのタケ類が一斉開花・枯死するわけではないことが明らかにされています。例えば、マダケは不稔で結実せず実生が生じない代わりに、開花稈の地下茎からタケノコが生じて群落を回復させました。ササ属の一種・ミクラザサでは、実生に加えて、未開花稈や開花後に再生した稈が混在して群落を回復させました。 タケ類の一斉開花には周期性があることも報告されています。モウソウチクでは、2系統における播種実験により67年周期が、熱帯性タケ類メロカンナ・バッキフェラは文献に基づく現地調査により48年が確認され、ミクラザサでは聞き取り調査から60年周期と推定されています。さらに、モウソウチクの開花年限調査は千葉演習林を含む全国8ヶ所の研究機関で実施されており、同じ親由来の株が1997 年に一斉に開花しました。ミクラザサの実生の自生地外への移植実験においても、移植株が一斉に同年に開花しました。このように異なる環境下においても開花時期が一致したことから、タケ類の一斉開花現象には外部環境の影響よりも内在的な遺伝因子が強く関与していることが推察されています。 私たちは、2004 年にマダケ属の一種・モウハイチクの一斉開花に、2008年にはオカメザサ属の一種・トウオカメザサの一斉開花に遭遇することができました。そこで、2種の一斉開花から回復過程までの追跡調査を行うとともに、葉や花序といった各部位を毎年採集し、植物の開花をコントロールする花成遺伝子がいつどこで働いているかを調べました。 モウハイチクは一斉開花後、稈の大半が枯死しましたが、生残した地下茎から数本の細い稈が出現し、部分開花を続けました。また、実生に加えて、栄養繁殖を行う稈の出現によってやぶが回復しました。一方、トウオカメザサは一斉開花後、花序には穎果が全く生じませんでした。そして、開花稈は枯れることなく翌年以降も開花を続けました。翌年からは枝の節と稈の基部の2ヶ所に花序が生じ、わずかな穎果をつくったものの、発芽はしませんでした。 この過程において花成遺伝子FTとTFL1相同遺伝子の発現量を、定量的リアルタイムRT-PCR法によって解析したところ、シロイヌナズナやイネで報告されている発現パターンと似ていることがわかりました。すなわち、モウハイチクとトウオカメザサのFT相同遺伝子は葉において高い発現量を示したこと、花序が蕾から満開になるにつれFTの発現量が高くなること、TFL1相同遺伝子の発現は実生の茎、腋芽、タケノコといった初期の栄養繁殖器官にのみ検出されたことが示されました(図1)。 以上の結果から、開花挙動の異なる2種のタケ類において、2つの花成遺伝子が一斉開花に関与していることが示唆されました。今後さらにタケ類の一斉開花枯死メカニズムを明らかにすることにより、開花・枯死をコントロールすることができ、新品種を作出や放置竹林の抑制に利用できる可能性があります。 |
図表 |
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発表文献 |
Hisamoto Y, Kobayashi M (2013) Flowering habit of two bamboo species, Phyllostachys meyeri and Shibataea chinensis, analyzed with flowering gene expression. Plant Species Biology 28:109-117. |