【研究紹介】隣の似たような渓流には同じ量・質の水が流れる?

浅野 友子(森林流域管理学研究室/研究部 講師)
2010年9月27日

研究内容


 伐採などの森林管理が下流の河川に及ぼす影響を野外での研究によって評価する際には、「流域」(尾根で囲まれた領域 図1)を単位とし、流れ出す水の量や質の変化を調べます。渓流の最初の一滴が生まれる地点の上方にある斜面を0次谷流域と呼びますが、そういった水を集める面積(流域面積)が小さい流域からの流れが合流しあってより大きな流域からの流れとなります(図2)。流域から流れ出す水の量や質は、流域内でおこる水循環や土壌―植生間の養分循環の変化などを反映する総合的な指標です。これは、人間の体を流域にたとえると、尿検査をするようなものでしょうか。これまで地形、地質、植生などの条件が同じ流域からは基本的には同じ量・質の水が出てくると考え、となりあう流域の一方で伐採などを行い、手をつけていない方の流域と比較することで伐採などの影響を明らかにしてきました。

 本研究では、地形、地質、植生などがほぼ同じ条件のとなり合う小さな流域(例えば図1-1のような)からは同じような量・質の水が流れてきているのか?という基礎的な疑問を明らかにするために、地形、地質、植生などがほぼ一様な滋賀県田上山の源流域(4.27km2)で調査をおこないました。調査は水量の安定している雨の降らない日に渓流沿いを歩き回り、計96箇所で1~4回ずつ水量や水質を調べました(図3)。

 その結果、面積の小さい流域、特に0次谷流域では、たとえ地形や地質、植生などの条件が同じでも、場所によって流れる水の量や質が異なることが明らかとなりました(図4)。一方で、その下流にあたる面積がおよそ0.1~1.5 km2より大きな流域からの流れでは、場所による違いが小さいことがわかりました。

 この結果は、例えば面積0.1 km2以下の小さな流域を用いて伐採などの影響を評価する際には、流域がもともと持つ違いを考慮する必要があることを示すと同時に、簡単な水量・水質の調査で流域間の違いを評価することができることを示します。また、0次谷流域は面積が小さいにもかかわらず、その面積以上に下流のより大きな流域を流れる渓流の水量や水質に大きく影響していることもわかりました。

 

図表


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<図1>黄色い点線で示した尾根に囲まれた部分が、基本単位である流域。流域に降った雨は、基本的にはに集まってくる。

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<図2>小さい流域(黄色点線)から流れ出る水が合流して、より大きな流域(赤線)からの流れになる。

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<図3>調査地の場所と調査地点

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<図4>調査した渓流の流域面積と溶存成分濃度との関係

発表文献


Asano Y et al. (2009) Spatial patterns of stream solute concentrations in a steep mountainous catchment with a homogeneous landscape. Water Resources Research, 45, W10432, doi:10.1029/2008WR007466.