【研究紹介】トドマツの遠交弱勢を証明:木本としては世界的にも2例目

後藤 晋(森林圏生態学研究室/研究部 准教授)
2010年3月10日

研究内容


演習林には設定から長期間が経過した貴重な試験地が多数あり、本来の目的を終えたと思われている試験地でも、切り口を変えれば新しい知見が生まれることがあります。北海道演習林には、大麓山の高標高域(標高1100-1200m、以下「高」)と低標高域(530m、以下「低」)に自生しているトドマツを相互に交雑した試験地が1986 年に設定されていますが、その結果はほとんど報告されることもなく"眠った"状態となっていました。私たちは、設定から25 年が経過した時点で本試験地の毎木調査を行い、「高木種において遠交弱勢(1) が起こりうるのか?」というテーマについて調べました。その結果、樹高と胸高直径は、低×低>低×高≒高×低>高×高の順になり、低×高の交雑タイプが中間的な形質を示しました(写真1)。さらに、シミュレーションを行ったところ、交雑タイプは低×低と高×高の平均値よりも有意に低く、遠交弱勢が生じていることが明らかになりました(図1)。草本で遠交弱勢が生じた例は数多くありますが、高木種で遠交弱勢が示されたのはフタバガキ科樹木についで世界的にも2 例目で、25 年もの長期間のデータでこれを示したのは世界初です。このことが評価され、本研究成果は、国際誌「Restoration Ecology(復元生態学)」に掲載されました。

[用語説明]

(1) 同種内の遺伝的に異なる個体や集団が交雑することにより、雑種第一世代や雑種第二世代以降のパフォーマンス(適応度)が低下する現象

 

図表


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<写真1>交雑試験地の様子(左右が低×低、真ん中が低×高)

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<図1>交雑タイプ別の樹高と胸高直径。低×低と高×高の平均値(太線)から有意に低い場合(遠交弱勢)に*がついている。

発表文献


Goto et al. (2009) Outbreeding depression caused by intraspecific hybridization between local and non-local genotypes in Abies sachalinensis. Restoration Ecology, DOI: 10.1111/j.1526-100X.2009.00568.x