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森林環境税は森を救えるか-第20回日本の森と自然を守る全国集会より-

森林環境税は森を救えるか-第20回日本の森と自然を守る全国集会より-

東京大学演習林愛知演習林ブックレット・シリーズ2
税込1,580円 A5判 220ページ 2008年8月発行

蔵治光一郎 編集

愛知演習林は、「人工林、里山林、都市の緑 -森と緑づくりのための行政、市民、研究者の協働-」をテーマとした「第20回日本の森と自然を守る全国集会」を開催し、森林環境税について議論しました。本書はこれらの議論をとりまとめたものです。

森林環境税とは,森林の整備,保全等に使途を限定した財源として各県が創設した,県民税に上乗せして課税する新たな税の制度の総称です.2003年に高知県で創設されて以降,2008年4月までに29県で創設され,愛知県でも2009年4月からの課税がすでに決定しています.森林は,所有者の財産であると同時に,広く国民が共有する財産であると認識されてきました.特に森林の水源涵養機能は古くから認識され,明治時代には下流の水資源を利用する団体等が上流の森林を購入し,管理する例がみられました.1980年代には国レベルでの水源税構想が議論され(実現せず),1995年には愛知県豊田市で森林整備を目的とした水道水源保全基金が設置され,水源の森をみんなで守るための手法として注目されました.これに対して森林環境税は,水源涵養機能だけでなく,森林の公益的機能はすべて県民が等しく享受していると位置づけ,全県民から等しく税を徴収して森林整備等の足しにしようとする制度です.しかし現実の森林を巡る状況,特に人工林が手入れ不足で放置される問題は,林業と公益的機能を分離して論じたり,所有権が設定されている森林をみんなの財産だと位置づけて解決できるほど単純な問題ではないということも,次第に明らかになってきています.現場の実態と問題の本質を明らかにせずに,県民から広く集めた税金を投入しても,問題の本質的な解決につながるとは限らず,せっかくの税金が無駄になってしまうかもしれません.
このような問題意識のもと,東京大学愛知演習林は,2007年12月8~10日に「人工林,里山林,都市の緑―森と緑づくりのための行政,市民,研究者の協働―」をテーマとした「第20回日本の森と自然を守る全国集会」を開催し,基調講演,パネルディスカッション,第2分科会及び総括集会にて,森林環境税について議論しました.本書はこれらの議論をとりまとめたものです.日本の森を守ることに高い関心を持っている方々が全国から集まり,白熱した議論を繰り広げています.すでに森林環境税を導入している県,導入を検討している都道府県で,森林環境税を納税されているすべての県民の方に,自分の納めている税金が何に,どのような仕組みで使われているのかに関心を持っていただくために,本書が役に立つことを願っています.

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