所長挨拶(2018-2019)

生態水文学研究所は、東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林に属する7つの地方演習林のひとつで、1922(大正11)年9月に愛知演習林として発足し、2011(平成23)年6月に現在の名称に改称しました。4年後の2022(令和4)年には設置100周年を迎えます。

 このように、生態水文学研究所は、まもなく100年を迎えようという歴史のある演習林なのですが、東京大学の地方演習林には、124年の歴史をもつ千葉演習林を筆頭に既に100年を超えた演習林が3つもあり、生態水文学研究所はちょうど真ん中の4番目です。さらに、生態水文学研究所が管理する森林は1,292haでこれも東京大学の7つの演習林の中では4番目、配置されている教員数も技術職員数も4番目、といろいろな点で“7人兄弟の真ん中の4男”という立場を確立(?)しています。その一方で、7つの地方演習林のうち“最も西にある演習林”であり、ほとんどはげ山状態から自然回復してきた特徴ある演習林です。そして世界的にも貴重な河川流量の長期観測データを持つとても“個性的な4男”でもあるのです。

 ところで、研究所の名前になっている「生態水文学」は“生態系における水・栄養塩・土壌・土砂との相互作用の解明”を主要な対象とした学問分野です。そして、生態水文学研究所では90年以上継続してきた河川流量の長期観測データや20年前からはじめた森林の構造や成長をモニタリングする長期成長プロット調査データ等を活用し、“森林地域を対象とした生態水文学の教育と研究”を行っています。

 一方、生態水文学研究所が管理する森林は、愛知県の瀬戸市と犬山市、静岡県の湖西市の3市にあります。いずれも町に近いところにある“都市近郊林”であり、地域社会との関わりを無視しては語れない立地といえます。そこで、生態水文学の研究から得られた知見を活用して、森林生態系が持つさまざまな“生態系サービス”の社会的活用というような“人間と森林との関わり”に関する教育と研究にもその活動を広げ、研究成果を元にした社会連携活動も行っています。

 我々は、このような特徴を持つ生態水文学研究所の活動目標すなわち“ミッション(使命)”を(少し難しい言葉になりますが)“森林生態系における水・栄養塩・土壌・土砂との相互作用、森林の生態系サービス、および水・栄養塩の循環や土壌・土砂との相互作用、森林の生態系サービス、および水・栄養塩の循環や土壌・土砂の移動と人間との歴史的、社会的相互関係を明らかにするための自然科学研究、人文・社会科学研究、および東京大学学生・大学院生への教育を推進すること”と定めています。

 生態水文学研究所のスタッフは、このミッションを達成すべく、長期にわたって蓄積したデータと最新の科学的知見や解析・評価手法を融合して研究成果を挙げ、その成果を教育を通じて次世代を担う国内外の若者達に伝え、また出版やイベントを通じて社会に発信していきます。そして、国内外の多くの学生さんや研究者のみなさんに教育・研究の場としてどんどん利用していただき、我々と一緒に新しい知見を生み出していただきたいと思っています。多くの方々のご利用をお待ちしております。

2018年4月
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
生態水文学研究所長
石橋整司