講演要旨

(AS14)

東大演習林における民間資本による
ネイチャーポジティブ活動と研究の連携

鎌田 直人

東京大学 大学院農学生命科学研究科 附属演習林 千葉演習林
kamatan@uf.a.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林(以下、東大演習林)は、国内7カ所に計約33,000ヘクタールの森林を管理している。現在、これらの森林は、手入れ不足の人工林およびシカの過密化を主因とする生物多様性の危機に直面している。東大演習林では、これらの課題解決に向け、民間資金を活用した実証研究を推進している。北海道演習林や秩父演習林では、針葉樹人工林から天然林への誘導に取り組んでいるが、本発表では、特に、秩父演習林におけるシカの食害に伴う植生衰退が、渓流水の窒素動態に及ぼす影響について考察する。秩父演習林内を貫通する道路が1997年に開通して以降、渓流水中の硝酸イオン(NO3-)濃度に顕著な上昇が確認された。当初、この傾向は自動車由来の窒素酸化物(NOx)排出が原因であると考えられていたが、2000年代半ば以降シカの採食による下層植生の著しい衰退が目立つようになった。シカ排除柵の内外における植生比較調査の結果、下層植生の被度および種組成に明確な差異が認められた。これらの影響を定量化するため、各植物分類群の窒素同化速度の指標として、硝酸還元酵素活性(NRA)を測定した。その結果、柵内の群落レベルにおける推定NRA値は、柵外と比較して5.6倍高い値を示した。さらに、道路から離れた地点の渓流でも硝酸濃度の上昇が確認されたことは、交通由来の窒素沈着のみならず、シカによる植生喪失が窒素流出の主要な要因であることを示唆している。現在、調査対象となった2つの小流域において、計30基(各流域15基)のシカ排除柵を設置し、2013年以降、多角的な視点から生態系の回復過程を継続的にモニタリングしている。

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