(P06)
G.G.T.チャンドラティラケ1,2*・田中 延亮1/・尾張 敏章1・小林 徹行1・及川 希1
1東京大学大学院農学生命科学研究科北海道演習林
2スリジャヤワルダナプラ大学林学・環境科学学科
*thilakawansha@sjp.ac.lk
北海道の森林生態系において、在来亜種であるエゾシカ(Cervus nippon yesoensis)は不可欠な構成要素である。しかし、近年の個体数増加は、森林更新、農業との境界域、および生物多様性の保全に対して深刻な圧力を与えている。生物多様性クレジットやネイチャーポジティブの枠組みにおいては、生態学的リスクと管理効果を定量化し、空間的に明示した指標が不可欠であり、野生動物の長期モニタリングデータはその重要な基礎的な証拠となる。本研究では、東京大学北海道演習林(UTHF)の固定ルートにおいて、2007年から2025年までの毎年10月(繁殖期)に実施されたライトセンサス調査の結果を解析した。相対的な生息密度の指標として遭遇率(個体数 / km / 晩)を用い、時系列的推移、環境選択性、個体群のデモグラフィック構造、および管理上の重要性を持つ空間パターンを評価した。解析の結果、平均遭遇率は有意な非線形(二次関数的)な時系列パターンを示したが(p = 0.045)、調査期間全体を通じた有意な線形的増減は認められなかった(p = 0.293)。これは、個体群がトレンドをもって変化しているのではなく、長期的に安定していることを示唆している。また、生息環境によって遭遇率には顕著な差が見られ、農地隣接ルート(平均 5.31)は森林内ルート(平均 1.65)と比較して有意に高値であった(p = 0.001)。個体数パターンを管理に直結する指標へと変換するため、本研究では「遭遇率」に「生息環境重み付け係数(農地 1.5、森林 1.0)」を乗じた「相対的生物多様性リスク指数」を定義した。これは、森林と農地の境界域における生態学的・社会生態学的な感受性の高さを反映したものである。ルート単位の解析では顕著な空間的不均一性が明らかになり、特定の農地隣接ルートが累積個体数(1,585個体)およびリスク指数の大部分を占めていることが判明した。デモグラフィック構造は長期間安定しており、加入率は年次個体数変化と相関しなかった(r = 0.052)。以上の知見は、標準化された長期モニタリングがいかに生物多様性クレジットの設計、空間的な優先順位付け、および順応的管理に重要であるかを示している。特に、ネイチャーポジティブな成果を促進するためには、リスクの高い境界域を標的とした管理の重要性が強調される。
(翻訳 鎌田直人)
© 2026 第二回アジア生物多様性クレジットアライアンス国際シンポジウム