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日本学術振興会人文社会科学振興プロジェクト
「青の革命と水のガバナンス」研究グループ
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第16回研究会
日時:2006年11月2日(木) 18:30〜20:00
会場:東京都・弁護士会館10階 1002室
共催:オーフスネットhttp://www.aarhusjapan.org/
  ※オーフスネットの勉強会を兼ねています・第二東京弁護士会「環境法研究会」
開催趣旨
「河川整備基本方針」に続く「河川整備計画」策定における各水系での試行錯誤が始まっている。日本最大の流域面積を持つ利根川水系では、今年1月に方針が決定し、現在、河川整備計画に不可欠な住民参加のあり方への模索が始まっている。河川法第16条の2第4項「関係住民の意見を反映させるために必要な措置」はどうあるべきか、利根川水系などを題材に考える。

出席者(敬称略)
蔵治 光一郎 東大・愛知演習林 講師
遠藤保男 利根川流域市民委員会
高橋ユリカ ジャーナリスト
大道 公秀 千葉大学医学研究院(社会人大学院生)
黒瀬総一郎 東京大学大学院新領域創成科学研究科院生
井上 祥一郎 伊勢・三河湾流域ネットワーク  
松岡 勝実 岩手大学人文社会科学部
大塚 健司 アジア経済研究所
武田真一郎 成蹊大学
中下裕子 オーフス・第二東京弁護士会
磯野弥生 オーフス・東京経済大学
まさのあつこ オーフス・ジャーナリスト
三枝 義幸 全水道
岡田幹治 ジャーナリスト
大橋さやか 第二東京弁護士会
標 博重 オーフス
久米谷 弘光 株式会社ノルド社会環境研究所
三木由紀子 情報公開クリアリングハウス
大久保規子 大阪大学大学院法学研究科
梶原けんじ 東京大学大学院生
島崎 武雄 樺n域開発研究所・利根川流域市民委員会
高林裕也 環境省水環境課
西島和   羽野島法律事務所
他2名
●青の革命説明
蔵治光一郎(東大・愛知演習林

話題提供者

遠藤保男
(利根川流域委員会)
●利根川水系河川整備基本方針の問題点と河川整備計画の策定に求める市民参加のあり方
当日パワーポイント PDFファイル64KB

蔵治光一郎 (東京大学愛知演習林)
●一級河川における基本高水の変遷と既往最大洪水との関係
当日パワーポイント PDFファイル104 KB

高橋ユリカ (ジャーナリスト)
●川辺川の事例からコメント 
当日パワーポイント PDFファイル3.23 MB

質疑応答

Q:基本高水の改定の仮説として、ほかにも考えてみるべきことが2つある。
1つは、水害訴訟の問題。73〜74年が引き上げのピークというが、その前年の72 年頃、水害訴訟はピークを迎える。ピークというのは、1年間に提起された訴訟の数の問題。建設省にしてみれば、訴訟として訴えられる水害が激化したことは「今の基本高水は過小である」という認識に当然結びつくであろうし、それは例えば大蔵省との予算折衝においても、交渉材料や説得力になる。
もう1つは、「河川砂防技術基準」の話。73〜74年のピークとは前後するが、1976年に「基準」は改定されている。その時、1958年版にあった「最小経費原則」が削除される。基本高水と言うよりは、計画高水量とのバランス、洪水調節容量の話になるが、これが膨らみうるような書き方に変わっている。1976年基準が改定される前から、その基準に基づく高水処理計画が実施され、つまり基準はそうした実験を経ての書き換えであるとすれば、73〜74年頃に引き上げのピークが来ることと整合性が付く。研究の発展として、是非検討して頂きたい。
 蔵治:可能性ある。皆さんの協力が必要で一緒に研究をやっていただきたい。


Q:関連質問。自分でもやってみなければと思いつつやってみていないのだが、フルプランやウォータープランの改定と因果関係がある可能性はないか?
 蔵治:縦割りで治水と利水を分けて考えたが、ありえるかも。今後の 検討課題かと思う。

Q:日本の河川事業での状況を国際的な観点から見るとどんな状況だと?
大久保:オーフス条約は環境問題における情報公開と市民参加と司法へのアクセスに対する条約だが、河川についての参加に限っていうと、日本でも(法律上の)上流からの市民参加は取り入れられてきている。
法律ができるとまずできるのが政省令だが、昨年の行政手続法の改正で、これらのいわゆる行政立法ができる段階でパブリックコメント制度ができたのは大きい。
また、国土総合開発法が国土形成計画法に改正されて、国土形成計画に市民参加規定が入っている。
社会資本整備重点計画法に基づき、社会資本整備重点計画を作ることになったが、ここでもパブコメの制度が入った。その点ではいわば、上からは法定されてきている。
しかし河川法では、さきほど出てきたように「必要とあらば措置」 と裁量が入る。ほかの公共事業についても、抽象的な計画段階では市民参加が法定されているのに、事業が決まってくる段階での一番肝心の参加規定がポコっと抜けていて、事業アセスでまた参加が法定されている。一番ネックになるところに、市民参加規定がないというところが、問題だと思う。

Q:97年以降の法律の改定が河川法に振り戻っていないと。
 大久保:さらに多目的ダム法などは河川法から見ても時代遅れで、取り残されているという感じ。

Q:吉野川は?
 武田:吉野川では、市民団体が国交省河川局長と会い、「徹底した情報公開と住民参加で整備計画を作る」と約束をした。地方整備局にも住民参加の委員会を作って欲しいと何度も交渉に行った。担当者は分かりました、そういう方針でいくと口では言ったが、結局、聴きおくだけのものになってしまった。そうすると河川法の住民参加の規定とは何なのかと考える。

Q:今日の事例は参考になった。法律ができたというのはどれくらいの意味があるのか。いくらできたって形を整えているだけじゃないかという印象がある。でもやっぱり法律を変えることによってやっぱり世の中は変えていくのか。
 大久保:法律の立場から言うと、法律ができたからと言って一夜にしてすべてが変わるわけで はないが、どのように実効的な規定を作り,その法律をどうやってフルに使うかということが問題だ。オーフス条約では、参加が言いっぱなしで終わらないようにするために、きちんと検討されなかった場合、それを司法に持っていって審査してもらうことができるというふうになっている。つまり、ヨーロッパでは、司法へのアクセス権が、参加権を保障するために不可欠の権利であるというふうに考えられている。けれども、日本では、手続的参加権への関心は高いが、司法へのアクセス権についてはまだまだ関心が低い。実効性確保のため、一体として保障しなければならないのではないか。
じゃ、イチイチ訴訟を起こすのかといえば、訴訟を起こすのは大変なので、ヨーロッパでも、訴訟の数はそれほど多くない。でも,訴訟を起こせるという仕組みがあるということは大きくて、訴訟を起こされたくないから、NGO等と事前にきちんと合意形成して、環境配慮をするということをかなりやる。法律ですべては解決しないが、法律として保障すべきものがあると思う。
河川についても、ヨーロッパでは水枠組指令というものができている。それに基づいて流域計画を立てる場合には、どういうふうに市民参加をするのかなどのスケジュールを3年前に公表しなくてはならず、パブリックコメントの期間は6ヶ月。そのあたりも全然違う。
 中下:私も法律の立場から。法律に書く必要はあると思う。ただ今の書き方はたとえば先ほどの社会資本整備計画も環境基本計画も、そこに書いてあっても実は法律ではない。法的な参加権の保障に至っているのは極めて少ない。パブコメは聞き置くだけで縛りはかかっ ていない。法律で書いてあっても抽象的なので、どういうメンバー でどういう形で選んで入れなければいけないのか意思決定の場にパブコメだけじゃなく、決定する場の中に住民代表、NGO代表、どういう専門家を入れていくのかを入れるのか、反対意見のあるものは必ず入れるとか、そういう枠組みをもっと具体的に盛り込んでいくようなことをやっていかなければいけない。
市民参加はいろいろなジャンル別にやろうとしているし、その方向は変わっていかない、市民参加を進める方向にあると思うが、ジャンルごとに相当差がある。もう少し連携をとって、具体的な法律を作るような運動に高めていかなければと思っている。法律に書くことは重要だと思っている。

Q:一つの直接決定に関わる市民参加と、自分たちが意見を主張、反映させる市民参加について、どういう方向性でやるべきだろうか。パブコメ、PI、淀川流域委員会のようなもう一歩先のようなものがあるが。
 遠藤:制度的には最終的には住民投票だが、そこまでのプロセスが大事だ。河川法の中では必要なら住民意見を反映する措置を取らなければならないとなっているが、措置であれば公聴会でもなんでもいいということになる。河川管理者に任せられていて、自分たちで決 めることはできないことが問題。

Q:それに対しどういうやり方であれば満足がいくか。
 遠藤:異論がある側と行政が科学的(社会科学を含む)データに基づいたディベートな科学論争を行う場が確保されるならば、問題点が明らかになり公平な情報も提供される。 最終的に判断をするのは県民だと思う。関心と的確な情報を持ち合わせた状態で、住民投票につなげるのが一番よいのではないか。しかし国でも県でも、現在、きちんとした話し合いに(行政が)乗ってこないところがほとんど。河川法の16条の基本方針では住民参加をうたっていない。16条の2では参加の措置が河川管理者の裁量となっている。 ディベートの話し合いの場を法的に保障されていない。

Q:環境省さん戦略アセスについて宣伝を。

A:1997年にアセス法ができたが制定当時から早い段階の環境アセスが必要だ、事業アセスは例えば道路はルートが決まっているので回避することができない。米国やEU加盟国でも戦略アセスが始まっている。第三次環境基本計画がこの4月にでき、それを受け今年の8月に局長の諮問の研究会を立ち上げた。年度内にガイドラインを取りまとめたい。ガイドラインの作成の中でいろいろな方の意見を聞く機会を設けたい。

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