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日本学術振興会人文社会科学振興プロジェクト
「青の革命と水のガバナンス」研究グループ
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第14回研究会
日時:2006年6月19日(月)15:00〜18:30
会場:東京外国語大学本郷サテライト3F
共催:アジア経済研究所「流域のサステイナブル・ガバナンス」研究会
第14回研究会は、アジア経済研究所「流域のサステイナブル・ガバナンス」研究会と共同開催で行われました。※なお本研究に先立って行われたアジア経済研究所「流域のサステイナブル・ガバナンス」単独の研究会に「青の革命」より4名が参加いたしました。
参加者の感想を見る

開催趣旨:


出席者
:(敬称略)
蔵治光一郎           東大・愛知演習林 
松本充郎              高知大学人文学部
溝渕卓生
              高知県企画振興部企画調整課 物部川の明日を考えるチーム
渡邊法美              高知工科大学フロンティア工学コース
倉田洋寿              高知工科大学フロンティア工学コース
大塚健司        アジア経済研究所
山田七絵        アジア経済研究所
遠藤崇浩              総合地球環境学研究所
益田信一            独立行政法人 国際協力機構
五名美江         東京大学大学院農学生命科学研究科
石森康一郎           ()バリュー・フロンティア
井上祥一郎         伊勢・三河湾流域ネットワーク
大杉奉功            財団法人 ダム水源地環境整備センター
重松貴子        ラフティングガイド
藤田香         桃山学院大学
寺尾忠能        アジア経済研究所
片岡直樹        東京経済大学
溝口隼平              東大・愛知演習林

内容
1.青の革命研究会+質疑応答
2.アジ研研究会+質疑応答
3.総合討論



●青の革命説明
東大・愛知演習林 蔵治光一郎 
当日発表PPT資料  PDF55.4KB

●話題提供者
1−1.「物部川における流域環境の変化と再生への取り組みについて」

高知大学人文学部 松本充郎・高知県物部川の明日を考えるチーム 溝渕卓生
環境変化の背景をなす法制度と物部川における河川利用・河川環境変化の概要に触れ、物部川漁協の活動から始まった「物部川21世紀森と水の会」による流域環境再生に向けた活動を紹介。

松本:サステイナブル・ガバナンス(持続可能で、政府以外の市場・流域の各種機構を含めた秩序形態をイメージ)
どういった管理をしていくのかと言うことについて、事例紹介、法学の立場よりの見解
流域ガバナンスで適用出来るのは、河川法だけではない。
○国家賠償法2条(憲法17条から)事例として大東水害訴訟、多摩川水害訴訟
○憲法29条3項 私有財産権 損失補償
などがある。住民はほとんどの水害訴訟で敗訴する。事業は進む。
法制度の基本構造としては、日本では水害訴訟、漁業補償という形で現れてくる。
「適法」の事業で補償が必要になるようなことが起こる。その中で、漁業補償→漁業資源増殖義務=放流であった。
物部川の流域ガバナンスの背景
 1.野中兼山が初期の改修工事
 2.電源開発の発電所が3、県営発電所3で6つの発電所、3つのダムがある。
 3.流域の環境の変化
流域環境変化を受け1990年より物部川漁協が活動を始める。早い時期から。
   産卵場の造成
   産卵保護区の設定など
住民・産業団体・行政を巻き込む活動へ発展。
最近の物部川の問題
 ○河川渇水
  水利権の更新作業(H18年)
 ○濁水長期化
  H16〜17年の台風以来。ダム上流部の森林崩壊が大きな影響。
結論
○法制度の比較が重要
○水害訴訟・漁業補償が重要
○補償金のつり上げにより漁協が信用を失っていた。
組合員資格規定変更やその他の活動などにより信用回復傾向にある。
○「森」と「水」をシンボルとして住民・行政・産業団体での活動。
当日発表PPT資料 PDF14.9KB

溝渕:「もの明日」=物部川の明日を考えるチームの説明
  ミッションは、行政の縦割り解消を目的とした組織→庁内調整を行うということ。
「住民力」の引きだしと漁業団体のネットワークがつなぎの役を果たす。
高知県下には4つの代表的河川がある。流域全体を擁していない吉野川水系を除く代表3つの川、それぞれ活動に特徴。
四万十川→行政主導
(S58年NHKテレビ放送のころ有名になり、産業としての発展も望めた) 
仁淀川→住民主導
(地元学の手法、お宝探偵団、仁淀川より水質などが劣る四万十が有名であるということへの住民の対抗心)
物部川→農林水産漁業者主導
(漁協は繁殖義務=放流であったが放流だけでは駄目ということより、専門家をコンサル的に使って科学的データに基づく対策を実施)ここが先進的だった。

1−2.「物部川の水利用効率化に関する研究」
高知工科大学フロンティア工学コース 倉田洋寿、渡邊法美
物部川では、様々な環境問題が顕在化しており、それらは内水面漁業の大きな不振を引き起こしている。本研究では、様々な環境問題の中で河川渇水の問題に着目する。なぜなら河川渇水は、濁水や富栄養化などの他の環境問題を深刻化させる引き金となりうるからである。河川渇水問題を解決するために、農業用水から本川への円滑な水融通および農業用水利用の効率化の可能性を検討した。

渡邊:
環境システム工学
プロジェクトリスクマネジメントプロセス
環境経営、北海道での生活経験から、物部川の印象は「コンパクトな山川里海」だとの印象。
酸性雨の研究を経てきて、経験的に確かなものを求める。→「使うモデルによって答えが違う」不確実性のマネジメント手法について。
1、鈍感(ロバスト)なモデルに解があるのでは?
2、先人に学ぶ、みんなで知恵を出す。→複数主体マネジメントプロセス
3、市民型公共事業

倉田:他地域の事例との比較。北上川、印旛沼、熊本の地下水:熊本市地下水研究会

渡邊:少数の被害者→地位向上(漁協が渇水協議会に参加していないなど)
大多数の無関心→どうやって当事者にするか。
流域共通ビジョン(みんながハッピー)になるように。
広告、広報が重要。正しいことが伝わらない。
地域大学としての役割
教育:地元環境サポーター創出→環境経営という講義で物部川一斉清掃に学生を半ば強制的に(笑い)参加させたところ、地域の方々の清掃への意欲が一層高まったという副次的効果もあった。
研究:リスク分析、ビジョン検討
社会貢献:イベント参画、環境ファシリテーター
事業企画例 ロマン竹(ロマンチック)プロジェクト 竹=忘れ去られた資源
たまるかBAG
当日発表PPT資料 PDFファイル60KB  当日発表PPT資料PDFファイル2.18MB版

<質疑応答>
大塚:物部川の主導であった「産業団体」とは何でどういった位置づけか。水利権者が参加しているのか。
松本:漁協・農協・土地改良区・森林組合・住友共電が参加。それぞれが河川に関する権利を持っているわけではない。水利権として明確なものを持っているのが、発電水利の住友共電と農業用水の土地改良区だけ。漁協は損失補償のときのみの権利しかない。森林組合は、「事実として影響を与える団体」ではあるがそもそも権利がない。ゆえに共通項である「森と水」に着目して活動。
遠藤:物部川はどこを手本:参考にしたのか?
溝渕:矢作川がモデルと聞く。
松本・蔵治・溝渕:補足:矢作川はそもそも非常に強力な漁協組合がある。もともとよそのものを、すぐ導入してという性格のものではない。手本にしたという一方向的ものではなく、競い学びあうような相乗的なものとの認識。
溝渕:産業団体と言うことではあるが、3/6の発電所の持ち主である高知県企業局は、発電収入が減るという視点から、県民の財産を守るという意味でも動きにくい。同様に農林水産部も農業従事者の代弁者として動きがとれない。
重松:基本的情報について。3河川の漁獲高について。組合員の構成情報は。収入のうちの入漁料はどのくらいか。
溝渕・松本:古い情報であるが、漁獲高は物部20万トン、四万十313トン、仁淀川149トン。物部川は物流にのせるような漁獲量ではないしアユはおいしくない。個人消費くらいの量。組合員数は減少傾向。16年度は614名だったのが、17年度は556名。一割マイナス。入漁収入は200万と600万の間くらい。組合資格は市町村単位に近年変更。県外の人は入れなくなった。
大杉:物部川の水量は。また主要ダムの完成年度は。
溝渕:手元の古いデータで恐縮だが、低水毎秒4.4トン、平水毎秒8.18トン、豊水毎秒19.45トンくらい。主要ダムの竣工年は、下流から杉田ダム1959年、吉野ダム1953年、長瀬ダム1956年といずれも1950年代。

2−1.「中国河川流域のサステイナブル・ガバナンス−国際協力に向けて」

アジア経済研究所 大塚健司
近年、中国では、河川流水の長期にわたる枯渇(断流)、度重なる洪水、水質悪化など、流域規模で水をめぐる様々な問題が見られる。他方、官民、内外にかかわらず、水問題を解決するための具体的な取り組みが展開されているが、様々な問題に直面している。これら問題を、流域のサステイナブル(持続/維持可能な)・ガバナンスという視点からとらえる試みを示し、日本の経験を踏まえた国際協力のあり方を探る。
@水不足・断流
A自然生態系破壊
1988年洪水→天然材乱伐、湿地減少が原因?
B水利事業をめぐる紛争
怒江、13基のダム建設→NGO・ジャーナリストの活躍
C水汚染・特に飲用水源
2004年7月淮河汚染の帯150km水質汚染に起因する癌。05年11月ベンゼンが松花河に流出。発生から10日後に初めて発表。
流域のサステイナブル・ガバナンス
IWRMを流域で行う。日本の最近の新しい動きが中国に役に立つのでは。
中国の課題
@生態系的価値の内部化
A流域管理:行政が縦割りのばらばら
水利委員会≒地方整備局 データ共有
B費用負担メカニズム
Cステークホルダー参加
中国の変化
@集権化
A分権化
国際協力
 ドナー間面識ない。情報交換の場なし
@法制度改革支援
A資金調達メカニズム
Bステークホルダーの参加拡大。

2−2.「中国における参加型灌漑管理の理念と実態」
アジア経済研究所 山田七絵
農業用水は、中国の水利用の6割以上を占めている。ところが、1980年代以降、灌漑施設の老朽化、管理組織の未整備による灌漑用水の効率性低下が問題視されてきた。90年代初頭の世銀による灌漑セクター支援を契機として、中国政府は農業用水の管理体制改革に着手した。この分野でひときわ注目を集めているのが、施設の建設、維持管理、資金負担といったあらゆるプロセスに水利用者である農民を参加させる参加型灌漑管理である。日本の土地改良区は、参加型灌漑管理の好例として国際的には高く評価されており、JICAの対中プロジェクトにおいてもモデルとされている。本報告では、国際援助プロジェクトの事例を通して、中国における参加型灌漑管理の現状と問題点を整理する。
<レジュメ参考 PDF11KB

<質疑応答>
溝渕:南水北調について
大塚:3つある。東部と中部が着工済み、西部めどが立たない。
石森:どのようにして水利慣行から契約へ変えることができたのか。給水会社とはプライベートなものなのか、国営なのか。
山田:伝統的水利慣行→50−80年代、文化大革命時に否定されていた。集団か個人か両極端。給水会社の実態についてはよくわからない。「理念としては民営企業化を目指しているが、実態としては既存の管理組織が二枚看板を掲げている場合が多い」
片岡:水管理をする人間が打倒された。慣行とか集団性はない?人の移動が激しい。
松本:水の管理は集団でやらざるを得ない部分がある。
大塚:日本のムラと中国のムラはずいぶん違う。国際協力プロジェクトなどを通さないと現場にはなかなか入れない。
片岡:会社経営にすると水を売らないと経営成り立たない。農産物価格高い。農民からお金とれない。
井上:人々の意識は、水質については低すぎる。
大塚:汚水灌漑というのがある。工場排水が栄養物豊富だということでその水を引いて作物を育てる。生育はいいが、重金属の汚染に曝されている可能性がある。日本の農業用水の置かれている状況、プロセス事実から学べる。パッケージでやるのは簡単だがうまくいかない。費用負担をどうするのか。

3.総合討論
蔵治:日本の新しい息吹が中国で役に立つということ。農業用水について、実は日本もよいとはいえないのでは。どういう風に役に立つのか?
大塚:成功だから役にたつということではない。よい悪いも含めて参考になるプロセスを、総合学習をするということ。
蔵治:川ごとに、主導組織が異なっているという説明が印象的。どういうタイミングでどうなるのかと言うことに興味がある。
溝渕:○四万十川 県としては、産業・観光につなげたいということ・「守る」と言う視点が行政主導に向いていたということ。外郭体が主導。四万十川財団。注目が高まったのが早かったということ。行政主導でやらざるを得なかった。今は民ががんばっているという点がある。
○仁淀川 先進的に行政が関わる四万十に対する対抗意識ややっかみも。穴場的場所だった。地元学的。行政が民間を助けた形。
○物部川 漁協は13年前から危機意識をもっていた。住民のネットワークを創ったりしていた。行政の行動は一番遅れていた。あくまで農林水産業者が主導と言うのが特色。
全てが、自然とそう組織されていったという感触。
渡邊:変化、変革と言うときリーダーシップはどうあるべきなのか。カリスマ型・協働型・パートナー型。社会変革のためのリーダーシップは。
蔵治:どういった、どうあるべきかと言うケースはいえない。場合においては知事のリーダーシップも作用したといえる。また漁民だけでも駄目。関係者間で「共通項を見つける事」が重要では。
                                          以上
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