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日本学術振興会人文社会科学振興プロジェクト
「青の革命と水のガバナンス」研究グループ
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第9回研究会
河川環境の整備と保全 −総合的管理に向けて−
日時:2005年11月20日(日) 13:30〜17:00
会場 豊田市 矢作川研究所 2階会議室
開催趣旨:

 河川法の目的に新たに加えられた「環境の整備と保全」の「総合的管理」を具体的に考える際、米国におけるサーモンのような「環境」のシンボルとして日本では「天然アユ」を検討する必要があります。
 その理由は、「手付かずの自然」の価値や「生物多様性」を生態系全体や生物種の希少性から論ずるという視点は当然重要ですが、人間に関わりの深いシンボルでありかつてどこにでもいたアユ核として、人間を取り巻く「環境」を考えることにより「人間中心の環境」を考える契機となりうるからです。
 本研究会は、天然アユを巡り、具体的な河川の現場でどのような主体によってどのような研究、取り組みがされているのか、それがどのように事業化される可能性があるのか、といったことを議論することを目的とします。
 異なるセクターに属する3人の方に話題提供いただき、矢作川を中心に豊川、物部川などの事例について掘り下げて検討し、河川環境を巡るコンフリクトや合意形成についての理解を深めるきっかけになることを期待します。

参加者:38名


話題提供者
高橋勇夫(たかはし河川生物調査事務所長)

 「天然アユを守るということ」
新見幾男(矢作川漁業共同組合長・矢作新報社社主)
 「矢作川における天然アユ研究成果の事業化と3つの河川環境定期協議」
中津川誠(国土交通省豊橋河川事務所長)
 「豊川における流域圏一体化に向けての取り組み」

 たかはし河川生物調査事務所の高橋勇夫さんは「物部川21世紀森と水の会」「物部川の明日を考えるチーム」でダムと鮎の生態の因果関係をご専門に活躍されており、物部川だけでなく矢作川の再生その他、全国の河川で天然鮎を復活させる事業に係わられている立場から話題提供いただきます。
 矢作川漁協の新見さんには、2003年に100周年を迎え、「環境漁協宣言」(風媒社より出版)を行った矢作川漁協の最近の取り組み、特に水利権者や河川管理者との協議の背景と内容、将来展望について話題提供いただきます。
 国土交通省豊橋河川事務所の中津川さんには、流域委員会の議論に基づき川の河川整備計画に明記された「豊川流域圏一体化への取り組み」について、その理念と具体的事業展開についてご説明いただき、これから議論が始まる矢作川を含め、将来展望について話題提供いただきます。


幹事
東京大学愛知演習林 蔵治光一郎
(青の革命と水のガバナンス研究グループリーダー)
高知大学人文学部 松本充郎
豊田市 矢作川研究所 洲崎燈子

内容
配布資料(4枚)説明
幹事紹介 蔵治・松本・洲崎
青の革命 プロジェクトの趣旨説明

中津川誠(国土交通省豊橋河川事務所長)
「豊川における流域圏一体化に向けての取り組み」
・河川整備計画にのっとった計画の紹介。
・現状と課題について

DVD上映による豊川の現状紹介
 霞堤の紹介。
 流量に特徴があり、渇水率の高い河川であること。
 ダムの整備により渇水対策をし、森林整備などもあわせて行なう必要があること。
 流域の自然の紹介・三河湾の紹介(赤潮・苦潮の紹介)。

「豊川に残る「かすみてい」について」
堤防で塞ぐという従来の考え方はやめて、完全には締め切らないようにする。
ある程度の氾濫はする余地を残す。

「利水」
豊川の利水は流域で完結していない。用水路によって流域外に運ばれており、主に農業に使われる。新田原市は全国一の出荷量である。
毎年のように節水となり、節水率が高い。
川の水量が年々減ってきている。

「水環境」
豊川はきれいであり、BODは全国1にもなっている.しかし、河口に位置する三河湾は赤潮・青潮が多く発生する。海(三河湾)の閉鎖性が強いためと、他の河川からの流入によるものと考えられる。
海を含めた河川の環境を考えねばいけない。

対策対象が、治水のみ→治水・利水→治水・利水・環境と考え方が変わり、3本柱を考えるようになった。
河川整備計画は、学識経験者の意見を取り入れ作成される。基本方針を先に作って、それに基づき計画を作る。現在委員会が行なわれている。

「矢作川で必要なこと」
・すでにあるものをうまく使う。
・矢作ダムの弾力運用−ダムから流す量、必要量、入ってくる量などの調節。
・自然再生の課題
人工的にかえられてきたものを、戻すことはできないか?
標津川のように元のように蛇行させるということは、豊川や矢作川では無理。どういった方法がよいか考える。住民はやはり治水を必要としているし、戻すためにかかる費用に対する批判もある。
治水メニュー、利水メニュー、環境メニューとあるが、なんにしても流域レベルでの取り組みが必要である。森作りや都市づくりなどの多くの課題が含まれていて、河道整備だけでは間に合わない。これからは「流域」の整備を考える。森林・三河湾・流域一体化などを考えるべきだという提言がされている。
・ベースとなる調査研究
物資の流れ(水循環・物質循環)などの調査をおこなう。国交省だけでなく、研究者と手を組む必要がある。
・情報公開
・河川の共同管理
主にごみ拾いが上げられるが、活発になっている。

「河川局がやっていること」
・地域住民との連携
水生生物調査:子供会議での発表などにより活発になっている。河川の問題に対する教育になっている。
・コンサートなど
・カレンダーの作成・パンフレットの作成
以上のことから、年齢性別を問わない住民が交流できるイベントなどを計画できていると考えている。
課題: 活動範囲が狭い(参加する先生や学校がきまってきている)
活動が国交省に頼っている(自発的でない)
流域圏連携のコアが誰か、リーダーシップは誰かを決めるのがむずかしい
実効性のあるものにできるか

質疑応答

豊川での土砂移動はどの程度の対策をして結果が出ているのか?
→この中ではあまり考えられていない。土砂生産は多くない。
矢作川の今後は?
→流域委員会等で議論される。矢作川では土砂のバランスを含めて、土砂のことはきちんと考えなければいけない河川である。

豊川での懇談会というものは、他の地域と比較して進んでいるのか?
→(蔵治)都市河川で小規模なものでの(豊川の懇談会のような)取り組みはあるが、(豊川のような)大きな河川ではない。豊川は進んでいると考えてよい。

ごみ集めにはどの程度の人数が参加して、量はどの程度だったのか?
→スライド参照
→量については具体的な値は今ない。多かった。

矢作川では、ごみを捨てないようにするため車を入れないという対策をしたが、豊川ではどうか?
→使用者に被害がないように利用するという方針であり、特に通行禁止などにはしていない。

河川環境という意味で、矢作川は鮎だが豊川では何を河川環境としているのか?
→まだ決まっていない。これから目標を考えるべきだと思う。どういったことをやるのか議論していく。来年が整備計画見直しの年なのでちょうどいい時期である。

総量では年変化がなくても、集中豪雨などをどのように加味しているのか?
→ハードだけでは治水対策はできない。ソフト的な手段を考える必要があり、場合によっては土地利用規制がいる。堤防はあふれることがあっても壊れないようにしなければいけない。壊れる(破堤する)と被害が大きい。

国交省などの役人は2,3年で変わる。地域のリーダーや人間の教育育成はどう考えるか?
→(短期で変わるというのは)役所の悪いところである。学校の先生やNPOの方が協力してくれる場合、活動の機会を多く持つことや意識を育てるようにすることぐらいしか今のところできていない。

コアは誰かが重要である。鶴見川では水ビジョンを作り流域圏一体化を勧めているが、役所の縦割りが邪魔していてあまりうまくいっていない。
豊川でその辺を打破できれば、とても進んだものになるだろう


新見幾男(矢作川漁業共同組合長・矢作新報社社主)
「矢作川における天然アユ研究成果の事業化と3つの河川環境定期協議」
河川で魚を育てている人間と、管理者とは見方が違うという印象をもっている。
国交省や中電(中部電力)との話し合いから、双方の考え方を共有しようとしている。

配布資料(ダムの配置図):いかにダムが多いか!!!
矢作川は河川利用率が高い。
都市排水は改善されつつある。
流域の山から流れてくる泥水対策ができてなく、ひどくなっている傾向がある。上村川から多く土砂が出ていて、矢作ダムとその下流のダムに土砂がたまってしまうため解決の必要がある。水がにごりっぱなしで漁業としては商売にならない。

環境漁業宣言(本のタイトル)について
100年記念に漁業組合の歴史を書いた。
回遊生物が生きていける環境を作ることが必要である。
本をまとめるうちに、河川環境がどう壊され、修復(改善)されてきたのか、すればいいのかといったことを考え始めた。
中電との協議が一番進んでいて、季節による水位変化をどうするかなどの具体的な話になっている。矢作川研究所による研究も進められている。
森林のことはこれまで考えられていなかったが、去年から森林塾を発足した。矢作川は河畔林の状態がひどいので、そこをどうにかするのが先という意見が多い。現在、市街地にモデル河畔林を作る準備を始めており、民間の土木建設も参加して進んでいる。
漁協の運営は、漁業権行使規則と遊魚規則を対等に運用していかなくてはうまくいかない。組合員の権利と一般釣り人の権利を対等にし、運営をうまくしていかなくてはいけない。

上村川の森林整備を早くしなければ、土砂が増えるばかりである。

矢作ダムの構造改善と運用改善をしていく。
運用改善については渇水対策があげられ、中電との話し合いが進んでいる。
3月末までに水を満水にしてほしい(発電を控える)
一方、電力会社は、使いたいときに使うのがダムを作った理由なので合意形成は難しい
大きな雨が降ると1ヶ月間泥水が続く。いつまで続くのか、天気予報みたいに水温、泥水予報を出せないか。
産卵場を破壊している。排砂バイパスと魚道の設置が必要である。土砂をトラックで輸送している。
国交省にも注文はあるが、ダムのせいにしてばかりではなく産卵期の乱獲をなくす、遡上の促進をするなどの対策をし、他漁協との協力体制をとることが必要である。
流域のごみマナーがよくなり、量が減っている。漁協でも減らす努力をしている
今後の組合員意識の改革が最大の課題である。

質疑応答
上村川の地質は?山の持ち主は?
→持ち主はいろいろ。花崗岩です
電気を使わないようにするといった提案はどうでしょう?
→ノーコメントです
???(質問不明)
→人がいないのではないか?誰がやるべきかわからない。利害関係当事者なので、何らかの形で県や国がかかわれるようにするのがいいのだろう。
(蔵治)(質問不明)
→現在のダムに排砂システムがないといったことは欠陥商品である。まずそこから何とかしてくれといいたい。
(松本)少ないものを分けあって使用するしかないのでは?

農業用水(利水)は、昔からの問題である。
いろいろな具体案が出てきていて、中電との交渉は満水を保ってくれそうな方向で進んでいる。どれくらいの水があればいいのかということを調べるために、水をドンと流してとめるといった(試験的な)ことを繰り返した。研究者の目(矢作川研究所)ではうまく動いていないとのことだったが、われわれではうまくいっていると見た。

高橋勇夫(たかはし河川生物調査事務所長)
「天然アユを守るということ」
鮎の一生:海から川の循環がうまくいっていないといけない。
産卵→子供は浅瀬の波打ち際で生活→夏川の中流で生活→縄張りを持ち黄色くなる→秋になると下流に下って産卵

天然鮎が遡上する河川(矢作川は入らない)が高知は多い。しかし川はいいはずなのに漁獲高は減っている。原因としては冷水病の蔓延が考えられる。
・四万十川の年齢解析の結果
孵化のピークが遅くなってきている。孵化の早い年と遅い年を比べると、過去7年で2ヶ月も異なる。
・鮎の稚魚に何がおきたのか?
11月に大量に孵化した子供は海にいった段階でほとんど死滅した。早く生まれた鮎が死に、遅生まれの鮎が生き残る率が高いことがわかった。
→解析の結果、水温が関係していることがわかり、海水温が上昇すると早生まれの鮎が死ぬ傾向がみられた。94年以降海水温が高いことがわかっており、漁獲量が下がったのは95年である。因果関係の説明も可能であったので、海水温の上昇が引き金となって早生まれの稚魚が死んだと結論づけた。(行政のとれる対策として)落ち鮎の禁漁期を長くしたが効果はなかった。
物部川で大量に遡上した理由
→天然を増やすことに力を入れ、産卵場の造成・禁猟期拡大などの対策をしたためと考えられる。
 造成はなぜ必要か?:大きな石と砂泥しかない状態で、自分で動かせる石がないと鮎は産卵できない。造成後3日ほどで活発に産卵をするようになる。
放流ゼロで解禁日となった!

放流量が増えているのに漁獲量は減っているということは、放流は間違っているのか!?
→四万十川ですべて放流にしたら4億3000万円またはそれ以上必要になる。大きな河川は放流でまかなうのは無理がある。
放流万能という考え方の勘違い
→いざとなれば放流すれば大丈夫という考えから、ダムを作った悪影響を考える努力を怠った。

全国的な不良の原因
・天然遡上の減少・放流効果の低下
→水産庁の方針は放流一辺倒であり、増殖対策のあやまりが考えられる。
・行政対策に頼りすぎなのでは?
→新たな漁協の取り組みや地域の中での漁協の役割が変わってきている。

物部川での放流以外の増殖策
→現場教育シンポ、森林保全など

濁水対策
→自然浸透による水路を自費で作成し対処した。でもこれをやったのは漁協。

農業用取水による渇水
→交渉だけでなく、漁協も森林保全などの取り組みを始めた。

農業と漁業の歩み寄りができるのではないか。
→そこからさらには福祉にも影響しているかも?

鮎は誰のもの?
→「組合のもの」という考え方と「地域の共有財産」という考え方の対立がある。

漁協とは安上がりなシステムである
→共有財産を保全することによって経済効果がある。

なぜ天然鮎を守るのか?
→海と川の回遊による自然の監視役として必要であるから。
新たな自然とのかかわりあい方を模索するため。

質疑応答
矢作川には鵜が多く大変。物部川はどうか?
→全国的に確かに鵜による被害が多いと聞いている。高知では少ない。
 対策としては花火やテグスなどがあるが、相手が多い場合は今のところ対策はない。

海水温が上がったことが原因ならば、それが続く限り減るのでは?
→産卵期が遅くなることで生物的に対応しているようである。問題は人間の方が対応してないことであって、禁漁期などの設定時期の変更(対応)が必要となる。そういったところに妥協点があると思う。

漁協の人にどういって説得したのか?
→最後は理事会の決定で押し通すしかない。5年も7年も研究結果などを説明して浸透させ、半分ぐらいの人が理解してくれたときに変わり始めると思う。

ダム以外の損失要因とは?
→早く生まれた鮎は死ぬから、遅く生まれた鮎を守る必要がある。自然に対応して変化していっているはず。

水田面積は減っているのに濁水があるのはなぜ?
→構造改善のせい。田んぼ一枚一枚に水を供給するようになり、流入した先から流出しているという状況になっているために濁水が出る。(泥が流れ出るということは)農業としてもよくないと思う。
→(蔵治)山の崩壊による土砂流出も多いだろう。

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