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・第8回研究会2005年10月24日の記録

 第9回研究会の記録へ
日本学術振興会人文社会科学振興プロジェクト
「青の革命と水ガバナンス」研究グループ

第8回研究会
「河川管理を巡る地域コミュニティの再構築
  〜我が国の河川管理史とNPO・市民団体の実践事例を通じて〜」
「新しい流域管理と流域診断
  −人と水との関係性の再構築に向けて−」


日時  2005年10月24日(月)13:30-16:00
会場 パシフィックコンサルタンツ新宿オフィス171705会議室
    新宿区西新宿2丁目71号 新宿第一生命ビル


話題提供

糸岡栄博 (立教大学大学院)
 「河川管理を巡る地域コミュニティの再構築
  〜我が国の河川管理史とNPO・市民団体の実践事例を通じて〜」
原 雄一 (パシフィックコンサルタンツ(株)水工技術本部流域計画部)
 「新しい流域管理と流域診断
  ー人と水との関係性の再構築に向けてー」


参加者 (順不同・敬称略)
杉浦未希子  東大 新領域
佐藤祐一    パシフィックコンサルタンツ(株)
新井祥穂    東大 総合文化研究科
畔柳 剛    (株)シーエーアイ
五名美江    東大
赤松宏典    武蔵工大 環境情報学研究科
大野智彦    京大 地球環境学舎
木内勝司    (有)木内環境計画事務所
まさのあつこ  ジャーナリスト
田島正廣    国際航業(株)
鳥羽 妙     東大
村上亜希子   東大 新領域創成科学研究科
三阪和弘    東大 工学系研究科
日野明日香   海洋政策研究財団

内容:
蔵治:はじめに。これまでの様子。
2月以降東京で研究会をやっていない。7回は名古屋でやりました。今日は8回。
9回の案内。10回の案内。11回京都。
青の革命の趣旨。目的。人文社会科学の振興に付いて。社会への貢献など。水・流域をめぐる問題。実態把握。何が必要か?問題解決への糸口。

自己紹介
蔵治:東大院愛知演習林
田島:国際航業(株) 水環境を含めた水管理(水質モデル)・合意形成
五名:東大院農学生命科学研究科
鳥羽:東大院愛知演習林
黒瀬:東大院新領域創成科学研究科M1
畔柳:潟Vーエーアイ水環境 知の継承
赤松:武蔵工大院環境情報学研究科M2 生態系復元・定量評価
杉浦:東大院新領域創成科学研究科D2 灌漑用水プランニング・流域全体のバランス
宮崎県北川町かすみ堤を調査中
三阪:東大工学系研究科 小池先生からの紹介 関川流域委員会・合意形成
大野:京大院地球環境学舎
原:パシフィックコンサルタンツ(株)
糸岡:立教大M2
日野:海洋政策研究財団 沿岸域・管理政策
新井:東大総合文化研究科助手 生態環境の認識の変化
木内:(有)木内環境計画事務所
佐藤:パシフィックコンサルタンツ(株)

糸岡さん講演内容メモ
かつては地域コミュニティーが存在していたが、その崩壊にともない環境問題が出てきた。地域全体のオーナーシップを必要としている。
・河川管理史について
集落形成は、ヨーロッパ:心理の文化、日本:折り合いの文化、という違いがある。
集落形成が導いた治水史について(洪水と集落のつながり)
治水史を形成した折り合いの文化について−新潟大・大熊先生
・地域コミュニティーの再構築について
そもそものコミュニティーの定義があいまいになってきている。
町内会という組織をGHQが廃止させ、GHQ撤退後復活した。80年代からネットワークがひろがり、現在は草の根活動のNPOが広がりを見せている。
コミュニティー最構築によって、@地域の環境をよくするA行政の機能不全に対応する、などが考えられるが反面、@排他的であるA現実と乖離するB過度な期待がかかるなどの問題があげられジレンマとなっている。また、社会的背景として、存在価値の低下や連帯感の低下、社会的弱者へのリスク、防災機能セキュリティーの弱体化などがあげられる。

・荒川クリーンエイドの取り組み
荒下事務所長が始めたもので、行政主催の市民参加が前提である。
市民の環境保全の意識をたかめることなどが活動目的。
交流支援、環境教育、調査提言広報、清掃活動を行なっている。清掃の結果どのごみが多かったか?どこに多かったか?などのデータを示すことで助成金の交付を受けやすい。
荒川:かつては河畔林は主要樹種がハンノキで桜草も多かった。急激な都市化により動植物がなくなった。葦原があり、生態系上重要である。
環境学習教材として、水辺の学校が行なわれている。(HP参照)
一部の人間ではなく、住民、行政、企業が参加するべきであり、多層的コミュニティー(コミュニティーの集合体)であることが重要である。

質疑応答
田島: 治水史だけでなく利水史も重要である。法制度と地域住民との関係や、水社会論の視点も必要である。欧米と日本は異なるので日本の特徴をきちんと見るべきである。
糸岡: 利水史について参考にする。

まさの:レジンペレットはこの形で流れてくるものですか?
糸岡: はい。入口も出口もわかっているが、なかなか規制はできない。条令を作れば取り締まりは可能である。

原:  担い手は新住民と旧住民のどちらか?
糸岡: 9割は新住民だが、幹部は旧住民。

三阪: 研究の方法論がわからない。アウトプットもわからない。オリジナリティが必要であるし、方法論や既往の整理が必要である。
糸岡: 行政比較や行政・市民への提言をしようとしている。資金の流れや市民団体のダークサイドを明らかにすることができれば。
三阪: 住民は治水への期待が大きい。河川法がかわっても環境だけでなく治水も重要であり、昔の人間は自然堤防の上に住んでいたなどの背景もある。それらも踏まえた見方が必要ではないか。
糸岡: 功罪の点でもっと見直します。

新井: 「地域」コミュニティーというスケールが大きく、話にギャップがあった。行政界を超えない程度のスケールなのか?東京だからコミュニティーが大きく人数が集まるのであって、地方では無理。農山村だと「地域」と言ったとたんに大きくなり人が集まらない。コミュニティーの大きさを考えると「地域」とつけることに違和感を覚えた。
糸岡: 今後考えていく。
大野: なぜこんなに集まるのか?
糸岡: 最初は強制的(半強制)なことがきっかけだった。

杉浦: 上流の利水者と下流のごみ拾いをする住民では視点が違うのでは?河川管理としては両方入れないといけない。
糸岡: 下流は利根川の水を使っており、上流と下流の利水関係は絡まない。
杉浦: そうならば、最初に都市住民のコミュニティーのことであると断る方がよい。

木内: 荒川クリーンエイドは行政と関係しているが、市民主体の流域ネットだ。しかし、基本的にそれではこんなに広がらない。市民はやりたいことをやり、文句は言うけど期待も大きいという点で市民運動は集まらない。市民の好き勝手な部分のつなぎが行政の役割だと思う。もっとその点をまとめていけば役に立つし、関係をうまく整理するといいと思う。


原さん講演内容メモ
1.流域管理を進める上での問題
2.流域再生に向けて何をすべきか

・ 流域で考えることが多くなった。
流域圏構想は70年代にあったが、2000年になってまた出てきた。連携を行政が重要視していなかった。大学の研究の縦割りという問題もある。個別最適化から全体の最適化をすることをしてこなかったためである。治水や森林など、程度はあるが下流から上流までの連携について最近言われるようにやっとなった。
・ エコロジカルプランニング
これまで生物屋が土木事業にかかわることがなく、なかなか進んでこなかった。
・ 人と自然との距離増加
川での時間空間的価値がなくなり、川には近づかない。安曇川の例。
タイ・チェンマイでの堰の紹介。竹の堰5つの効用について。
・ 考え方
水があるかないかのゼロかイチかの区分ではなく、その間に重要なところがある。例として雨季と乾季の湖について。中間帯、遷移帯があり、治水的には問題とされて堤防の計画がある。しかし生態的に重要な場所であり、加えて地域住民はその場所で昔から生活している。
現在はマクロが優先である。ミクロをもっと見ることに重点をおくようにした。
過去の記憶の重要性。野川など、昭和30年代のきれいなイメージを持つ60歳以上の人は、河川環境がよくなった時に記憶がよみがえる。

質疑応答
田島: 住民参加のできるスケールは、ミクロ、マクロを具体的に説明し区別しないとわからない。
原:  チェンマイを例に出し、ローテクの紹介だけだがうまくやっている。
蔵治: チェンマイでも洪水があったので治水をやることになる。これからタイでもローテクが問題になるだろう。

杉浦: 宮崎県の事例。耕地面積が8%。かすみていの技法をコンクリートでやっている。全国一律マニュアルがありやってきたが、行政でやっているために不公平感が出る。
原:  早く水を流す政策(工法)は、うまくいったところがあった。しかし全国でそれを展開したのがいけない。うまくいくところといかないところの折り合いがこれからの課題である。

まさの:トンレサップ湖では何をしたのか?流域計画部の仕事はなに?
原:  洪水ハザードマップの作成。(国内ではやり。)海外で展開する場合、どう作れるか、どう考えるかが問題である。
まさの:日本のハザードマップと違うのか?意識調査(ヒヤリング)は行なったのか?
原:  途上国への支援のなかで、カンボジアに日本での事例は適用できないだろう。ヒヤリングや地元の専門家への聞き取り、現場調査などを行なった。

木内: 流域診断を霞ヶ浦でやった。流域が何なのか?水質を良化するなど、なにか具体的にやったことがあるのか?
原:  雨が降るとどうなるかといったモデルを組むのが仕事であり、再現性がいいことが理想だが実際に政策に使えない。政策を変えたときに評価できなくなるのでそこを改良中。行政内部には自分たちでやるという傾向も出てきた。コンサルは結果を与えるだけでは、行政側のニーズにこたえられなくなっている。

蔵治: 多目的ダムを作ったときに国交省は川の診断は専門なのでまかせろといってきた。流域の健康診断は専門家にでは問題になるのでは。
原:  特に河川について、素人は口を出せなかった。市民を取り込んで行政が進めるという認識になってきていると思う。流域の営みを考えると行政だけでは成り立たないという認識になっている。逆に行政から市民にふっていると思う。

日野: 誰が過去の記憶に訴え始めるか?が問題。意識が高くない場合、コンサル、行政がどのように動くのがいいと考えるか?
原:  柳川では高齢者に語り部になってもらった。パワフルな地域のリーダーがいる成功例が多い。そのリーダーをどう育てるかがキーになる。いない場合は、危機意識の共有が必要であり、そこからリーダーの育成へというステップが必要となる。
蔵治: キーパーソンの研究は事例があると思うので参考にしては?

大野: 今日出された例は公開していくことはあるのか?
原:  公開していこうと思う。
大野: 誰でも見れるというようにオープンにするのは難しいのか?
原:  まだ改良中で、だれでもつかえるようにしていくのが重要と思っていいる。

蔵治: 流域の境界が一致している、していないには歴史がある。つながりがないから分かれているものもあるが、市町村合併でめちゃくちゃになった所も出てきた。流域圏構想はどう考えればいいか?
原:  流域圏構想は、メジャーになってきているようだがそうでもない。流域圏という区分はアイデンティティーがないのでなかなか広めていくのは大変。
田島: 流域圏のカテゴリーはフランスでは法律で規定されている。
新井: 長野の流域圏構想はうまくいった例。他の構想とのつながりがあるとうまくいくといったこともある。地域的条件と個々の都合といったことから分かれているといったこともある。人の行動で行政界を規定するといったことも。
木内: 地形の影響が大きいと考える。山の上(上流)は地形で流域が分かれることが多いと思う。扇状地より下流では、地形で流域を分けにくいところから、人の意識も分かれていないのでは?

三阪: 全体最適化に対する答えは?
原:  霞ヶ浦や琵琶湖のシミュレーションを個別から全体の例としてやっていこうとしている。価値観の多様さが、どう最適化につながるか?
蔵治: ある県では、各部局でGISを持っているが、それを共有できない。パシコンが全体として結果をだしても、受け取る側がだめかも。コンサル側の統一フォーマットも必要。
佐藤: 数年かかると思うけど、やっているところ。
蔵治: 個性的な場所が消えてしまうのでは?
田島: データベースはオープンにしていくことになるだろう。モデルのレバルが低く、統合的にやる必要がある。日本の研究が統合的でなく、そこが難関である。


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©2004. Research Project on Global Governance of Water.