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日本学術振興会人文社会科学振興プロジェクト
「青の革命と水のガバナンス」研究グループ
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第10回研究会
河川管理と住民参加〜研究者の役割〜

日時:2005年12月2日(金)13:30〜17:00
会場:大阪・北浜ビジネス会館 3F大型室301
開催趣旨:

1997年に河川法が改正され、「治水・利水」に環境が加わり、住民参加が規定されました。その結果、委員会形式により効率的・効果的に意見を聴く場(流域委員会)を設けている河川が増えています。しかし合理的で公正な判断をする場として流域委員会が機能するためには、メンバー構成、選び方と情報の公開に十分配慮することが必要です。 そこで、河川法改正から8年が経過した今、河川計画への住民意見の反映や、川と人とのより良い関係を築く流域管理の中で、専門家、研究者にどのような役割が求められているのかを、全国の流域委員会の実態調査などを通じて皆さまとともに考えてみたいと思います。

出席者:95名

内容:
 1.基調講演
  虫明功臣(福島大)   「流域水総合管理の実現に向けて」 
  桑子敏雄(東工大)    「河川管理における合意形成の現場から」  
 2.研究発表 流域委員会の実態把握と比較研究
  蔵治光一郎(東大)   「概要説明」 
  流域委員会プロジェクトメンバー 「実態調査の事例報告」
 3.パネルディスカッション 
  司会 蔵治光一郎 
  パネリスト 虫明功臣、桑子敏雄、松本充郎(高知大)、
          赤津加奈美(弁護士)、まさのあつこ(ジャーナリスト)


司会進行 蔵治 光一郎 氏(東京大学 愛知演習林)
 年末の平日のお忙しい時に、こんなに多くの方がお集まりいただき有難うございます。今日、大阪で開催させていただいたのは、明日3日に開催される「日弁連公害対策・環境保全委員会35周年記念シンポジウム〜河川管理と住民参加〜」と連続して実施するためです。本日は、基調講演2題と研究発表およびパネルディスカッションを予定しております。最後に参加者の方が発言していただく機会を設けております。

1.基調講演
虫明 功臣 氏(福島大学・東京大学名誉教授)
『流域水総合管理の実現に向けて』

水文学、水の循環が専門であり、総合的な取り組みが必要である。
「総合的」という言葉はやたらと使われるが、逃げ言葉になっている面も。
水管理に係る用語と概念の整理:
管理に対する用語
Administration:行政、管理
Control:支配、制御、統制、管理
Management:経営、運用、マネジメント
水管理の定義=人間の福祉の向上と自然環境の維持等のために、自然・人工水循環系にハード・ソフトな対策をすること。
もともと総合的な対策が必要だが、その内容は地域・時代によって異なる。
水資源:混乱がある。最近よく使われるIWRM(統合的水資源管理)の水資源(Water Resources)は、利水、治水および環境をすべて含むが、利水が中心。これと同じことを日本語で表現するなら水管理の方がよい。
総合的(Comprehensive)=広く含まれること
統合的(Integrated)=要素が結びついていること
水管理における総合化、統合化の5つの視点:
機能的視点 各機能の調整
地理的視点 空間をどう取るか 水文学的流域=集水域よりも流域圏が望ましい場合も
行政的視点 タテヨコの連携、住民参加
水文・生態学的視点 水循環
学際的視点 分理融合
『健全な水循環系』とは、水資源基本問題研究会(平成6年7月:旧国土庁)の座長をしていた際に提示した概念。これをもとに、関係省庁連絡会議が平成11年10月に設置された。最近では「流域水循環系健全化計画」「流域共同体」という概念を考えている。流域の大きさが問題。River Basin Managementというと大きい流域、Watershed Managementというと小さい流域を指す。
事例として以下の4流域を取り上げる。
都市化が激しい流域‥@海老川流域(千葉県)流域面積:27km2、A鶴見川流域(東京都、神奈川県)直轄部分を含む。流域面積:235km2、B柳瀬川流域(新河岸川流域支流、東京都、埼玉県)流域面積:106km2
都市と農村が混在している流域‥印旛沼流域(千葉県)流域面積:543.1km2、水深1.5m(琵琶湖の南湖に似ている)、ピーナッツ畑の肥料由来の窒素でNO3濃度10〜20ppm、水道水源として水質ワースト1。
重要なことは、当初から関係する全てのステークホルダー(問題があって、それに関係する人)を広く含めること。印旛沼では専門家、自治体、住民(土地改良区、漁協を含む)で100人規模の委員会となった。データ、データ間の因果関係の構造を明らかにする。モニタリングには住民の協力。モニタリングからモデリングを行い、ブラックボックスからホワイトボックスにしていく。関係県が1つだけで、堂本知事に理解が有ったことが成功の要因である。特徴は、「やれるところからやろう」ということ、「見試し(みためし)計画」(Adaptive Management)を3年間実施したことである。
目標として、5つの目標を挙げ、5つの重点対策群→63の具体的な対策を定め、印旛沼方式、みためし計画、出来ることから始めようが基本となった。目標は、@雨水浸透(佐倉市の城の堀)、A生活系排水対策(下水処理が当面見込めない個所)、B農地系排水対策(適正施肥の試み)、C市町村によるみためし行動計画(合併浄化槽のPR)、Dみためし学で系統化した取り組み、計画推進に向けた6者連携体制、環境団体と対話交流の場を持った、水文学、生態学(モデル研究を嫌がる)が協働研究を行っているのが大きな特徴である。
結果的に、@流域共同体意識、A科学技術的な裏付けを持つ情報の提供、B共通意識が持てた。課題としては、行政部門間の連携、自治体間の連携が挙げられる。首長が"流域共同体"としての宣言をすることが必要である。Collaborative Leader(協働的リーダー)の存在が重要である。流域的な視点をもつ行政部局がコアになり、他部局はそこに信託することが必要。

桑子 敏雄 氏(東京工業大学教授)
『河川管理における合意形成の現場から』

蔵治氏と同じ人社プロで「日本文化の空間学構築」グループのリーダーである。
日本文化は水環境に関する紛争と合意の文化である。
合意形成とは、公共事業のアカウンタビリティーを構成する重要な要素であると国交省大臣官房も確認している。キーパーソン根回し方から不特定多数参画型へ社会環境が大きく変化しているという認識ももっている。
長良川の可動堰問題が河川法改正へのもっとも重要な契機となったということは河川局の多くの人びとの認識である。利害関係者が不特定多数であることがこれからの合意形成の特徴である
改正河川法では、3本立てで意見を聴く仕組みになっている。学識者(3項)、流域関係住民(4項)、知事または市町村長(5項)。
住民が流域委員会に入る場合もあるが、住民意見の反映は、これとは独立のプロセスである。
結果に対する納得と並んで、プロセスに対する納得が重要である。
合意形成マネジメント協会というNPOの認識による合意形成とは、@多様な価値観の存在の承認し、A人々の立場の根底に潜む価値を掘り起こし、Bその情報を共有して、Cお互いに納得できる解決策を創造して行くプロセス、である。
今までの「ご理解行政」(説明すれば理解してもらえるという行政)では、相手なぜそのような意見をもっているかということを理解せずに、客観的に分かりやすく説明すれば、ご理解いただけるはずだと考えて説明している。これでは、合意に至るプロセスは構築できない。  
日本型の紛争と解決とは、有限な土地・資源と無限な災害リスクの負担の不適切な配分による紛争に対し、どうすれば皆が生き残れるかという課題のもとに分配システムを作ることであった。『古事記』、『日本書紀』、『風土記』は、日本の治水利水について理解するための必読文献である。
合意形成の分類には、
@ 関係者全員が納得できる結論が望めないつらい合意形成と可能性のあるたのしい(はずの)合意形成
A 閉じた合意形成と開かれた合意形成
B 事業についての合意形成とルール・制度についての合意形成
とがある。
対立する意見の表層的な調停ではなく、問題の深い理解にもとづく創造的な合意が必要である。
ファシリテーターは、中立であったしても、対立する双方から見ると、敵対的に見えることがある。動物からは鳥と思われ、鳥からは動物と見られるコウモリのような存在である。そこに難しさがある。
木津川上流(川上ダム)でファシリテーターをした経験から。住民どうしの対立もある。住民と行政だけではなく、木津川上流住民対話集会では、住民どうしの話し合いとしたところが画期的なことである。この集会では、結論に両論併記は避け、賛成反対の立場を越えて提案書という合意文書の作成という協働作業を行った。
平行して携わった筑後川水系城原川委員会の名簿を見てみると、委員がどのように選ばれたのかが明記されていない。どうしてこういう人達が選ばれたのか、説明がほしい。
ダム推進の方針は出たが、住民合意の重要性は指摘されながら、現実には住民の合意がとれておらず、どうすれば同意が取れるのかも明らかにされていない。
また、環境の専門家がいないことも問題だ。いるのは動物のなかの特定の種類の専門家、植物の特定の種類の専門家、鳥の特定の種類の専門家・・・であって、「・・・屋」という屋号がつき、専門以外のことは知らないひとがほとんどだ。環境の専門家はそもそも日本にほとんどいないことが大きな問題である。
城原川では、伝統的治水利水システムがあり、洪水で溢れた水は戻らないという空間的構造のもとで、治水利水に関するさまざまな工夫がなされている。ダムをつくるなら、河川管理者は、以下の3点を十分考慮して意思決定がされたことを説明する責任がある。@環境・景観・空間構造の履歴への配慮、A住民合意の条件の明確化、B伝統的治水理念と近代的治水との整合性。
今後必要とされていることは、@水環境統合システムのさらなる理解、A伝統的治水思想の意義の解明、Bそれをこれからの治水利水にどう活かすか、C説明責任の果たし方の明確化である。

2.研究発表
「流域委員会の実態把握と比較研究」

蔵治 光一郎氏 「概要説明」
 今日お配りしている「河川管理と住民参加〜研究者の役割〜」は、今日時点の暫定版として理解いただきたい。研究が進んだ時点で、本編として取りまとめを行います。
1997年に河川法改正があり、第16条の2第3項に基づいて「流域委員会」「流域協議会」などの名称の委員会ができているが、法的な根拠は薄弱。アンケート調査は日弁連が行っており3日のシンポジウムで報告される。我々はWEB調査を行った。一級河川の50水系で委員会(約50%)が設置されているが、実態はまちまちである。

<流域プロジェクトメンバー> 
「実態調査の事例報告」 最上川・東北の河川
小寺 浩二氏(法政大学・地理)

河川整備計画が策定済みであるが、その中身には測定されているにもかかわらず取り上げられていないデータが存在するなど問題点も少なくない。





鶴見川・海老川:
森岡 佳大氏(法政大学・社会学部)
金子 紫延氏(千葉大学・自然科学研究科)
増田 佳孝氏(東京大学・新領域創成科学研究科)

 鶴見川と海老川は共に都市河川であり,住民からは治水と環境対策への要望が高い.鶴見川では,2004年に総合治水対策を含む水マスタープランが学識経験者・市民・行政による協議会で策定された.TRネット(1991年)は市民側から関わった点が特徴的である.海老川では,2000年に行政・市民・企業其々が主体となる環境対策を定めた水循環系再生行動計画が策定された.流域懇談会は2003年以降4回開催され,河川整備計画案は市民意見反映のため一度の改訂を経て承認された.

庄内川・矢作川:
鳥羽 妙氏(東京大学・愛知演習林/名古屋大学)

 流域委員会の特徴は、矢作川では、市町村の長が委員になっていることなど、庄内川では、準備委員会の委員が全員流域委員会の委員となっていないことがあげられる。委員会の進行状況は、矢作川は基本方針が策定されていないために議論が停滞しているのに対し、庄内川では基本方針に委員会の意見を反映させるために議論が進んでいる。流域住民の意見収集では、矢作川では力が入れられていないのに対し、庄内川では、意見交換会などを積極的に行い、パンフレットの作成、HPでの公開などに力を入れている。背景には、役所中心でないと意見収集ができないといった住民意識の差や、予算が矢作川より庄内川のほうが多額であることが伺える。

旭川・揖保川:
黒瀬 総一郎氏(東京大学・新領域創成科学研究科)
五名 美江氏(東京大学・農学生命科学研究科)

 近隣2河川の比較を試みた。揖保川では、河川整備基本方針未策定の下比較的早期に流域委員会が設立され、整備計画策定作業が行われている。市民の意見聴取の場を細かく設定する一方、対象市民の設定が不明確で、流域委員会は形骸化している。旭川では、流域委員会はまもなく設置予定だが課題も多い。国交省主導で設立された流域ネットワーク型市民組織の活動が盛んで、行政内、ネットワーク内の合意形成、河川事務所長の異動を所与とした推進体制構築が求められる。両者は、流域委員会設置時期、プロセス、市民の意見の取り込み方に違いがあるが、いずれも流域委員選定等重要事項はトップダウン的傾向が強い。現状の認識と課題解決にはより詳細な事例のメカニズム研究が求められる。

淀川・肱川:
大野 智彦氏(京都大学・地球環境学堂)

 淀川については、淀川水系流域委員会が注目を集めている。しかし、関連する資料、議事録等が膨大であり、時間の都合で、報告は割愛するので配布資料の調査報告を確認して頂きたい。今回は、より事態が深刻と思われる四国の肱川についての報告をする。肱川については、その形状が人間の「肘」のように折れ曲がっているから、そう名付けられたとも言われている。流域委員会の委員の半数が、流域の市町村の首長であり、傍聴者が意見を述べる機会は無かった。また、4回で結論を出しており、議事録も発言者を明記しないで公開されている。市町村の首長は、河川法に基づき、河川整備計画に対して意見を述べる場が設定されているのに、学識経験者の意見を聞くための流域委員会に参画する必要があるのか疑問である。
また、肱川の河口部分は、山が逼っているが、河川の一部を埋め立てて使用させている実態があったり、河川整備上課題の多い流域である。

3.パネルディスカッション

司会:蔵治 光一郎 氏(東京大学 愛知演習林)
パネリスト:
虫明 功臣 氏(福島大学)
桑子 敏雄 氏(東京工業大学)
松本 充郎 氏(高知大学)
赤津 加奈美 氏(弁護士)
まさの あつこ 氏(ジャーナリスト)

蔵治氏‥今までの議論の感想、自己紹介、質問を含めてコメントをどうぞ。

松本氏‥虫明先生、桑子先生の話に出て来なかったものを話したい。環境のシンボルであるアユが減少しており、漁協の果たす役割が重要である。
赤津氏‥明日の日弁連のシンポジュウムの事務局長。
日弁連の問題意識としては、住民参加は形式的にはできているが、それを実質的にするために法的に不十分であると感じており、行政を縛るにはどうすればよいかを考えている。形式的な住民参加と実質的な住民参加の間には壁がある。アメリカでは違法だが、日本では、門前払い。




まさの氏‥相模川は、4つの圏域(山梨2、神奈川1、国土交通省1)からなる。
上流の山梨圏域一つでは、河川整備計画は平成17年3月に策定済み。宮ヶ瀬ダム・相模川大堰のコンフリクトがあったために、市民は無視できない存在であることを神奈川県は認識し、相模川流域協議会や相模川水系土砂管理懇談会などができ、その一つで神奈川県の圏域では河川整備計画案のたたき台づくりのための意見交換会を県と市民との間で行っている。 昨年私は、97年河川法改正以来河川整備基本方針の策定が進んでいないと何度も提起したが、今年は猛スピードの策定ラッシュ。流域委員会でも審議会(河川整備基本方針策定検討小委員会)でも、研究者は主役だが、役目を果たしていない。ダム事業の根拠となる基本高水を検証できずに国交省案にお墨付きを与えるスタンプ台と化している。たとえば、利根川でも不可能で非現実的な基本高水を含む河川整備基本方針案が通ろうとしている。基本高水22,000トンのうち河川改修で16,500トン、上流ダム群で5,500トンという案が出ているが、既設6ダムと八ツ場ダムができたとしても1600トン。あと3900トンをどうするのか不明なまま通すなど無責任。防災から減災という考え方もでき、防災は「基本高水」任せでよいかも考えなければならない。しかし審議会では研究者はそのような見直しもしない。主役は川のそばに暮らす住民であって、霞ヶ関の審議会に集う審議委員ではないのではないか?虫明先生に質問したい。

虫明氏‥流域委員会という名称が誤解を与えている。流域管理ではなく、河川法は河川区域内の問題。審議会の件について、河川法改正で環境が入り、河川整備基本方針を定めて、河川整備計画を定める。基本方針は速やかに決めないといけない。基本高水は、旧法の工事実施基本計画決定以降にその対象洪水を超える洪水を経験しない場合にはおおむね継続で決めている。当時の計画は概算で決めたわけではない。利根川の場合は、カスリン台風の氾濫戻しをして計算しており、過大ということではないと理解している。しかし基本方針の達成を目標とした工事は100〜200年かかってもできない可能性が高い。少子・高齢化で予算も付かない。個人的には、これは一つのステップであり完成形ではなく、過渡期であると考えている。平等に守るのではなく、危険な個所を優先させるということになる。超過洪水も考慮し、すべてを河道内に押し込めず、リスク分散が大事である。

桑子氏‥直轄河川の流域委員会に参加して、長期的なものを短期的に実現しようとすればダムしかないということになる。川には個性があるのに、すべてを霞ヶ関で決めるのはおかしい。先に地元で計画を議論すべきで、現状はそれが逆転している。河道内で完結させるには無理がある。信玄の発想が必要である。

松本氏‥日本の考え方は、総合的な治水は考えていない。川の傍に、田・畑を配置することによって、ある程度の対応は可能である。ただし、補償制度が必要である。

赤津氏‥桑子先生が「信長」と言われた意味を教えて欲しい。

桑子氏‥川の傍に人が住まない仕組み(川の氾濫の恐れの無い場所に住むこと)が必要である。

赤津氏‥河川法改正の時に基本方針策定に住民参加が入っていないという議論があり、河川局長の尾田栄章さんが、「基本方針が合わないのであれば基本方針を変えれば良い」という国会答弁がされ、最近お会いした時も、同じことを言われた。基本方針はマスタープランで上位計画であり、整備計画はその下位計画でプロジェクトの集合体であって、いずれも法規範性がある。現状では規範と社会的実態が乖離している。例えば、8時に皆が集まろうと決めて、8時15分にしか集まらなかったら、規範と実態のどちらをどちらに合わせるかは法哲学的問題。基本方針は「理想」ではなく「規範」であり、裁判所もこれをダム建設の要否を決める法的根拠と考える。

蔵治氏‥赤津さんの議論は、明日にも続くと思われるので、話題を変える。研究者はどうすれば良いのか。住民だけで決める方法もあるし、研究家がもっと努力をして、住民との協調が必要と思う。

虫明氏‥現場は個別問題の集合体であり千差万別。そういうことを理解できる視点を育てていくことが必要である。他部門の人とも議論が必要。

蔵治氏‥桑子先生の先程の発表で、合意形成のハードルになっているのが専門家であると言われたが、そのあたりはどうか。

桑子氏‥専門家は自分の分野にこだわり過ぎて合意形成が困難。分野をまたがった議論をすべきではないか。委員長のリードの仕方が大きい。事例発表を行う時、悪い例を出すだけでなく、良い例を出して誉め、悪いところに恥ずかしい思いをさせることが必要。法律で縛るだけでは無理がある。PRTR法(Pollutant Release and Transfer Register:特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律)に基づく対応が、その良い例である。

松本氏‥良い例を出すという発言があったが、物部川では、流域委員会は開かれていない。漁協、地域住民等の合意がされそうだが、ダムもある。国土交通省の所長は、肱川から来た所長である。専門家が出来ることは限界がある。自分の専門は法律だから、卸売りをやるが、その先、どう役立てるかは不明である。

蔵治氏‥今、お二人から専門家のあり方等のお話があったが、他の方のご意見はどうか。

赤津氏‥ローカル・ナレッジ、おじいちゃん、おばあちゃんが経験的に知っていた知識があったが、現代は川や自然と人間が切り離されている。私は淀川の傍に住んでいて、ウォーター・レタス(発言は、ウォーター・キャベツ)が流れているが、それが良いのかどうか理解できない。きちんとした合理的議論にはデータが必要である。裁判所で争う時、協力してくれる先生を探すのは困難である。科学者は住民に共通の理解を形成するのに貢献して欲しい。桑子先生が法律で縛るのはおかしいと言われたが、例えば良いA君を誉めて、皆がA君の真似をしている間は良いが、誰も手のつけようの無いX君が、ぺナルティ無しに放置され続けたら、誰もがX君の生き方を真似する場合も有り得るのではないか。

まさの氏‥専門家は、意志決定のアドバイザーであるべきである。自他ともに、過大評価されている。市民が意思決定をする上で必要な分野に専門知識や知見を提供すべき。将来的にはそうあるべきだが、今はそうではなく過大な期待をされているのだから、オールorナッシングで参加して欲しい。住民は命がけ。審議委員を引き受けるなら命がけでやるか、手を出さないかのどちらか。中途半端に関わらないでほしい。また、その外側の研究者にできることとして、第三者として調査研究をし中立公正な立場で情報を発信していって欲しい。例えば流域委員会のいい例、悪い例を外から評価することには意味がある。

質疑応答

酒井氏(桂川流域)‥学閥があって、専門家=大学教授の教え子が国土交通省の内部に配置されている。法治国家であるはずなのに国が法を無視している。

蔵治氏‥今の発言は、ご意見として取り扱わせていただく。

矢間氏(ATT流域研究所)‥専門家の役割として、市民がサイエンスに参画できるきっかけを作ってほしい。市民環境科学。市民が情報の中身をチェックし、市民から評価を受ける社会を作ってほしい。

前川氏‥水面より低い所(兼六園)に住んでいるが、県事業でダムを作る計画がある。

中川氏(武庫川流域委員・公募委員)‥評価ではAランクになっているが、現在週3回近く会議をしている。河川工学だけが専門家ではないのに大きなポジションを占めている。専門家の分野のバランスはどうなっているのか。

虫明氏‥河川工学でも、水文学、森林学が必要。河川管理者は、河川工学を出し、生物学もいる。抽象的には融合できなくても、具体的問題があれば現場で融合することができる。

松本氏‥研究者として若手はペーペーであり、時間は有限なので自分の分野だけで精一杯。縦割りの問題をどうするか、物部川(1級河川)は利水者として県が関与しており、役所内の縦割りが問題である。

以上


*翌日には、日弁連主催のシンポジウム「河川管理と住民参加」が行われました

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