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日本学術振興会人文社会科学振興プロジェクト
「青の革命と水のガバナンス」研究グループ
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第11回研究会
流域管理の新たな動向
流域委員会、自治体連携から考える

日時:2005年12月26日(月)13:00〜
会場:京都 総合地球環境学研究所 1F大会議室 (旧春日小学校)
開催趣旨:
 近年、流域管理の取り組みに新しい動きが生じている。例えば1997年の河川法改正により、流域委員会など河川整備計画を策定する際に学識経験者や関係住民が関与する事例が各地に設けられている。しかし、河川整備計画の策定は未だ進んでおらず、その策定方法も各地で試行錯誤が行われている状態である。
 また1991年、1998年の森林法改正で、水源たる森林を管理する上で市町村の役割が強化され、それを背景に各地で上下流の自治体連携が模索され始めている。
 この研究会ではこうした動きを受け、淀川水系流域委員会や斐伊川流域の自治体連携などの事例を紹介し、その成果と今後の課題を議論したい。とりわけ淀川水系流域委員会については実際に委員として、あるいは住民として関わってきた3名のかたから、報告、コメントを頂き、新たな流域管理の仕組みを検討する予定である。
参加人数:45名


話題提供者:
遠藤崇浩 (総合地球環境学研究所)
 「流域管理と地方自治体」
増田京子 (箕面市議会議員)
 「淀川水系流域委員会に傍聴者として参加して」
嘉田由紀子 (京都精華大学・琵琶湖博物館)
 「人びとの社会意識と暮らしぶりを反映する治水政策へ」
コメント:
今本博健 水工技術研究所・京都大学名誉教授

幹事
 東京大学愛知演習林     蔵治光一郎
  (青の革命と水のガバナンス研究グループ長)
 総合地球環境学研究所    遠藤崇浩
 京都大学大学院地球環境学舎 大野智彦



議事次第
司会 蔵治 光一郎 氏
 年末の、また、とても寒く日程の悪い日に開催したにもかかわらず多数の方が、ご参加いただき有難うございます。今日は、青の革命と地球研の共催事業として、流域管理の新たな動向:流域委員会、自治体連携から考えるをテーマに検討をしたいと考えております。発表者の方以外の発言の時間を設けておりますので、活発に議論に参加いただければ幸いです。
(1) 主催者を代表して挨拶 総合地球環境学研究所 遠藤 崇浩 氏
今日は、お忙しい中お集まりいただきまして、有難うございます。流域委員会の新たな動きとして、私を含め3名の方に発表をしていただきます。今後の流域管理について、大いに参考になるものと思います。
(2) 青の革命と水のガバナンスについての解説 蔵治 光一郎 氏
配布資料の「人文・社会科学の振興をめざす!」のパンフの裏に、研究領域UC水のグローバル・ガバナンスに記載されている。今まで、10回の研究会を開催し、今日が11回目である。流域管理と河川の管理別に行われてきた、現状は試行錯誤で、淀川水系流域委員会が良い事例である。活発に議論していただきたい。この研究会は、慣例として、どういう方が参加されているかを知るために、所属とお名前を発表していただいている。
(3) 参加者自己紹介(略)
(4) 話題提供1

総合地球環境学研究所 遠藤 崇浩 氏
「流域管理と地方自治体」

森林の機能について、「木材の供給源」という側面から、水源涵養、魚付林効果、二酸化炭素吸収といったいわゆる「公益的機能」の側面に注目が集まるようになった。また、一連の森林法改正で、森林を管理する上で市町村の役割が強化され、それを背景に森林の「公益的機能」の維持を目的とした市町村の取り組みに関心が寄せられ始めている。こうした動きの中、森林整備協定なる取り決めを通じて、公益的機能の中でも特に水源涵養を目的とした上下流の自治体連携の動きが日本各地で見られるようになった。この報告では、三つの流域−白川流域(熊本県)、斐伊川流域(島根県)、木曽川流域(長野県〜愛知県)−における森林整備協定を事例に、森林整備協定のしくみ、その長所と短所、そしてそれが成立するための条件を検討する。
1. 全体的な問題・関心
2. 今日の問い
A.森林整備協定とは何か、市町村レベル
B.その長所・短所は何か
C.森林整備協定成立の条件とは、何か

3. 森林管理と政府の必要性
4. 事例報告(白川、斐伊川、木曽川)
5. 結論
の順で報告する。先ず、1.全体的な問題・関心について、全国各地では、政府主導型(水源税、森林整備基金など)と民間主導型(ボランティア地域通貨、FSC、排出権取引など)の2つの手法がある。2.の本日の問い。としては、大疑問:森林管理の手法のうち、どれが望ましいか?各地の事態によって異なる。中疑問:どういった事情から、その手法が選択されたのか?政府主導型、森林整備協定型、背景:「木材供給源」から「公益的機能」へと変化した。3.森林管理と政府‥何故、政府活動が大切なのか?森林保護の利益、@公益的利益の確保‥水源涵養、景観、CO2の吸収、魚付林効果etc.A社会的利益の確保‥木材価格の低下
私的供給の限界、森林保護:「総論賛成」、「各論賛成」社会的ジレンマ
自分がやらなくても、誰かがやってくれる。森の恩恵、公益的効果、これまではタダで提供。今後はタダではなく対価支払いの仕組みが必要と考えられる→政府による対価徴収:森林河川緊急整備税、水源涵養税、森林整備協定
森林整備協定とは、森林法第10条の13および第10条の14に規定されている。
ケース1.熊本県白川流域‥阿蘇山流域

@昭和28年白川水害、A生活用水を100%地下水に依存、B土地利用の変化(都市化)、C地下水位の低下(熊本市地下水量保全プラン)1953年の白川水害が流域保全整備協定のきっかけである。
白川流域整備協定のしくみ

 効果:国の補助30%、県への補助10%、査定係数(×1.7)による補助


ケース2.鳥取県斐伊川流域、@水道水源としての斐伊川流域の重要性、A宍道湖と中海の保全が課題であった。パートナーシップの取り組み。


ケース3.木曽川流域、愛知水道事業団、1961年に交流事業スタート、1994年大渇水、2003年木曽川流域「水源の森」森林整備協定、水道水1m3あたり1円を積み立て、下流だけでなく上流でも積み立て、間伐に特化、切り捨て間伐の対象拡大、所有者負担1haあたり2,000円にしている。

水資源問題 管理上 水質問題 支援の前例 間伐・植樹
白川 地下水保全
斐伊川 水害被害の軽減
木曽川 水道分断

水資源問題 管理上 水質問題 支援の前例 間伐・植樹
白川 ○ ○ ○ ○ 地下水保全
斐伊川 ○ ○ ○ ○ 水害被害の軽減
木曽川 ○ ○ ○ 水道分断
市町村が行っているが、国・県の補助がある。中身は、分収林契約、拡大増林期に皆伐、植林、間伐を経て、現在は間伐が必要な状態である。しかし、カバーできる範囲は限られている。面的に整備する必要がある。
短所として、@予算の制約、候補地の少なさに起因する面の確保(特に間伐、植林)、A国・県の補助事業の影響あり→長期的計画には、不適合(査定係数の変化)、条件・促進要因は、災害・渇水・地下水依存など、以前から上下流交流をしており、制度を必要としていること。今後の課題としては、@他の公的支援、A民主導の取り組みである。

<  質 疑 応 答  >
Q‥候補地の少なさとは?
A‥土地所有者が点在していることである。
Q‥バイオマスとして、大阪の場合2〜3億かけて上手く行っていない。京都の場合、森林組合事業として、オガクズにして、木材ストーブに、また、丸太のまま三条のところで利用する。
A‥基本的には、木材価格の上昇が解決策になる。
Q‥間伐した木材を出さなくて良い?木津川の上流であるが昨年の大水で砂と間伐したものが流れて困った。
A‥木曽川の例でそのことを聞いてみたい。
中川氏‥全部人工林が対象、2次林でも可能か?武庫川は6割が森林で、大半が人工林である。
A‥2次林とは、一旦植えたものを植え直している場合、2次林として調査していないが、森林整備協定の適用に問題は無いと思う。
Q‥制度は良く分かったが、きっかけについて、災害に遭って直ぐに協定というのが困難ではないか。目標とする部分は何か。
A‥県レベルの水源涵養税もあり得る。全員一致の了解が得られているとは限らない。アンケートをしている場合もある。混交林にするのが目標になっている。
松本氏‥どういう森林が健全な森林なのか?経済的な価値、環境的価値のイメージは?
A‥経済林と公益林をどうするかが課題である。
Q‥山の使い方の理念が無いと、困難ではないか?間伐に公費を入れるというのは、どうかという議論もある。
嘉田氏‥流域管理という点で、桂川の話が出ていたが、10,000枚位の写真がある。土砂と木材が流れて被害があった。今本先生が専門であるが、流域委員会の位置付けで、流出する木材が、今後の被害を起こす可能性も考えるべきである。
A‥はげ山になると、流木が無い。
A(蔵治氏)‥間伐を適当にするということで、どう機能するか、河川管理者は、流木もダムが止めるという議論もある。
Q‥間伐材が、流水に入るというのは、物理学的に理解しにくい。流水の部分にある立ち木が流れるのは分かるが、流域面積に数字をかければ算出可能であると思う。
A(蔵治氏)‥自然科学的に精査は可能だと思う。ただ沢抜けのような状態ではあり得る。
Q‥流出モデルを研究しているが、地下水涵養量が小さいというデータもあるがどうか?
A(蔵治氏)‥自然科学的に正しいと思う。森林を作ることは正しいという理解で進んでいる。どういう目標が正しいかどうかが大事では、ないかと思う。

(5) 話題提供2

箕面市市会議員 増田 京子氏
「淀川水系流域委員会に傍聴者として参加して」

議員というより、市民の立場で参加した。流域委員会が、環境、人間生活をどう議論されるのかに関心があった。バイオマスの話をされたが、有効利用が必要、学校だけで使うのではなく、有効利用が大切である。1968年ごろから、余野川ダムの構想が出され、予定地は栗、枇杷、炭の産地であり、開発面積320ha、奈良建設が周辺地域を買収していた。淀川水系の計画中のダムは、5ダムあるが、特異なダム、余野川本流に作らないで、北山川に作る。納得できない。堰の大きさ、貯水量も公開されていなかった。1日10万m3使用する。市議会議員になって、市へ意見を言ったが、近畿地方整備局、大阪府に聞いてくるべきだという返事だけであった。加茂川ダム反対をされていた市議会議員の方との出会いがあった。川名辺さん(琵琶湖博物館館長)も準備委員会のメンバーに入られていた。2001年5月の猪名川部会に初めて参加した。
傍聴者発言が出来るのが特徴である。大阪自然保全協会の岡さんと一緒に参加した。利水という点では、近畿地方整備局には、厚生労働省から情報が伝わっていない。阪神水道企業団は、9万m3/日、阪神水道企業団の議員仲間と勉強会をして、傍聴者発言をした。2002年11月に尼崎市長が交代、白井文市長に、野村さんと情報を伝えた。傍聴者発言は、いつも同じ顔ぶれ、300〜500人が傍聴している。同じ人が発言することは問題、委員や河川管理者に伝わって来たのか。今本委員の影響力が大きかったのではないか?ダムは、渇水の時に良いとかの意見はあったが。2003年1月に提言が委員会から出された。「原則として、ダムは建設しない」、「工事中も含める」かどうか?
大阪自然保全協会に、脱ダムネット関西を立ち上げた。武庫川、槇尾川ダム反対をした。野村さんは、自分自身でデータを作成されて意見を出している。市民交流会とかを実施することによって、止々呂美の人が集まって来た。結論が出るまで出て来なかった。御用学者の人が議論している間は来られなかった。提言が出てから、水道の関係職者が出席した。後半は、開発部局の職員も傍聴していた。各自治体は、流域委員会を軽視しているのではないか。これが淀川モデルになるかはこれからである。
総経費14億円、時間・経費は民主主義の費用、委員同士の議論が不明である。委員同士の議論は、傍聴者に伝わらない。推進側との軋轢がある。止々呂美の人々も最初は反対、下流の人のために賛成した。ダムがなくても良いまち、国にも府にも市にも責任がある。地元の人々の暮らしをどう支えるかが、大切である。ダム湖予定地をどうするか。

<  質 疑 応 答  >
蔵治氏‥非常に生々しい話を有難うございました。それでは、質疑応答に入りたいと思います。
Q‥まちづくりの本意、駅前整備、都市計画とまちづくりの差、現役を退いて、環境について、同じ人しか声が出ない。意見が出ない。過激になる。反対・賛成も意見を言って専門家が判断すべき。建設省に質問を聴きに行ったが、1年間で対応が変わった。
地球研吉岡氏‥決った事業の見直し、新しい道を作る。環境施策を作る。遠藤氏と蔵治氏の間で議論があったが、住民の意見を言うことが淀川モデルである。
増田氏‥淀川モデル、流域委員会は大きく変わった。環境・治水・利水、撤退のルールが無い。まちづくり50〜100年の議論が必要である。
木村氏‥地球研、色々な人が居られるので、経済要因、政治学要因のアプローチをお願いしたい。ダム治水・利水では無く、公共投資として決まる。国土交通省は、ダムを懐に入れている。余野川ダムはそうであるが、何故、作るようになったのか、何故、住民が受け入れたのか、その辺が解決の糸口である。地域に詳しい委員がどう活躍したのかが課題である。
増田氏‥例えば、どのように頑張れば良いのか。
Q‥住民参加、適当ではない。住民意見を反映する。大和川では、無し。
増田氏‥すごく頑張られたと思う。
酒井氏‥地球研の話で何度か寄せてもらったが、中身があまり無い。増田さんの話で、諮問機関として、河川管理者が選ぶ。恣意的に選んでいる。金盛委員、箕面の開発を推進している委員、一方的に言っているだけ。専門家とは対立できない。京都府・京都市のバックアップが無い。社会資本整備計画審議会河川分科会という長い名前の分科会で、基本整備方針および基本高水等が議論されている。全国で7,000のダムが有り、20個所のダムが予定されている。
増田氏‥コメントとしては、失敗ということか?
Q‥止めたれ良い。
疋島‥淀川水系流域委員会を傍聴させていただいているが、地方自治体の担当が傍聴をして、市町長の意見を聴かれたときに参考にすべきではないかと感じた。単に河川管理者からの意見聴取の資料だけでなく、委員会での議論を聴いた上で市町長の意見を述べるのが本当ではないかと思う。
A‥社会資本整備計画審議会河川分科会が流域委員会の議論を無視する方向で進んでいる。
蔵治氏‥発表の順序を変更して、今本さんに淀川水系流域委員会についてのコメントをいただいてから、嘉田さんに話題提供をしていただくように変更する。

(6)コメント

淀川水系流域委員会副委員長 今本 博健氏(水工技術研究所・京都大学名誉教授)
「流域委員会のあり方についての私見」

一般傍聴者の気持ちとして、河川法を何度か読んだが、どうも違う、環境が重要とあるが、公共の福祉と安全をベースに環境があるということであって、河川法に無くても環境は必要である。
流域委員会は、河川管理者が必要があれば意見を聴く場であり、必要が無ければ聴かなくて良い。地方自治体の長の意見は、聴くとなっており、個人の意見ではなく、議会の意見、住民の意見を反映する。淀川水系流域委員会は、委員次第、地域に詳しい委員は、役割を果たした。専門家でも発言しない委員もいた。地域に詳しい委員を説得する必要があった。傍聴者もピンからキリ、キリが大半であった。しかし、利水については、委員より詳しい場合もあった。酒井さんは委員会を止めろと、言われたが、止めることが出来ない。事後評価がある。委員のメンバーは変更して行くのかどうかが課題である。国が決めたことに反対した委員会。委員を選んだのは、河川管理者、河川管理者もピンからキリ、振り子が逆に振れている。川辺川ダム、長良川河口堰、余野川ダムは以前から必要ないと言っていた。行政の継続性、委員会と河川管理者の緊張感がある。提言を委員会が出したら、ダムを中止した。付け替え道路は、必要である。付け替え道路が完成したから、大戸川ダム中止と言う人もいる。
土木屋であり、環境は良く分からない。環境屋も良く理解していない。緑のダムと言う言葉は、受け入れにくい。何でも可能となる。武庫川は、ニュースレター(委員が作成)として、出している部分は評価はあるが、意見は掲載されていない。今月の2日、3日とシンポジュウムがあって、情報公開があったが、委員自らが書いたものかどうかは疑問である。
淀川水系流域委員会の1日あたり、1回分は500万円、当時委員の報酬は、9,500円/時(8,500円/時)である。反省会として、次回への活力を養う。回数を減らすことを考えている。委員自らが意見書を書く、一般傍聴者と手を取り合って取り組んできた。

<  質 疑 応 答  >
蔵治氏‥それでは、質疑応答に入りたいと思います。
酒井氏‥次期委員長になられますか?
今本氏‥自分はそのつもりは無い。
Q‥地域に詳しい委員として、河川管理者が作った舞台として活躍されていない。
今本氏‥ダムは、社会的合意が必要としていた。具体的に示していない。対話集会、河川レンジャー制度等を提案していただいている。
Q‥委員間で議論して欲しい。まとめる必要は無いと思う。住民参加部分は、充分議論されていない。ファシリテーターに丸投げになっている。
今本氏‥利水論が大切である。
Q‥社会科学系の方の意見が無い。河川に対する社会科学のイメージが不充分、どんな川かは、住民が考えるべき。メニューを出して、住民がどれかを選ぶ必要がある。
今本氏‥一方の見方で、河川管理者に開かれた部分だけ答えたら良いという意見であった。次に何をすべきか、ダムを撤去する方向も考えるべきである。琵琶湖は、海に直接つながっていた。大阪大堰、天ヶ瀬ダムの撤去、巨椋池の再生等も必要になる。
嘉田氏‥鴨川は、万一の時に、下鴨川側の堤防が低くなっており、堤防に工夫がされている。
山本氏‥琵琶湖工事事務所の所管河川は、119河川、水門150個所、滋賀県河川課職員50名、地元の先生、中川さん(既に死亡されている)の発言では、水の良いところ取りは出来ない。大熊孝教授の「技術にも自治がある」にもその事が書かれている。
慣行水利権−集団的権利(共同体権利)、琵琶湖水位操作では、平均水位+1.4mと−1.5m間で調整している。
基本高水論、ハイドログラフは、官僚の考え方である。
防災研‥基本高水をどう皆にどう伝えるか、鴨川は、1,500m3/s、現在7003/s、初期条件で決まる。
今本氏‥若い純粋な学者の仕事、学者はいるが、大事なのは条件・前提を含めて教える。ハイドログラフ等は日常語にして、当事者に伝える。御池の地下街は洪水の対応を考えていない。
信州大学‥基本高水、懇談会で変わっている。傍聴者として参加している。確率論ではなく、何年間かの安全側で決められたものである。知事発言の議論で、高水の6割だという担当者の発表をする。
今本氏‥基本高水に社会的妥当性が入っている。

(7) 話題提供3

京都精華大学・琵琶湖博物館 嘉田 由紀子氏
「人びとの社会意識と暮しぶりを反映する治水政策へ」

今日、お配りしている3種類の資料の内、−大熊・福岡・今本論争を読んで−という資料は、「世界」に各氏が基本高水の論争をされたのを読んで、投稿した原稿であり、採用されない場合は、幻の原稿となるので、希少価値が出ると思う(微笑)。パワーポイントに基づいて説明したい。基本的には、@日本の近代化100年の中で河川施策の基本思想の変遷を、水にかかわる社会組織と、人びとの水への社会意識のあり方からさぐる。A鍵概念:水と人との「物質的・社会的・心理的距離」という視点。B淀川水系流域委員会での議論とその経験。C「リスク回避型流域治水」の方向提示をしたい。
水と人との距離には、3種の距離概念がある。@物質的距離、A社会的距離、B心理的距離である。また、江戸時代から明治時代初期までの第1期は、「近い水」共存期で、藩政村の自治機能、多機能型水組織、「流域受け止め治水」。明治22年町村合併、明治29年河川法制定の第2期は、「遠い水」の出現、「河道閉じこめ型治水政策」の拡大、官僚的制御論の登場(水量計測)、地主制度の拡大(淀川神安土地改良区)、機能別水管理組織の拡大(発電、都市用水需要)。昭和20−30年代の第3期は、「遠い水」の浸透、昭和20年代の洪水多発、「国土総合開発」「水資源政策」「多目的ダム法」、高度経済成長、新河川法(昭和39年)、確率洪水・基本高水論の登場、中央管理的制御論の完成、「治水公費主義」「水利権許認可主義」。行き過ぎた「遠い水」への反省と「近い水」の再生・創生の第4期は、平成9年の河川法改正、「環境」概念の導入、「住民意見の反映」、河川整備計画、低成長時代、「超過洪水」の認識、「水需要抑制」とつながっている。
第1期は、「近い水」共存期、日本の生活の必要から社会生活に内部化された自治的な地域社会の秩序形成、水の「ええとこどりはできない」、水を使うこと、水辺を利用すること、魚をとること、洪水に対処すること、村落の地域社会が母体、費用負担・労働負担の自治原則、「総体としての近い水」。
第2期は、「遠い水」の出現、明治29年の河川法のねらいは、「治水」「電力需要」、「治水の強化」は、村落社会は抵抗した。「慣行水利権」「慣行漁業権」として慣習法として残した。「電力需要」は、工業資本家の要求、資本の要求と住民の願望に応える形で河川法制定。「総体としての近い水」が「機能別の遠い水」に分断化、官僚システムによる水制御論、水量測量方式の導入として、「個」(1尺立法の水、後にトン単位に変更)、目的別の機能論の導入(治水、電力用水、都市活動用水、農業用水)、「堤防閉じこめ型」の治水方式の導入、水系一貫主義の導入(昭和10年代の河水統制事業)、しかし、第二次世界大戦で事業進行は遅れる。
第3期は、昭和39年の新河川法で「遠い水」の完成、戦後の総合開発にむけて、工業用水、都市用水の確保、昭和25年「国土総合開発法」、「治水公費主義」へ、昭和20年代に水害が多発、「治水」+「利水」を強化、「多目的ダム」の発想と実現、「水利権許認可主義」による水量把握・水配分の中央支配、水も大量消費の時代へ、町村合併で、さらに地域社会は水の自治を失っていく。官僚主導の「制御論」完成。
第4期は、制御論から共生論へ、行き過ぎた制御論の問題、@川、水への人びとの関心の喪失(物理的、社会的に遠い水は心理的に遠い)、A地域社会の自治能力の喪失(自主管理から行政依存・陳情政治へ、直接利益誘導型政治家の権力増大)、Bハードに依存するいびつな治水政策、「根拠のうすいダム・河川堤防安全神話」の発生(専門化した河川工学偏重の専門家、情報公開に臆病な行政官僚‥例えばハザードマップ、治水政策を集票装置に利用する政治家、大規模公共事業に依存する土木体質経済界、というハード公共事業を強化する「四角構造」)
淀川水系流域委員会での基本理念は、環境(治水・利水から環境保全・再生)、治水(超過洪水への対処)、利水(水需要抑制とバランス)、利用(河川生態系との共生)、住民参加(意見聴取・計画参加)である。
個人的な河川行政へのかかわりは、昭和50年代:琵琶湖研究を社会学・人類学から、昭和60年代〜平成:「共感の場」としての琵琶湖博物館の提案と建設・運営、平成元年〜現在:住民主体の水環境調査、生活史からみる水環境、地域住民に学ぶ環境史、平成7〜8年:河川法改正審議会に委員参加、「近い水」をとりもどすこと、「地域に学ぶ」、「川に学ぶ」、「水と人のかかわりの再生」、「地域自治の再生」(水の地元学)。
淀川水系流域委員会での立場として、とってもしんどいけれど「変革」を感じることができた。主張点は@「川と人のかかわりの再生」(「遠い水」から「近い水へ」、「制御論から共生論へ」)、A地域から学ぶ、普通の暮しから学ぶ、という視点の導入:調査研究、モニタリング場面での生活知の尊重、B「住民と市民の違い」:CommunityとAssociation、「物言わぬ住民」は状況でいくらでも発言する素地をもつ(止々呂美の住民は結論が出るまで参加しなかった)、C専門家的特殊業界用語の払拭(例:「洪水ポテンシャル低減化委員会」→「洪水に強い地域社会づくり」)、D「公私二元論」に「公共私」三元論の導入(例:洪水対処の方法:「自分で守る」「みんなで守る」「社会で守る」)、E「河川レンジャー」(川守り人)制度の提案を行った。
琵琶湖博物館での挑戦は、「見えなくなった水を見えるようにする」「遠くなった水を近づける」、居住者の生活の立場からくみあげた博物館展示と、人びとの世代の交差点・交流拠点としての博物館として企画をし、運営に努めた。
環境社会学から自然災害へのアプローチ実践編として、@災害は自然現象の「素因」が社会という回路を通じて表現される「社会現象」である。Aこれまで環境社会学では自然現象を素因とする自然災害をほとんどあつかってこない。(災害=素因+必須要因+拡大要因)、B自然災害への政策は、自然の現象的知識と技術をもとに組み立てられてきた。特に水災害への対策は、河川工学的知識による「ダム建設」「堤防補強」などの土木技術に依存してきた。C自然災害の社会学=災害社会学という領域の蓄積:地震、噴火災害など純粋自然災害への社会的対応、行動的、福祉的分析が主となっており、水害に対する研究蓄積はきわめて少ない。
水害分析に応用可能な環境社会学の蓄積として、@方法論として、現場に則したフィールドワークの手法、A論理として、認識論(知識論)・生活構造論、受益受苦圏論・主体論・組織論、所有権(コモンズ論)・歴史的環境保全、B政策提案として、科学技術と社会的願望をつなぐ。
水害の増大傾向と無防備になった地域社会と住民組織として、@2004年の水害死者数−1990年以降最大数となる、A伝統的な水防組織の弱体化、B水害履歴地への新興住宅地の建設、C行政の浸水情報に対する無関心(枚方市、浸水マップは公表に慎重であったが、全戸配布後問い合わせは一件もなし!)
治水事業をめぐる社会的癒着関係は、@「基本高水」という排除するべき最大の水量基準に基づいた治水対策、「ダム」と「河道」による水量配分、A過去の水害履歴は全く無視(地域の自然条件、社会条件、歴史条件の無視、属地・属人情報の欠如)、B下流のダム建設理由として最上流の被害者を提示、C四者癒着による計画実施(地元政治家による集票装置としての治水陳情、官僚による机上計画、財界による大規模土木事業、審議会での河川工学者の形式的容認)がある。水量計算によるダム計画の例として、滋賀県安曇川の北川ダムでは、ダム建設より、被害に基づく補償を出す方が、費用は安い可能性などがあり、それを提案するが行政的にはとりあげられなかった。
ハード事業の宣伝効果による「安全神話」の増大として、@陳情による政治家の権力誇示(治水はすべて公費負担:昭和25年以降)、A過去の水害被害がきついところほど、ハード事業への期待が高い、Bダム建設や放水路建設に伴う地元の反対が強いほど、その工事の結果の効果が強調される。C知識の社会的機能の内在的誤謬(ハード事業の効果の過剰宣伝、「安全神話」の浸透、もたらされた情報の機能=再帰的近代化、「リスク確率は低ければ低いほど望ましいのか?」、「100年に一度の水害確率」と「30年に一度の水害確率」どちらが生活現場では安全か?野洲川の水害記録から、昭和40年代に新川開削による治水計画を政治家へ陳情をし、昭和54年に新川完成。しかし、水害リスクはゼロではない。新聞は、「水害完封」との見出しで報道されている。
水害リスク回避の社会的回路生成をめざす水害エスノグラフィー(民族誌)として、@「潜在的な生活リスクの増大」に対処する実践的方向を「共感する知」の生成プロセスとして企画、A日本の大地のほとんどは「洪水」によってできている。それゆえ「土地の履歴」をたどることが「水害」イメージを喚起する、B在地的な水害履歴=水害古写真の収集、個人、地域共同体、行政、マスコミ、C水害被害当事者の発掘と、当事者の記憶と経験の記録化、D水害経験の語りの多重化、記憶していること、語ること、そして水害の中から生きることの意味を発掘、(具体的部分については、省略)
これからの河川行政と地域社会の水の自治として、@連携論:河川だけでは対応できない領域との連携(都市計画、農林、環境、地域振興など)、A主体性論:一端はなれてしまった人びとの水や川への意識をとりもどす実践(かかわりの再生)、B組織論:「公」「共」「私」の重層組織、「住民参加」とともに「行政参加」、C所有権:川や湖の所有と利用の一体化、「共同占有論」「地域自主管理の再生」、D世代継承論:「ええところどり」できないかかわり意識の継承(子どもたちへの伝承:ホタルと水害、二律背反か?)
地域の自治とは?補完原理、サブシディアリティ(権限配分)の原則

<  質 疑 応 答  >
蔵治氏‥河川法では、流域という言葉は無い、委員会の上に「流域」という言葉がついている。土地利用を含めて流域という定義になる。それでは、質疑応答に入りたいと思います。
疋島‥流域委員会を傍聴していて、いつも発言するのは、大人、大学生、高校生、中学生、小学生というように縦のつながりが大切である。河川という資源を継承するためにも。「かしこい子は川に近づきません」という掲示を不思議である。また、川の管理は、地元に委ねる方向に戻すべきである。国が管理するようになって、地元の意見が通らなくなった。江戸時代のように、自分たちの川という意識が大切である。
中川氏‥基本方針から諮問されており、基本高水の数字が決まっていない。淀川を参考にしているが、武庫川は2級河川、森林、教育委員会とも検討したい。1級河川より2級河川の方が取り組みやすい。流域自治、流域管理を考えている。国土交通省より動きやすい。嘉田先生から説明のあった水との係わりを考えていきたい。武庫川流域委員会にも、傍聴にきていただきたい。
嘉田氏‥先程説明した補完原理、サブシディアリティ(権限配分)の原則が重要である。
金井氏‥大阪市24区の総合計画を作っている。淀川、大和川の防災・減災を総合計画に盛り込もうとしている。パブリックコメントを求める。24区の内8区で委託を受けている。意見が出ないのは、知らせていないからである。総合計画で係わっている。綾先生・河合先生も参画していただいて、淀川区では、議論の中で新中津川構想も考えている。嘉田先生のお話は、面白かった、床下浸水は当たり前、是非、講師として、お迎えしたい。
Q‥流域管理の新たな動向として、淀川水系流域委員会で岩倉峡の開削問題が上がっている。
蔵治氏‥最後に今日の4人の発表者から、コメントをいただいて最後としたい。
遠藤氏‥治水の方は勉強していない。水源管理のどこかでリンクしたい。
増田氏‥すごく勉強になった。126,000人の議員、尼崎が溢れる。下流域の人たちとの情報交換をしたかった。
今本氏‥昔は、輪中堤→点、堤防→面、流域の人は、川を守って欲しい。
嘉田氏‥私自身の説明が丁寧にできていなくて、違ったメッセージを伝えたかも知れないが、今本先生が言われたように良い川づくりに向けて、立場の異なる人びとが力を合わせることが大切である。
た。




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