・第15回研究会
2006年9月02日の記録

話題提供者
姫野雅義

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姫野雅義 (吉野川シンポジウム実行委員会)
 「吉野川3委員会を傍聴して」 吉野川では、7月から住民の意見を聴く会が4回、市町村長の意見を聴く会が3回、学識者会議が1回開かれてきて、8月に徳島市と四国中央市(愛媛県)で全ての会が一通り開かれた。それらの会議がどのように運営され、どのような問題点が見えてきたのか、報告する。

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吉野川の意見を聞く会というのが始まっている。整備計画に向けてこの間10回開催された。

経過報告について
●97年河川法の改正。吉野川でも大きな出来事。ダム事業審議会が審議の最中だった。
改正の前後は、開発をめぐり、少なくとも議論をする場が作られた。もちろん議論の場であったかどうかは問題。当初から結論があったようなもので、行政に対する不信が募らせていくものであったという時代。そういう背景で、住民の反発を招き、住民投票が行われ55%の投票率で92%の反対という結果がでて白紙に。
●2001年にかけて計画作りとして形として出てきたのが、淀川流域委員会設置であり、吉野川の明日を考える懇談会だった。どう住民参加を生かすのかということで方向性が形として出てきた。
●109水系のうち約50河川、流域委員会が設置されてきてほぼ定着した感がある。2003年の肱川の流域委員会、かつての吉野川におけるダム審と同じ印象がある。2003年ごろからそういった傾向が出ている。そういう流れで初めて2006年吉野川で流域委員会を設置しない形が出てきている。明確な意見徴収方式が設置。
●白紙になった可動堰計画は宙ぶらりんのまま、吉野川の全体の将来像をどう決めるかなど、不明。
●国交省の見解は、白紙になったのは可動堰だけであり、十堰が危険なのは変わらないというもの。自分たちで科学的裏づけを持った住民案を作ろうという流れが出来、川の将来像を作ろうといった全国初の試みが始まる。
●総合治水の一歩として、森林面積85%の徳島県で、森林のあり方を変えることで、河川整備に考えられてなかったものを組み入れる試み。
●2002年は流域住民アンケートが行われた。結果は、自然にやさしい護岸や植林が安全に対して大きな影響を与えるのではないかと言う意識が住民から指摘。
●2000年以降吉野川の住民と国側の動きがある。この時点での特徴として国土交通省は住民との関わりにきわめて消極的に。住民投票が決まってから国土交通省は、シンポジウムなどの公式な場所には一度も足を運んでいただいていない。議論も公式の場ではなされていない。
●2004年具体的に動き、よりよい吉野川つくりというのが示される。
●2005年9月霞ヶ関にて審議が始まる。住民参加の余地がほとんどないものの、少なくとも傍聴はできると言う形で審議会の議論が公開されていたが、開催日の前日の夕方に初めてホームページに乗るといった形。住民からすればほとんど密室といっていい始まり方で9月に始まる。
●河川分科会で、研究報告も提案をする。11月に基本方針の決定をされる。それに対して河川局長に面談を申し込み、なぜ第十堰問題の一連のプロセスが、なぜ遮断されるのかという面談を持ち込み河川局長は3つの原則を約束。@徹底した情報公開と住民参加の原則。A第十堰問題については治水、文化両面から議論をする。B森林と河川一体のものとして議論をするとの原則を河川局長が約束。詳しくは四国整備局と十分な議論をと対談する。

●2006年5月、四国整備局より、「河川整備計画策定に向けて」というのが公表される。6月に素案が発表。
一昨年の「よりよい吉野川つくりに向けて」の紹介
●目的、洪水被害を最小にする。安定的な水利用を図る。残された豊かな河川環境を後世に継承させる。総論自体は河川法と変わりがない。
●具体的なやり方として、流域管理と抜本的な十堰問題を二つに分けて検討する。膠着状態にある問題についての県知事の配慮。
●徹底した情報公開と住民参加を行うということを挙げている。
●第十堰は、川幅を少しでも広くするということで、可動堰以外のあらゆる選択肢について探る。といった方針。
●この時点で、基本的に、これは認めて一歩進んだものとして関わっていっていいのではと判断をする。なぜかと言うと、第十堰については150年に一度の治水計画の障害物となるといったものから自動的に可動堰が出てくるということから、治水を変えたということになったのではと判断した。大きな方向転換をしていかなくてはならないということに考えていると判断したが、それ以降は残念ながら疑問がある。
「吉野川水系河川整備基本方針.」について
●発表された基本方針は、基本高水、計画高水と言うのは従来のものとまったく同じ。森林整備によって最大3000トンの流量を削減できるのではと言う研究成果についてはほぼ一蹴され具体的なものは何もなく提言。
●8年ぶりに新河川法において具体的にスタートする。4つの新規ダムの計画が削られているこれは新しいスタート。第十堰については、可動堰が再度出てくる可能性が残されている。実質的審議時間は二時間で長期計画が策定、住民からの意見を反映する機会はなかった。
「吉野川水系河川整備計画【 素案】」について
●詳細に決められすぎて、複数案の議論が出来ない。複数案が提示されなければならない。データに基づいた議論をしていくことが最低限必要。昭和40年の河川法によって作られた河川整備計画が形を変えて出てきただけという感じを受けた。
●2002年のフルプランで需要を下方修正するなどの新しい利水に関しての理念が入っていない。
●環境については、努めるという形で具体的に何も書いていない。
●超過洪水対策についてもほとんどない。安全度を下げるのではなく、実質的な安全度を高めるということ、質的に安全度をかえるという説明と対策が書かれていない。
「吉野川水系河川整備計画の策定に向けて」について
●5月に発表。二つに分かれている。流域と第十堰問題。
●意見の徴収は、学識者から意見を聞く形。
●抜本的な第十堰問題は先送りになっている。もっとも危険な場所としているものを先送りにしている。13キロ時点が白紙なだけで他の可動堰が白紙になったわけではない。可動堰推進を目的としたNPOも設立している。再浮上するのではという疑問がある。
●吉野川の意見徴収方式が、どうなるのかといったことが一つの懸念材料。

意見を聞く会の傍聴報告
●住民の意見を適切に反映させるということで、グランドルールが発表されている。住民意見を聞き、素案に盛り込み、修正して再度意見を聞くというプロセスを繰り返す形。年3回で予定。ひょっとしたら流域委員会方式を超える可能性もある。ただ3回で出来るのかと言うことを聞いたら、回数や時間にはこだわらず徹底して議論すると言う発言。
●開催方針や運営方針は河川管理者が行う。
●ファシリテーターは「NPO法人コモンズ」が中立独立の機関で執り行うといった形で運営。
●時間は1時間半、1時間半国交省が説明。人数が多数。時間は限られているので、質問数などの制限。取りこぼしは意見はがきによって扱う。実際に回答もあったが、回答しなかったりはぐらかしたり。時間の関係で再質問が出来ない。徹底した議論を行うには非常に困難な運営。
●基本的には住民からの陳情を受けるといった形の運営になってしまっているのではではないかという危惧。とても住民参加とは思えない。複数案の提示とデータの提示、それによる議論の進め方が最低限必要。NPOの参加が想定されていないことも問題。
テーマごとの徹底した議論の場がもてるかどうかという課題が出てきている。
●学識者会議は、お墨付きを与える機関になりかねないという危惧。予断を許さない状態。委員の中でもテーマごと議論の場の必要性というものが出てきている。次回以降に期待。



課題について
●第十堰が吉野川流域でもっとも危ない場所であろうと言うことが言われてきた。現実に既往最大洪水が起こった際に検証が出来たはずなのに、議論の中に組み入れられず、新しい案が出てきている。問題なのは住民が何を望んでいるのか、住民と議論を計画に組み入れていくプロセスをどうしていくのかと言うのが大切。
●河川局長は2000年に、住民投票結果というのは住民の理解不足によるもので、河川法上の住民意思ではないといっている。第十堰を放置できないということを徹底して説得し、徹底して話をし、住民に理解してもらうのが河川行政の役割だと名言している。ところが2006年まで一度たりとも説明がない。
●どうやって住民の意見を河川法16条の2の趣旨にしたがって反映させていくプロセスをとるのが非常に疑問。現状では、意見を聞く会しかないのだけれどもそれを反映できるのかどうかが今の問題。

<質疑応答>

松本
法律が専門なのでその視点から。流域治水を実現したいというのが河川に関わる人がかなりの割合の人が担っていることだと思う。国家賠償法では二条に、公の営造物の設置又は管理に瑕疵あったものに対して責任を持つものとして、道路と河川があがっている。
河川の施設の設置の問題。森林の問題としては差し押さえてしまう。それを前提にして、いかに責任を問われないようにするかという頭で、河川管理者は治水をやる。
総合治水を実現したいという頭で申し入れをする相手としては、国土交通省だけを相手にしていては駄目なのではないのか。具体的には林野庁をまたぐような人に対して申し入れをしないとうまくいかないのでは。かとはいえ具体的に、首相官邸にいけるかといったらそれは困難。県知事が手を出せるかといえばこれも困難。
そのような法的な縛りを、どういうふうに克服するのかをお伺いしたい。

姫野
この6年間、住民案を作るときの最大のテーマがそこ。流域総合治水の理念としては否定する人は少ないと思う。最大のネックは行政機構、縦割り行政の仕組みの中で、本来想定されていないことにどう付き合うのかということ。理念を実現するため、担当する人の熱意に創意、誠実な知性にかかってくるのではないかと思う。
具体的に一級河川でどういったやり方をしていければよいのかと言うことについては、残念ながら、これだったらいけるといった答えを持っていない。
むしろ県レベルのところで実現しつつある事例が出てくると思う。そういう事例を積み上げながら、国レベルで動かしていくような流れなのかなと思っている。ぜひ効果的な方法があったらお教えいただきたい。

蔵治
森林の治水機能というものを河川整備計画に書けるかと言うことですが、例えば愛知県の豊川では2001年に書かれていますけれども、概念的には明記はされている。理念としては整備計画として盛り込まれているが、数値としてはない。吉野川ではビジョン21委員会では数値としてかなり踏み込んだものが書かれているが、整備計画には理念も明記されていない。これらのものを組み込む当面の目標はどこにあるのか。

姫野
当面の目標として数値的にはまだ議論が多く残っている。それでかまわないと思っている。ただ、今現実に、森がやられている。森林の荒廃と洪水についての関係はかなりの人が意識している。その関連は数字ではわからない。少なくとも、今数字が出ていない。だけれども、わからないからといって何もしないのではなく、わかるための研究を整備計画の中に盛り込むべきなのではないかということを提言したい。
整備計画は30年で終わりではなく100年200年の話になってくると思う。そういう意味でも、今始めないと30年先に間に合わないので、ぜひそれを組み込みたいと思っている。
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