ため池シンポジウムホーム
ため池シンポジウム 分科会のご案内

■ 分科会詳細情報 ■
第2日
2007年 9月16日(日)

14:30−16:30


第1分科会 「水をめぐる歴史と文化」        (12号館5階 1252教室)
第2分科会 「ため池の価値と地域住民の役割」 (12号館5階 1251教室)
第3分科会 「環境教育」                (12号館4階 1241教室)
第4分科会 「生き物の多様性」            (12号館4階 1242教室)


第1分科会 「水をめぐる歴史と文化」
 コーディネータ・話題提供者:河合克己・曲田浩和
河合克己(かわい・かつみ)
1934年生まれ。半田市文化財専門委員会 委員長。
著書・論文:「知多半島歴史読本」(新葉館出版)、「昔話の中のため池−愛知県の場合−」(「知多半島の歴史と現在 14号」日本福祉大学知多半島研究所)
愛知県内の『雨乞い』について、三河の一部を除いて資料の収集を終わりました。ライフワーク『愛知用水通水前の知多半島のため池潅漑研究』に関連して、『ため池分布の地域性』と『知多のマンボ』について調査、分析中です。


曲田浩和(まがりだ・ひろかず)
1965年生まれ。日本福祉大学経済学部准教授。
著書・論文:「名産品を競う」『番付で読む江戸時代』「伊勢湾周辺地域における木綿流通と知多木綿」『知多半島の歴史と現在』13
知多半島のものづくりにかかわる歴史を明らかにし、知多半島のものづくりが他の地域とどのように結びついているかを考えています。
 概要
古くから知多半島にはため池が沢山作られ、知多半島の農業を支えてきたこと、そのありさま、築造の理由、池の築造法、管理や農民の苦労等を歴史的な資料や文化的な伝承から紹介します。いわゆる知多半島のため池についての「総論」です。
続いて、築造技術の工夫や発達に伴って、当地方独自のもの造り「野鍛冶」の発生と、池の築造から体験的に会得した土木技術である「黒鍬稼ぎ」が全国へ展開し、その道具と技術が農学者大蔵永常の「農具便利論」にも紹介されるほどの発展を見せたことなどを論究します。いわゆる乏水地域の故に習熟したため池築造技術の国内各地への移出(出稼ぎ的な要素も含めて)のありさまを紹介します。
 

第2分科会 「ため池の価値と地域住民の役割」
 コーディネータ:大沼淳一・西村一彦
大沼淳一(おおぬま・じゅんいち)
1944年生まれ。ため池の自然研究会幹事、NPO法人「みたけ・500万人の木曽川水トラスト」監事。
著書・論文:「ため池と水田の生き物図鑑・動物編」(共著)、「入鹿池の水の華−発生原因と水質管理方法に関する考察−」
入鹿池の赤潮発生原因究明と対策のための調査研究に関わって20年。次々と消滅するため池をひとつでも多く守りたい。ため池・里山生態系として、あるいは、ため池群としての保護保全を視野に入れながら。

西村一彦(にしむら・かずひこ)
1966年生まれ。日本福祉大学経済学部 教授。
著書・論文:『環境経済の理論と実践−エコロジーのための意思決定−』オーム社、『市民参加型会議におけるシナリオを用いた合意形成の頑健性に関する検討』環境科学
これまでは、理論や計量ばっかりやっていたのですが、これからは、知多半島を対象としたフィールドワークや社会調査も、学生とワイワイやっていこうと思っています。
 話題提供者:木村泰三・神谷明彦・米津良純・西村一彦・大内秀之(代理報告・大沼淳一)
木村泰三(きむら・たいぞう)
矢梨新池クラブ 
地域の方々との絆を一層深める機会と憩いの場づくり、さらに、子ども達に自然を愛する心を育みたいと願っています。

神谷明彦(かみや・あきひこ)
1959年生まれ 愛知県知多郡東浦町議会議員
ため池は地域の原風景。自然、水辺の景観、憩いの場、洪水調節などの面からも大切です。私達は、池の掃除と簡単な水質検査を行っています。市街地のゴミ捨て場と化したため池を地域の力で復活させたいと思います。

米津良純(よねづ・よしずみ)
1949年生まれ。兵庫県東播磨県民局 参事
私の時間の大半は、『いなみ野ため池ミュージアム』に費やしています。このような状態を打開する方策を模索していますが、なかなか良い手がありません。当分、ミュージアム漬けの日々を過ごすしかないようです。

大内秀之(おおうち・ひでゆき)
1945年生まれ。NPO『カエルの分校』代表。
著書・論文:『アテビ平の自然』『豊田の野鳥』
なつかしい生きものが次の世代も絶えないように、耕作放棄された棚田を周囲の山ごとお借りし、生きものの生息地として維持管理しながら、子どもたちの自然体験と学びの場として提供する活動などをしています。

西村一彦(にしむら・かずひこ)
 ※上記コーディネータ欄参照
 概要
ため池の持つ多面的な価値についての認識がようやく高まってきた。とりわけ、本来の築造目的であった利水機能を様々な理由で失ったため池が次々と姿を消しつつある現況に危機感を感じて、様々な分野で様々な活動が始まっている。その担い手は、市民、住民、行政、専門家など多種多様である。そうした流れがあるからこそ、今回のシンポジウムのような企画が生まれたということもできる。
 しかし、多面的、多様な価値の中には相互に矛盾するものが多々ある。とりわけ、親水機能あるいは市民、地域住民の憩いの場としての価値と生物多様性を保つハビタットとしての価値との間には大きな溝がある。防災機能や利水機能、さらには住民サービスを重視した行政によるため池の改変が生物多様性を大きく損なってしまう事例も多い。外来魚を投げ込む釣り愛好者への啓発や棲み分けも進んでいない。無論、ため池を潰廃してしまう旧態依然たる動きもまだまだ強い。
 こうした矛盾、くいちがいを越えて、ため池を守り、地域の宝として未来へ引き継いでゆくためには、どうすればよいのか。この分科会では、地域住民のため池に対する意識、価値評価の現況を把握するとともに、ため池の管理や修復に踏み出した市民、住民活動についての事例、地域の学校や学童の参加事例、および地方自治体と協働して進められている先進的事例報告などを集めて、目指すべき方向を探る。
 プログラム
  14:30−14:35 分科会の進め方について(大沼淳一:ため池の自然研究会)
  14:35−14:50 「ため池周辺住民のため池に関する意識調査結果から」
     西村一彦(日本福祉大学)
ため池の保全・開発・利用について、どのようにすることが望ましいのであろうか。それに答えるにはまず、人々がすでに身近にあるため池に対して、どこが好きでどこが嫌いと考えているのか、ということを知る必要がある。つまり、ため池を構成要素に分解して、それぞれの要素がどれくらいの価値をもち、各ため池がそれらをどれ位づつもっているかということを明らかにしなくてはならない。そのような観点からの先行研究を調査し、紹介する。
  14:50−15:00 「知多半島・美浜町における矢梨新池クリーンクラブの活動について」
     木村泰三(矢梨新池クラブメンバー、美浜町教育長)
愛知県一のため池王国である美浜町。半島特有の照葉樹林に囲まれた矢梨新池は、ゴミが投棄されて汚れはてていた。地域住民が集まって毎月1回の清掃活動が始まり、植樹や散策道の復活なども手がけている。近くの小学校の清掃活動への参加も始まっている。
  15:00−15:15 「知多半島・東浦町におけるため池(厄松池、切池、飛山池)と里山を守るために」
     神谷明彦(東浦町議)
ホテイアオイが繁茂し、それが腐ってヘドロとなって蓄積するため池。繁茂した時点で除去してやれば、逆にため池の浄化につながるはず。立ち上がったボランティアグループは、ため池の継続的な水質調査と解析なども行い、確実に池を復活させている。里山とため池の一体としての保護保全も提言している。
  15:15−15:30 「ため池をよりよい形で残すために〜竹村新池の保全活動から学んだこと」
      大内秀之(NPOカエルの分校〜代理報告・大沼淳一)
NPO「カエルの分校」は、埋め立ての危機にあった竹村新池を、自然と共生する公園として残し、その自然の再生と保全に地域住民や小学校と共に取り組んでいる。一方、放棄された棚田を多様な生物の棲む湿地として蘇らせる活動もある。これらの活動から学んだため池保全のための方策について報告する。市民への意識付け、行政との連携、残されたため池の方向付け、ため池の支援体制づくり、学童達の利用促進、釣り人への啓発と住み分け、などがキーワードとなる。
  15:30−16:00 「兵庫県・いなみ野ため池ミュージアム構想について」
      米津良純(兵庫県東播磨県民局)
住民参加によるため池管理の先進地域からの報告である。ため池の数4万数千ヶ所、日本一のため池王国・兵庫県の中にあって、東播磨地方・印南野台地は最もため池密度の高い地域である。2001年に策定された東播磨地域ビジョンの4つの柱のひとつとされた「いなみ野ため池ミュージアム創設プロジェクト」は、地域の人々が主役となって、ため池の維持・管理・利活用の新しい仕組みを構築し、継承発展させていくとうたいあげている。
  16:00−16:30 討論

第3分科会 「環境教育」
 コーディネータ:土山ふみ・大内秀之
土山ふみ(つちやま・ふみ)
1948年生まれ。名古屋市環境科学研究所水質部 主任研究員。
著書:『ため池の自然−生き物たちと風景』、『都市の中に生きた水辺を』、『日本の水環境4東海・北陸編』
都市の水域(河川・水路・ため池等)の保全と再生に役立つ科学的知見を得るための調査研究を行っている。水域の総合指標とも呼べる『水の風景』の『保全』に興味を持っている。

大内秀之(おおうち・ひでゆき)
1945年生まれ。NPO『カエルの分校』代表。
著書・論文:『アテビ平の自然』『豊田の野鳥』
なつかしい生きものが次の世代も絶えないように、耕作放棄された棚田を周囲の山ごとお借りし、生きものの生息地として維持管理しながら、子どもたちの自然体験と学びの場として提供する活動などをしています。

 話題提供者:日比伸子・稲山雅一・松尾由美・大内秀之
日比伸子 (ひび・のぶこ)
1965年生まれ。橿原市昆虫館 資料学芸係長 学芸員。
著書・論文:『水辺環境の保全』 『里山の自然』 (共著)
橿原市昆虫館は奈良県唯一の自然史系博物館であり、私は特に、虫いっぱいの里山づくり事業や、大台ケ原自然再生事業昆虫調査、飛鳥川と蛍を中心とした環境保全や教育普及等に取り組んでいる。

稲山雅一(いなやま・まさかず)
1961年生まれ。日進市立西小学校 教諭。
水草水槽・ビオトープ・庭・里山等の望ましい環境造りと維持管理、登山における歩行法に興味を持っている。

松尾由美(まつお・ゆみ)
1967年生まれ。美浜町立河和南部小学校 教諭。
美浜町南部小学校に赴任して7年目。地域の自然を生かした総合的な学習の時間での指導を7年間に渡って行ってきた。16年・17年度は、6年の担任として、子供たちと共に新池植樹に携わった。

大内秀之(おおうち・ひでゆき)
 ※上記コーディネータ欄参照
 概要
環境の危機が叫ばれる今、人が作った二次自然である里山の自然環境の劣化が、大きな問題になっている。その里山を構成する重要な要素であるため池は、その数を大きく減らし、自然環境の変貌がすすんでいる所である。ため池を保全し再生してゆくためには、ため池の現状とその果たす役割等への認識や理解を深め、多くの人々に伝えてゆくことが大切である。
 ここでは、博物館や学校、地域のNPO等が、ため池を保全・再生し利用するために行っているさまざまな取り組みを紹介し、「ため池」に関する知見や「環境教育」を行う上での課題についての論議を深める。そして、今後、ため池の保全・再生のためには、どのようなことに取り組んでゆけばよいかをみんなで考えてゆきたい。
 プログラム
  14:30−15:10  「博物館から見た環境教育の課題と展望」
     日比伸子(橿原市昆虫館)
自然史系博物館としては、資料の収集・蓄積や、直接的に自然環境の保全に関わるだけではなく、自然を如何に地域に活かし、地域住民と共に歩み、次世代へと伝え繋げていくかという教育普及活動が重要である。橿原市昆虫館は大和・飛鳥の地にあり、周辺の里山里地環境を活かした環境教育や生涯学習を展開してきた。その中で見えてきた課題と今後の展望について話題提供し、ため池と人との関わりについて考えたいと思う。
  15:10−15:25  「小学校教育でため池をどう扱うか」
     稲山雅一(日進市立西小学校)
ため池の多面的な機能は、さまざまな教科・学年で格好の題材となる可能性がある。また、人口増加が著しい愛知県日進市では、ため池が埋められていく一方で、ため池を新しい姿で残そうとする動きもある。小学校教育の場でため池を扱う試みを紹介する。
  15:25−15:40  「自然と共に」 
     松尾由美(美浜町立河和南部小学校)
河和南部小学校を囲む美しい自然の中でも、新池は、四季の変化に富み、安らげるような場所である。その美しさを守るために、愛情をもって活動している人々や自然から多くのことを学び、豊かな心を育ててきた子供たちの活動を紹介する。
  15:40−16:00  「ため池の自然再生の試み」
     大内秀之(NPO『カエルの分校』)
ため池を、よりよい形で後世に残すには、市民が、ため池への正しい理解と認識を持つことが不可欠である。市民の意識の高まりが、ため池管理者や行政等の理解と協力を引き出す。一方、マナーの悪い釣り人などの対策も必要である。30数年に及ぶ長野県での自然との関わりや、埋立ての危機にあったため池や、耕作放棄された棚田の自然再生活動を通じ、学び、もがいたことを報告する。
  16:00−16:30  総合討論

第4分科会 「生き物の多様性」
 コーディネータ:矢部隆
矢部 隆(やべ・たかし)
1963年生まれ。愛知学泉大学コミュニティ政策学部 教授。
著書:『動物たちの気になる行動(2) 恋愛・コミュニケーション篇』(共著、裳華房)、『育てて、しらべる 日本の生きものずかん6 カメ』(監修、集英社)、『今、絶滅の恐れがある水辺の生き物たち』(共著、山と渓谷社)他
カメが大好きで、現在ではニホンイシガメ、クサガメ、ヤエヤマイシガメなど淡水生カメ類の生態、行動、進化、保全について調査、研究しています。最近では、ミシシッピアカミミガメ、カミツキガメ、ワニガメといった外来カメ類への対応に追われています。
 話題提供者:小鹿亨・飯尾俊介・矢部隆
小鹿亨(おじか・とおる)
1958年生まれ。安城市立今池小学校 教諭。
著書:『あんじょうのホタル−安城の動物ガイドブック−』(共著)、『新編安城市史資料編自然』(共著)
淡水プランクトンの分類(特にミジンコ類)、昆虫類(チョウ・オサムシなど)を調査、研究しています。また、絶滅のおそれのある野生生物や外来生物に関わる問題や、身近な環境をあつかった総合学習や環境教育のあり方にも関心を持ち、取り組んでいます。

飯尾俊介(いいお・しゅんすけ)
1941年生まれ。福花園種苗KK参与。
著書:『愛知の野草』(共著)
愛知県尾張部の湿地の植生調査をしています。愛知県森林公園展示館は、ハード面では自然史博物館としての機能を持っていました。しかし、学芸員の配置がなされていませんでした。5000点を超す措葉標本が整理、保管されています。動物、昆虫標本も集められています。愛知県内に、本物の自然史博物館が出来ないか、奮闘中です。是非お力をお貸しください。

矢部隆(やべ・たかし)
 ※上記コーディネータ欄参照
概要
我々の先祖は地形や地勢、水脈を読み取り、自然にあまり逆らわない形で、西日本を中心に数多くのため池を造ってきた。また田植えなど農業への水の利用に合わせて水量を変化させたり、定期的に池干しや除草などの手入れをしたりして、自然でも起こりうる適度な撹乱を引き起こしてきた。その結果ため池は、人為的な環境であるにも関わらず、生物の個体数や種類数が大変多いウェットランドのビオトープとして機能していた。
 ところが高度経済成長以降ため池は、埋めたてられたり、手入れを怠ったために湿生遷移が進みすぎてウェットランドでなくなったり、土手がコンクリートブロックで固められたり、余水吐けが造られたり、アカミミガメやブラックバスなどの外来生物の温床になったりして、かつての豊かな生物の多様性を失いつつある。
 そこで第4分科会では、本来のため池生態系の姿を再確認し、現在のため池の危機的現状を共通の認識とし、生物多様性を維持するビオトープとしてため池をどのように再生、復元していけばよいのかをみんなで考えたい。話題提供では、まずため池の生物の多様性を微生物の世界からかいま見る。そして多様な動物を育むため池の植生の重要性について知る。最後に、ため池の生物多様性を損なう一因である外来動物についての報告を聴く。
 プログラム
 
  14:30−14:40 分科会の趣旨と進め方についての案内

  14:40−15:00 「ため池のプランクトンと最近の話題」   
   小鹿亨(安城市立今池小学校) 
ため池の中には、顕微鏡で観察しないと、形態すらわからないような微小な生物が多く生息している。これらの生き物は、一般に生態的にはプランクトンと呼ばれ、ため池をはじめ淡水の生態系の基礎的な部分に大きく関係している。
 プランクトンには、ミドリムシなどの原生動物、単細胞生のラン藻類、緑藻類、ケイ藻類などの植物、多細胞動物ではワムシ類、甲殻類のミジンコやケンミジンコのなかまなどが含まれる。実に多くの分類群にわたっており、種類数がきわめて多いうえに、わかりやすい図鑑類などの資料も少なく正確な種の同定は難しい。したがって、地域にどんな種類が生息しているか、十分に調査されていない場合がほとんどである。
また、これらの生き物は、体が小さくライフサイクルが短いことなどもあり、水質や食料など条件によっては、しばしば急激に増殖して大発生することもある。低地にあるため池は、出現する種類数が多く、季節による種の入れかわりもあって、1年を通してさまざまな種類が出現する。
 淡水プランクトンでは、それまで分布していない種類が見つかる事例が多く報告されている。具体例として、オオビワミジンコ、スカシシカクミジンコ、タマミジンコモドキ、ヒメトゲナガワムシの記録、ビワクンショウモの分布拡大などがあげられる。それらの中には、温暖化による分布拡大や侵入、人為的な生き物の移動などが要因として考えられるものもある。
 近年において、ダフィニア属のミジンコが多く観察される傾向がある。このことは、ブラックバスやブルーギルなどの大形の肉食外来魚によって、本来ミジンコ類の捕食者である小さな魚が減少したことに関係しているのかも知れない。
  15:00−15:05 休憩

  15:05−15:25 「尾張部の新第三紀層に分布するため池の植生」
   飯尾俊介(福花園種苗KK)
湧水湿地に水源を持つ海上の森の篠田池、森林公園の岩本池、知多半島北部の長成池、南部の岩屋の池を見てみると、明らかに、植物相の違いがある。
 海上の森、森林公園、知多半島北部の池に水を供給する小さな流れや湿地周辺には、イヌノハナヒゲ類、ヘビノボラズ、トウカイコモウセンゴケ、ミミカキグサなどの食虫植物等が生えている。しかし、知多半島南部の池に流れ込む湿地にはヒメガマやミゾソバ、コナギなどのような、どこの湿地にも見られる植物しか見られない。
 それらの池は、いずれも新第3紀の地層の上に作られている。しかし、前者は鮮新世の地層の上に、南知多は中新世の地盤の上に形成されている。それぞれの地層が湿地及びそれに続くため池の植物相を規定しているように思われる。
 海上の森、森林公園のため池は鮮新世、瀬戸層群矢田川累層上にあり、知多半島北部は鮮新世、常滑層群布土累層上にある。何れも、東海層群の、粘土や円礫などより構成される、酸性の貧栄養土台地にある。粘土層が雨水の地下浸透を遮り、地下水位は高い。水を含んだ軟らかい粘土層は、貧栄養の湧水湿地を作り、そこは周伊勢湾要素の植物群を育む土壌となっている。
南知多の地層は中新世師崎層群の砂岩、礫岩等からなっている。雨水は地下に浸透し、地層面からしみ出して小さな流れを作る。砂岩、泥岩、礫岩上に水が流れても、植物は根付かない。風化した土壌が堆積して初めて植物は根付く。前者が貧栄養の粘土であるのに対し、後者は風化土壌であり、富栄養化した土となる。
 このような、岩質、地層の違いによって、湿地及びそれに連なる池の植物相は違ってくる。
 湿地から池に連続的につながる部分をエコトーンと呼ぶことがある。東海層群上の湿地を類型化すると、次のようになる。
  湧水上部・・・トウカイコモウセンゴケ、ミミカキグサ、ホシクサ類群落
  湧水下部・・・ヘビノボラズ、スイラン、サギソウ群落
  湿地・・・ヌマガヤ、イヌノハナヒゲ群落
  ため池汀線帯・・・ヒメホタルイ、タチモ、アゼナ、アゼトウガラシ群落
  ため池上部(抽水植物群)・・・カンガレイ、ホタルイ、フトイ、ガマ群落
  ため池部(浮葉植物)・・・カガブタ、ヒシ、ヒメコウホネ群落
  ため池部(沈水植物)・・・オグラノフイサモ、クロモ、エビモ群落
 今、東海層群にある湿地及びため池は急速に汚染が進み、水質悪化(富栄養化)と湿地帯の公園化が進められ、エコトーンそのものが消滅の危機に瀕しているように思われる。
  15:25−15:30 休憩

  15:30−15:50 「外来生物の温床と化した日本のため池」   
   矢部隆(愛知学泉大学)
外来生物とは、本来分布していなかった場所に人為的に持ち込まれ、野生化で繁殖している生物を指す。人間の身勝手さで運ばれたあと、原産地とは異なった環境の下で彼らなりにけなげに生きている。しかしながら外来生物は生態系を撹乱し、生物多様性を損なう一因となり、ときには人間の身体や産業に危害を及ぼすことから、地域の自然からは取り除く努力をせざるを得ない。
 ため池は最近では外来生物の温床と化している。特に、ミシシッピアカミミガメ、ウシガエル、オオクチバス、ブルーギル、アメリカザリガニの「ため池外来動物メジャー5」は各地で急増しており、在来の生物の減少に拍車をかけている。
 ミシシッピアカミミガメはミシシッピ川の下流域が本来の分布域であるが、稚ガメがペットとして合州国から輸出され、放逐されて世界各地で野生化している。我が国も大量に輸入しており、一時期は年間100万頭近くが毎年輸入されていた。その繁殖力のおう盛さから国際自然保護連合により、外来種ワースト100にも上げられている。
我が国でも各地で野生化しているが、対策は講じられていない。東海地方のため池でも急増しており、在来種であるニホンイシガメやクサガメと食物、あるいは日光浴や産卵、越冬の場所をめぐって競合し、在来種を排除してしまい、種の置換が進行しつつあるため池もある。
 オオクチバスは在来の魚や水生動物を食害することで知られている。ブルーギルもまた、小型水生動物や魚の卵や稚魚、水草を食害する。東海地方のため池でもこれらの外来魚により、在来魚が全滅に近い状態になっているところがある。ウシガエルはカエルや昆虫などの水生小動物を食害している。これら3種はいずれも北米原産で、3種とも特定外来生物に指定されている。
 アメリカザリガニはウシガエルのえさとして北米から輸入された。水田のあぜに穴を空ける被害があるほか、ヤゴなどの水生昆虫を食害している。またテナガエビなど在来の甲殻類との競合関係があるかもしれない。日本では、ウシガエルのみならず、サギなどの水鳥やカメ類などの在来の動物にとって食物となっている。
 ため池においては、ミシシッピアカミミガメなどの競合的外来生物によって在来種が排除されてしまったり、オオクチバスやブルーギル、ウシガエルのような捕食性の外来種によって在来種が食べ尽くされてしまったり、アメリカザリガニのように食物として生態系に欠かせなくなってしまったりする前に、外来種を駆除しなければならない。手遅れになる前の早急な処置が望まれる。
  15:50−15:55 休憩

  15:55−16:30 質疑応答および総合討論

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