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 これまでの研究会の記録

Last Updated: Feb. 21, 2005 

・第6回研究会2005年2月10日(木)                        第7回研究会の記録へ

 

日時:平成17210日(木) 14:0017:00

場所:独立行政法人日本学術振興会 麹町事務室会議室(ヤマトビル4階)地図など

 

参加者名簿(敬称略):

田島正廣 国際航業(株)

帯谷博明 立正大学文学部社会学科

高野安二 日本水フォーラム

山本俊太郎 東京大学法学部

岡田幹治 元朝日新聞社論説委員

森嵜成宏 日本工営(株)

大野智彦 京都大学大学院地球環境学舎

黒瀬総一郎 東京海洋大学水産学部資源管理学科

金子紫延 千葉大学自然科学研究科人間・地球環境科学専攻

高橋ユリカ ライター

まさのあつこ ジャーナリスト

五名美江 東京大学愛知演習林

蔵治光一郎 東京大学愛知演習林

 

話題提供者(敬称略):

話題提供1,田島正廣『統合的流域水資源管理における合意形成システムの構築についての検討』

話題提供2,帯谷博明『ダム建設問題の展開と地域再生の模索――環境社会学の視点から――』

話題提供3,蔵治光一郎・五名美江『流域委員会格付けプロジェクト構想について』

 

1.

『統合的流域水資源管理における合意形成システムの構築についての検討』

田島正廣(国際航業(株))

要旨:

流域レベルの統合的水資源管理(IWRM)における住民参加の合意形成システムの構築についての法制度改善の取り組みは,わが国のみならず,世界的な課題となっている.本報では,統合的水資源管理の合意形成システム,住民及び水利用者の参加のあり方(関与度)に焦点を当て,日本の流域管理の実態及びそれに関連する法制度の問題点を指摘した.その中で,水法で住民及び水利用者の参加を保証したフランス,住民参加を協議会方式で実現しているアメリカ合衆国,水法で流域委員会を位置づけ住民参加を保証しているブラジル等の先進的事例とそれが抱える課題を紹介し,今後のより良い統合的水資源管理を実現する上で要となる合意形成システムの構築について検討した.

 

講演資料(.ppt形式,3774KB)を参照のこと.

詳しくは,田島(2005)農業土木学会誌2005年4月号を参照されたい.

 

発表内容メモ:

1.わが国の水資源問題

・利根川から取水する都市用水の125m3/sが安定豊水水利権,35m3/sが暫定水利権である.・首都圏の既往最大平成6年夏季の渇水を防ぐには,渇水時15m3/sを確保する必要があると言われている.15m3/sあれば取水制限は不要ということになる.

・利根川の農業用水は,見沼代用水の取水量は44m3/s,葛西用水は25m3/sで莫大である.この両用水とも,都市化により農地面積が著しく減少している(計画当初と比較し約35%減少している).したがって,15m3/sの調整は,既存の農業用水の協力・調整により生み出させるはずである.

・莫大なお金をかけている開発している下水の再利用は,全国での今までの下水の再利用水量はわずか約1.9億m3(6m3/s)でこの事業はとても合理的とはいえない.

・新河川法には「流域委員会」という用語はない.法16条2項4の義務規定

を実現するための方法の一つが通称「流域委員会」である.

・流域委員会は計画課の所管で,渇水調整協議会,流域水利用協議会は水政課

の管轄である.

・淀川流域委員会に水利用者の参加は少なく,農業用水利用者は含まれていない.

・民間主導のケースとして矢作川方式は有名だが,運営には法的根拠がない.

 

2.海外

2−2<フランス>

・流域委員会が水法の下法制度化されている.その中で委員会の構成メンバーの割合決められている.

・ フランスでは,大きく6つのSDAGE河川流域に別れ,流域委員会が組織され,そのSDAGEの中をさらに,小流域SAGEに分割され,地方水委員会が構成されている.

  地方水委員会は,住民代表の市町村関係者が50%,水利用者が25%,行政機関が25%で構成されている.

  ブラジルのRS州では,フランスで流域委員会を参考にして,水法を策定し,流域委員会を構成している.委員会の構成は,NGOを含む住民代表が40%,水利用者が40%,行政機関が20%で委員会が構成され,水資源のマスタープラン等が議論されている.

  フランスの流域管理について,農業者(ノンポイント負荷)は大きな割合を占めるが汚染負担金の負担割合については,農業者は軽減されている.

 

2−3<アメリカ>

・ EPA(1998)のClean Action Planにより,流域組合が組織され,流域管理が行なわれている.州により異なる,法制度の下に運営されておらず,緩やかな協議会方式で運営されている.

  アメリカでは,裁判で決着を図る方式を改めるために合意形成システムである協議会が形成された.これは,双方の利益になる=WIN−WIN方式と言われている.

結論  

  今後は,フランス等を参考に,流域の住民,水利用者及び行政の関係者が参加する流域委員会を法制度化すべきである.

 

質疑応答:

・フランスでは公開討論をしていて住民には権利がなかったが,流域委員会になって権利が付与されたのか?

→フランスも日本と同じような縦割り行政の弊害があり,それを解決するために流域委員会が法制度化されたと聞いている.

・フランスでの「住民」には何が含まれるか.議員などの「代表者」が多く,漁民などは少ないのではないか?

→詳細はよくわからない.

・水査察を国連主体にすると大国の道具となり機能しないのでは?

→国際司法裁判所に持ち込まれた例が1つある(スロバキア・ハンガリー)水裁判所を作ろうという提案はあるが反対意見が強く合意に至っていない.

・農業用水は,間違いなく余っており,それを転用できれば水不足は解消する.しかし制度上の問題があり現実はそうなっていない.流域で現状の水利用実態を把握し限られた水資源を有効に利用する仕組みをつくることが課題であり,その課題を解消するために流域委員会を設立する必要があり,その委員会に調整の権限を法的にも付与する必要がある.

・本来,流域委員会で水利権調整を議論すべきなのに,水利用者である土地改良区(用水組合)は委員会のメンバーにほとんど入っていない.

・農水省は水利権返上の意思はない.用水の多面的機能を協調して守ろうとしている.

・しかし,用水組合,土地改良区としては,保障さえあれば水利権を少なく変更することは合意できるのではないか.

  問題は,どうすればそれを実現できるかである.農林省も農業用水を守るだけではなく,渇水にどのように協力できるかを真摯に検討するべき時期に来ていると思われる.流域委員会に農業用水利用者も参加してもらい,今後の水利用について議論し相互理解を図り,他部門間の水利調整を図る必要がある.特に,農林水省は,都市化地域では,渇水時,農業用水を有効に利用するための調整システムを検討すべきである.

 

2.

『ダム建設問題の展開と地域再生の模索――環境社会学の視点から――

帯谷博明(立正大学)

 

要旨:

大型公共事業計画に対する社会的批判や政府・自治体の財政難を背景に,ここ数年,事業計画の中止に至る事業が見受けられるようになってきた.その代表例がダム建設である.河川管理や河川開発をめぐってさまざまな取り組みや紛争が並存する今日,必要なのは,個別の事例を掘り下げるミクロ的な視点と,歴史的文脈・社会的文脈の中で対象を位置づけるマクロ的な視点をいかに相補的に組み合わせるかである.この報告では,日本のダム建設がこれまでどのように進められてきたのか,河川政策の変遷や計画決定過程を概観しながら検討する.つぎに,ダム建設問題の展開に重要な役割を果たしてきた環境運動の特質を通史的に整理する.その上で,数十年におよぶ紛争と事業計画の中止という事態を受けて,当該地域社会がいかなる課題に直面するのか,「地域再生」という視点から,徳島県木頭村や大分県大野町などの事例をもとに検討する.

  講演資料(.ppt形式,6146KB)紙資料(.pdf形式,14022KB)参照のこと.(紙資料ページごとのダウンロードは123456.内容は14022MBのものと同じです.)

 ・著書「ダム建設をめぐる環境運動と地域再生」

  分野「環境社会学」

 

 発表内容メモ:

1) 日本のダム建設と河川政策の変遷

・ 電源開発→水資源開発

・ 河川法改正など法律の変化  中央集権化

・ 多目的ダム計画数: 60〜70Sに急増(今残っている大規模ダム計画の多くがこの時期計画されたもの).80S後半〜90Sもダム計画増えたが,残っていた小流域の小規模なもの.

・ 社会的問題点4つ・・・@面的開発A受益/受苦主体が異なることB計画決定過程の閉鎖性C事業計画見直しシステムの欠如.

2) ダム建設問題と環境運動の展開

・例(木頭村・細川内ダムの例)

3) 巨大ダム建設計画中止後の地域社会再生

<木頭村・細川内ダムの例>

・第三セクター「きとうむら」(=反対運動の象徴として)1996年から.赤字体質など困難な経営.現在は外部の人的・物的資源を取り入れて,ネットワークとして「環境ビジネス」としての成立を目指す.

・ 伝統的な「林業」60年代は村内生産額の34%→2000年6%.公共事業依存するしかない建設業割合は15%→2000年には25%に.村民内でも利害の不一致が促進される.

<大分大野町 矢田ダム>

・ 成功の鍵?: 元々は反対運動において従属的立場であった二者,当事者の次世代「第二世代」 と 「水没地周辺部の住民」・『利域再生』で理念一致.第一世代のリーダーに代わりリーダーシップ交代立ち止まっていた状況が動いた.

・ 対比として,第一世代の自省

4) 新しい政策過程の構築に向けて

・ 合意形成システムの構築を目指した社会実験

  留意すべき問題: 『公共事業再評価委員会』は自然科学系研究者で占められ,住民の意見が入らないこと.

  例外的な良い例: 鳥取県三朝町中部ダム→金銭補償でなく,行政がダム建設中止後の住民生活再建対策チームを設置.

 

質疑応答:

        大野川は日本で1〜2番目に早く河川整備基本計画が制定された。

        きとうむら;全部株を買い占めた.農業用水(国会への質問)・工業用水の水利権が実は余っているのに推進していることを暴き,封じ込めた(王子製紙など).マスコミ戦略.

        市町村合併によって、大きい中での一部の問題になり、状況が悪くなる

 

 

3.

『流域委員会格付けプロジェクト構想について』

蔵治光一郎(東大愛知演習林)

要旨:

「青の革命と水のガバナンス」研究グループの活動として,全国の河川の流域委員会を網羅的に調査し,データベースを作成しつつある.作成の過程で流域委員会の委員選定過程,選定された委員の構成,議事の公開度などに関して河川により大きなばらつきがあることがわかったが,同時に,地域による特徴のようなものも見えてきた.我々は真の住民参加に近いものを実現しつつある模範的な流域委員会を評価し,そこから程遠い状況にある委員会を酷評していくことで,青の革命の実現を目指す「流域委員会の格付け」プロジェクトを行いたいと考えている.作業はまだ途中ではあるが,進捗状況を紹介し,流域委員会を対象としてどのような切り口で今後データを整理していけばよいか,どのような体制で格付けをしていけばよいか,などについて研究会参加者の意見を伺いたい.

発表内容メモ:

   ●蔵治からプロジェクト概要説明

 ・紙資料二部.

 ・2003年採択,現在1年2ヶ月.このたび進歩状況「A」で継続が許可されたため,平成20年3月まで.

 

    五名から流域委員会データベース作成進捗状況について説明.

 

以降データベースについて議事メモ:

 ・構成,専門表記,選定方法については,(委嘱についての分類はよい気がするが,あとは)評価しずらそう.住民参加も完全にABCD評価微妙?見せ掛け (デモンストレーション,いいわけ)の場合もあるため.「いかに広報を徹底的にしているか」とか.

 ・とはいえ,ABCD評価は微妙(はっきり順位つくものでないのもあるし)だが,これはこれでぱっと見のインパクト(各方面への威圧)もありいいのでは.

 ・マスコミからの評価/市民各立場からの評価/行政からの評価で異なると思う.

 ・ダム問題など,委員会設置の背景がわからないと意味がない.

 ・HPができているところだけだから偏っている

 ・委員会設置背景・(具体的)目的(趣旨文),マスコミからの取り上げ方,委員会構成に農民漁民NGOがはいっているのか.数字・グラフ化すると問題の主題がわからなくなる.流域別で(地域条件があるし)見るべきで,『地域別』みたいに分類して評価するべきでない.

 ・第一歩だからこれでもいいのでは.

 ・基礎資料としてありがたい.

 ・ソフトとハード.河川局内でも,河川計画(河川計画課),水行政(水政課)で担当異なる.

 ・クローズドな情報ではなく,オープンな情報を使いたい.とにかく今は基礎的な情報公開>議論が展開されるはず>フィードバックを受けたい.

 ・「住民の中身がしりたい」『住民とはなに?』

 ・公募の裏側が重要.公募という形をとりながらもクローズド(フィルタ)という例も.

 ・『C住民参加』の評価が難しい.みせかけの場合もあるため.

 ・ダム問題だけでなく,防災・環境保全・地域開発など,各流域がもつ色んな可能性を総括的に見ているか,という見地からも評価するべき.

 ・住民参加(結局意見は通らない),ではだめで.住民参画でないといけない.

 ・原科先生(東工大)の評価指標がよいかも?

 ・せっかく住民参画したとしてもその意見が通らない場合もある.

 ・とにかく情報公開は続けていく.院生主体のワーキンググループを立ち上げたい.院生,アドバイザー(たとえば桑子先生/原科先生・流域委員会に入っている研究者の方など)への呼びかけ.

 ・理想流域モデルを作るというバックデータとしてでないとダメではないか?

 ・具体的目標(成功事例)などがないと,スタンダードの低いまま広がっていくのでは?

 ・日本に良い例はないので,フランスなどの例でもいい.

 ・方針が決まってから議論しないといけないのにそうなっていない(ガスヌキ)組織が多いのでは.

 ・実態把握がまず始めで,次に「基本方針」「基本方針を先に作ってから計画しているか」「計画」もわかってくるのでは.

  

 

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©2004. Research Project on Global Governance of Water.