秩父森林実習・植生調査
目的:森林の取り扱いを考えるためには、対象となる森林がどのようなものであるかを認識する必要がある。森林は、気候、地形、そこに分布する植物相、人為などによりそれぞれの場所で独自の生態系を発達させるが、目の前の森林がどのような位置にあるのかは、まず、その森林の構成を把握することから始まる。植生調査はそのための重要な手法のひとつである。多くの森林は垂直的な階層構造をもっており、それが、森林における生物の多様性の維持と密接にかかわっている。そのため、階層区分
と樹種の同定、それぞれの現存量を把握することが大切である。一方近年、森林における生物の多様性を評価の観点から、枯れ木や倒木、樹洞の有無などが、森林の特質を評価するうえで、重要であるとの考えが広がっている。そこで、実習では、秩父演習林の落葉広葉樹林を対象に、その内容を説明できる資料を取得したい。また、その結果を他のタイプの森林と比較することにより、山地帯天然林の特徴について検討したい。

調査地秩父演習林27林班山地帯天然林生態系試験地の一部を使わせていただくことになりました。東西南北25m四方のコンパス測量、杭打ち済み地区です。杭番号J3付近を使用予定です。

作業内容 調査は、東京大学秩父演習林及び北海道演習林の長期生態系プロット調査法に準じます<<参考資料>>  <<秩父演習林の野帳>>

初日午後
1.調査プロットを設置する・・・まず25m四方の方形区を、四隅の杭位置をポケットコンパスとケン縄(または巻き尺)を用いて測量し、確認する。四辺にスズランテープを張る。これを各班1つずつ、全体で隣り合わせで4つの50m四方ないしは25mx100mのプロットを設定する。作業が早ければ、プロットの大きさを2倍にするかもしれない。 <<調査区位置図(予定)>>


2日目
植生調査法の基準は、東京大学演習林長期生態系試験地の手順、特に秩父演習林と北海道演習林の方法に準じて行います。(詳しくは、芝野他 1996 を参照)
2.方形区の中の胸高(山側根元から樹幹に沿って地上約1.3m)直径5cm以上の全ての樹木の胸高の位置に、チョーク(後日,白ペンキでなぞります)で水平に線を引き、胸高直径(DBH=diameter at breast hight)の測定位置に印を付ける。今回は、より細い木も、適宜測定しましょう。
3.胸高直径を、直系尺で測定する。測定しながら、胸高直径測定位置の10cm下(1.2m位置)の山側に釘でアルミニウム番号札を固定する。樹木番号と測定した直径の値を、ノートに記録する。

  ※測定する木の順番は、5〜10年後に再調査するときに見つけやすく、作業しやすいように、ということにも配慮します。通常は、適度の幅で等高線沿い(横方向)にプロットの上からジグザグに進みます.
  ※測定器の使い方を確認する。手で触れてなれる。交代で、全員がいろいろな作業を体験するように努めよう。記録には用いませんが、輪尺などの測定用具も手にとって体験する予定です。
  ※必要な人数と役割分担を確認(初日夜)
  ◎ 全ての木を測ることが可能か、効率的か、合理的か。
  ◎ 測定木の選定基準は、どう考えたらよいか。一般的には、どのような基準が用いられているか。→→→ 実際には、胸高位置の直径(胸高直径)が2cm以上とか、樹高が2m以上とかいう基準で、それより太い(高い) 木だけを測定する。{秩父演習林の長期生態系プロットでは,胸高直径5cm以上を基準して,多少細い木も測定しています.実習の調査地は,比較的小径木が多く,もう少し細い木から測定を始めるのが適切でしょう.)
4.測定木の(根元の)位置図を作成する。
  ◎どのような方法が効率的か。(26日夜に確認する)方形区の中での樹木の位置を確認する方法を工夫せよ(手分けして/5m四方の細分区を設置する、プロットの2辺に距離を書いておき直行する2辺に1人ずつたって、xとy方向の位置を記録者に伝える、など)
  ◎今回は、レーザー測量機による測定も実習する計画である。
5.草本層、低木層、亜高木層、高木層の高さと被度を記録する。各プロットの5mごとの格子点の位置、計16箇所で記録する。被度は、20%刻みで、5段階にわけ、目測で評価する。
  ◎各層の区別は可能か。どのような基準で区別するか。
6.樹高の測定(おまけ、時間に余裕があったらやってみる)
  作業の進行状況をみて、樹高型、ブルーメライス、電子測高器などを使ってみる。
7.枯木や倒木も無視はしない。植生調査プロット内、ないしは近隣でトランセクト法を実施する。

8.余裕があったら、プロットの一部で実生を記録し位置図を作成する。
 ◎レーザー測量機の利用
 ◎その他の方法
 ◎どの樹種の実生を調べるか
 ◎どの位置のどの面積で調査するか
 (全部の樹種を調べるには限界がある、識別も難しいものがある。


  ◎選定・記録の基準は。記録する項目としては、何が有効か。枯れ木や倒木の森林における機能として、どのようなものがあるか。

資料

入川山地帯天然林生態系試験地で記録された主要樹木

参考文献)芝野伸策・岡村行治・高橋康夫・渡邊定元. 1996. 森林の動態解明のための針広混交林帯での大面積長期継続調査地設定の方法. 日本生態学会誌 46: 155-168. <<本文画像>>

     秩父演習林大面積長期生態系プロットの林分構造と動態、長期生態系プロットによる森林生態系の解明(平成10〜11年度科学研究費研究成果報告書、代表・梶 幹男):40-63.<<本文画像>>

     大面積プロットによる秩父地方山地帯天然林生態系の解明(平成6〜8年度科学研究費補助金研究成果報告書、代表・梶 幹男)、127頁 <<参考画像>>

秩父演習林の <<主要樹種 落葉図1>>  <<主要樹種 落葉図2>>

入川生態系試験地 植生断面図1(斜面中腹部1) 植生断面図2(斜面中腹部2) 植生断面図(尾根部)

入川生態系試験地 地形図1 地形図2 地形図3