プロットの特徴: 東京大学富士演習林の3林班3小班の標高約1,050mの,1920年代後半に植栽されたカラマツ人工林が天然性の落葉広葉樹あるいは針広混交林に移行しつつある林分内に設置した(位置図)。演習林は、富士山麓東斜面の北緯35度24分・東経138度58分にぼ位置し,標高990m〜1,060mの北から北東向きの緩斜面にある。山梨県南都留郡山中湖村山中および平野の両地区にまたがっている。気候は,表富士の海洋型から裏富士の内陸型気候への移行地帯にあたり,やや湿度の高い寒冷地である。標高1,000mの気象観測点において1952年から継続して観測されている結果によると,1989年から1998年の10年間の年平均気温は摂氏8.3度,最低気温はマイナス21.9度,最高気温は32.6度,平均年間降水量は約3,000mmだった。1998年1月から1998年12月までの1年間の平均気温は,摂氏7.8度,最寒月は1月で月平均気温摂氏マイナス7.5度,最温月は8月で月平均気温摂氏21.3度,年降水量3,697ミリメ−トル,最大積雪深130センチメ−トルであった。 

プロット設置および調査経過

 プロットの設定
 1998年夏に、南北および東西方向の一辺が水平に25mの方形区画をポケットコンパスを用いて測量し,四隅にプラスチック製の杭を打った。南北および東西に2つずつの4つを合わせて,50m四方の方形区を今回の調査プロットとした。また調査上の便宜のため各杭の側に2mの測高ポ−ルを立ててある。(写真
 プロットは,石田(1976)の植生断面図調査の行われた位置を含み,将来拡張することを考慮して,植生が比較的均質にまとまった林分の東西の歩道に挟まれた中央部の北側の任意の地点を起点として設定した。
 植生調査
 植生調査の方法は,北海道演習林(芝野ら 1996)ならびに秩父演習林(梶ら 1997)で実施されてきた方法に概ね準じて実施した。以下に,富士演習林における調査の概略を示す。
 1999年4月2日に西半分の25mx50mの区域,同年11月11日に東半分の区域の胸高直径を測定してプロット内の毎木調査を行った。また,同年12月初旬から中旬に,一部の木の欠測および記録の誤り等の再確認のための測定を行った。本来ならなるべく同時に実施すべきだが,演習林管理業務の都合で時間の隔たった2回に分けて実施した。
 プロット内にある胸高(樹幹に沿って根元から約1.3m上)直径約4cm以上の樹木の樹種を記録し,直径尺を用いて胸高直径を測定した。測定位置の樹幹周囲には,同じ位置で繰り返し測定ができるようにあらかじめ白ペンキを塗った。
 胸高直径を測定した木には,原則として測定位置のすぐ下にステンレス製の番号札を,ビニール被覆の針金と釘でとりつけた。針金付きの番号札の製作は,北海道演習林に依頼した。
 25mのプラスチック杭の間を斜距離で5等分して木製の杭を打ち,杭間にビニールテープを張って示した5m四方の枡を位置の基準にして,胸高直径を測定した樹木及びカラマツを主とした上層を形成していた木の倒木の位置を記録した(写真)。

 温度ロガーによる林内微気象(気温)の観測
 Onset社製の温度ロガー(H08-0001-02)を,細工をした防水プラスチック箱(約9cm x 6cm x 3cm)と製作した底のない小型百葉箱に入れて林内に設置した。ロガーの基盤に約5cmのニクロム線で接続されている温度センサーをロガーのケースから引き出し,芯の銅線を抜いたコードのビニール管に割れ目を入れて通し,防水箱の横にハンダゴテで小穴を開けてセンサーの頭だけを外に出し,温度センサーが直接外気に触れるようにした。これによって,ロガー周囲の気温と測定温度のずれを最小限にした。ロガーは,防水ケースごと,小型百葉箱内に布テープとマジックテープで固定した。この気温測定装置は,富士演習林で製作した同一規格のものを,他の6演習林・研究所・試験地に配布した。
 地上から約1.5mに7カ所,4mに3カ所,8mと15mに2カ所ずつの,計14カ所に,上記の温度ロガーを設置した(写真)。また,測定値を本演習林で48年間継続して観測している気象観測の記録と対照させるために,同観測地点の百葉箱中に1個の同一の防水箱入りデータロガーを設置した。
 調査区画内および調査区と連続する林内の2地点において,隣接する2本のカラマツの間にロープを張って滑車を取り付け,その滑車にロープを通し,そのロープに小型百葉箱を固定することによって,地上から4m,8mおよび15mのカ所に設置した。1地点においては,低木の幹に直接滑車をとりつけロープを通して地上から4mの位置に設置した。これらのロガーの回収は,ロープを繰ることによって地上で行っている。これら3地点には,ロープの直下に杭を打って地上から約1.5mの高さにもロガーを設置した。
 この小型ロガーによる林内微気象の気温は,10分間隔で1日に144回の割合で測定した。ロガーの記録容量に準じて50日以内に防水箱ごと交換し,シリアル接続を介して,onset社の読みとり,観測設定およびデータ参照機能を持つアプリケーションであるBoxCarPro3.5d(マッキントッシュ用)を用いて観測記録をコンピューターに取り込んだ。
 林内微気象の気温測定は,1999年1月から設置位置の選定および試験測定,ロガーの交換やデ−タ回収の手法についての試行錯誤を経て1999年8月から本格的な観測を開始した。

● 今後の調査

 初回調査から5年経過する2004年に,最初の比較調査を実施予定.東京大学演習林としても,長期プロットの維持・継続調査体制を検討している.1979年に調べた,植生断面図による森林構造と,20年余り経過後の変化をあきらかにする.概観では,上層のカラマツの倒木が進み,下層植生からはハナイカダが消失して,二次遷移種の一部もすでに交代し始めている.

プロットの写真

プロットの観測・研究施設:林外

温度ロガー実測記録(観測開始予定→公開予定/観測者・石田 健)

参考文献

  石田健. 1987. 植生断面図によって評価した森林の空間構造と鳥類の多様性. 演習林報告(東京大学農学部附属演習林) 76: 267-278.

  石田健. 2000. 富士演習林に新規設置した長期森林生態系調査プロット. 平成10〜11年度文部省科学研究費補助金基盤研究B(2) 長期生態系プロットによる森林生態系の解明(代表・梶 幹男)研究成果報告書, 83-102. (本文リンク