野鳥を追いかけ始めて

 著:江口由典

 2012年5月頃、私は職場の先輩に誘われ、鳥類の繁殖期ポイントセンサスに初めて参加した。 演習林が実施している繁殖期ポイントセンサスとは、5月中旬~6月下旬の間に各調査区につき、あらかじめ設定した5か所の調査地点において、 その点を中心とした半径50m以内(上空も概ね50m)で確認した鳥類を記録する調査のことである。 早朝の5時から開始する調査に、早起きが得意であった私は遅刻せず参加することができた。 しかし、「早く寝なければ!」と気持ちが落ち着かず、いつもより早めに寝ることが出来なかったので、ほぼ一睡もせず調査を迎えてしまった。 調査が始まり、辺りを見渡すものの全く野鳥が見つからない。更に、鳴き声は聞こえるのだが野鳥の識別は全くできなかった。 ポイントセンサス調査が1か所終了したとき、先輩が記録する調査野帳を見せて頂いた。 10種類近くの野鳥が、この半径50m以内の調査地点を通過した、囀り(さえずり)が聞こえたと書かれていた。 私は「こんなにも多くの野鳥が存在していたのか、それなのに全く判別できないのか。」と思い落胆した。 出発前に先輩から、「最初は野鳥が見つからないし、囀りだってわからないよ。」「続けていればいつの間にか識別できるようになるよ。」 と声をかけて頂いたのだが、内心「本当に自分が識別できるようになるのだろうか?」と不安に思っていた。 そして、2012年は全く識別できることなく調査の期間が終わってしまった。

 2013年、再びポイントセンサス調査の時期が来た。この年は6月に2回参加できた。 私は昨年と比べ、やや上達したのか比較的観察が容易で、特徴のある囀りをする野鳥を識別できるようになっていた。 この時、私が識別できるようになった野鳥はエゾムシクイ、センダイムシクイの2種であった。特にセンダイムシクイは覚えやすかった。 姿は見えないのだが、「チヨ、チヨ、ビーッ」という囀りがよく聞こえた。聞きなしは「焼酎一杯グイ。」と言われている。 このように、1種でも識別ができるようになると、次第に野鳥を発見する喜びや興味が湧いてくるようになり、 気が付けば調査のみならず普段からも野鳥の動きや鳴き声に耳を傾けるようになっていた。

 2014年は、ポイントセンサス調査に4回参加できた。調査中に、自分が野鳥を追えるようになっていること、囀りを聞き、 種類を識別できるようになっていることが少しであるが実感できた。 また、日常では自分の住んでいる職員住宅の庭に野鳥が度々来ていることが分かった。 2年前、私は先輩から「庭に野鳥が遊びに来ていないかい?」と聞かれたところ「来ていませんよ。」と何気なく答えたことを思い出した。 その時は野鳥が来ていないのではなく、見つけられていなかったのだと、今になって理解した。

 このように、私は野鳥を探す意識を変えただけで少しではあるが識別が可能になり、 日常でも鳴き声を聞くことや姿を追えるようになれたのだと思う。意識の変化としては、鳥がいるという意識から、 今飛んでいた鳥の名前は何だろう?今鳴いている鳥は何という鳥だろうか?と変わっていった。私はまだ駆け出しではあるが、 野鳥の奥深さ、可愛らしさ、美しさといった野鳥の魅力を堪能させてもらっている。それは普段あまり意識していないだけで、 ごく身近な日常にも存在するし、山、森、川といった場所が変われば、さらに多くの魅力を堪能できると思っている。 将来、この魅力に取りつかれた仲間が増えることを祈っている。

コサメビタキ 2014/7/17 職員住宅庭(左)、シジュウカラ 2015/2/6 東大樹木園(右)