ホオジロ親子のたくみな技と連携プレー

 著:齋藤純子

 ホオジロはその名のとおり頬が白く、スズメに似ていますが尾がやや長めで、全国的に見られる留鳥です。 標高1000mにある富士癒しの森研究所でも林内全域で出会うことができます。 やや明るい林の低木、草が茂っているところなどから「チチッ チチッ」とか「チチチッ」と地鳴きが聴こえてきます。 人の存在を察知し、素早く木々や草の中に姿を隠しますが、目の前を横切ったり、茂みから飛び出したり、鳴きながら林道にひょこっと出てきたりと、驚かされることもしばしばです。 このように、ホオジロは当研究所では身近な存在の野鳥で、子育て期間以外は、オス・メス1羽ずつ一緒に、もしくは単体で行動しているようです。 冬、雪が降って銀世界になった時や冷え込みが厳しくなると、低地へ移動して採食しているからでしょうか、あまり姿を見かけなくなります。 春や秋には高木の梢にとまり高々とさえずっている姿が見られ、繁殖期には親子や巣の痕跡も確認しています。

 とても印象に残ったホオジロ親子との遭遇をお話したいと思います。 時は2010年6月。午前中は雨模様、午後は晴れて初夏らしく気温が上昇した日でした。  林道を歩いていると行く手の方からホオジロの複数の地鳴きが賑やかに聞こえてきました。 立ち止まって双眼鏡を覗くと、成鳥と地味な羽色の個体が混じった群れがいました。 給餌の様子からも、親子だと確信。 観察できる嬉しさ半面、さて困りました。 行く手を遮られてしまいました。 先にホオジロ親子が移動してくれるのをしばらく待っていましたが、その様子はありません。 意を決し警戒されること必至で、そろりそろり、歩き出しました。
  すると、親鳥と幼鳥が呼応し鳴き合う間隔と私が近づく距離とがまるで比例するかのように短くなっていきました。 そして親鳥の鳴き声が変わった瞬間、ついに幼鳥たちはぱっと飛び散り、膝丈もない草の中へダイブ。 2メートルも離れたかどうかという程度ですが、すっかり姿を隠し沈黙してしまいました。
  親鳥は逃げることなくさらに目立つようにして、太い蔓にとまって鳴き続けます。 雄の親鳥でしたが、5メートルも離れていない私を見ながら、羽を膨らませて体を小刻みに動かしたり、羽をバタつかせたりするような不思議なしぐさや行動を始めていました。 その決死の様子から擬傷行為と思えました。

蔓に2羽、上の方が幼鳥、下が親鳥。幼鳥の位置は地上より2mない高さ

 近くの茂みに隠れている幼鳥たちを守るためだろうと感じたのですが、最大の理由を発見しました。 それは逃げ遅れてしまった1羽の幼鳥。親鳥から1メートルも離れない、同じ太い蔓の上の方にとまっていました。 ただじっと、ぴくりとも動きません。 瞬きもせず、まるで木と一体化してるように。 近距離であったことで見破れましたが、もう少し離れていれば樹皮と羽の色・模様がカモフラージュとなって気が付かなかったかも知れません。 幼鳥のくちばしは未だ黄色の縁取りがあって大きく、巣立って間もないと推測できました。

 2週間後、同じ親子と思われるホオジロたちに、前回の遭遇場所付近で再会しました。 幼鳥は体がすっかり大きくなり、くちばしの黄色い縁取りもありません。林内を自由に飛び回るほどの十分な飛翔力で、ある程度の距離をうまく保ちながら、全員で元気に私を警戒していました。 偶然にも出会えたこの親子にとっては迷惑だっただろうと思いますが、親鳥の子を守る非常に興味深い行動と、幼鳥の危険を察知したときの行動を間近で見せてくれました。 またいつか研究所のどこかで新たな発見を教えてくれるかもしれません。

まるで置物のよう。大きな黄色いくちばしと足で幼さがわかる