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    野生動物(特にエゾシカ)にまつわる最近のさまざまな問題

 近年、日本各地で野生動物にまつわる様々なことが、大きな社会問題となっています。 農作物への食害など加害種と農家さんの関係という、ゴンベが種蒔けばカラスがほじくるという昔ながらの図式から、市街地にツキノワグマやイノシシが出現して人が負傷するという被害、見たこともない外来種の侵入による生態系の攪乱、動物を介在して思いも寄らない地方からの伝染病の伝搬などと、多種多様で複雑な様式を持った危険が、普段の生活に迫りくる、何か恐怖めいたものを感じさせる事例が増えてきました。

 富良野地方で一番目立つ野生動物の問題は、やはりエゾシカによる農作物被害でしょうか。 全道的、特に道東地方での被害が深刻で、被害状況や対策についてよく新聞報道に取り上げられています。 ちょっとピンとこないかも知れませんが、富良野地方においてもエゾシカによる被害が相当大きな問題となっています。 2005年度に富良野地方で駆除されたエゾシカは、過去最高の705頭だったと北海道新聞にありました。 それでも、演習林でエゾシカによる樹木の食害被害が毎年のように起きています。樹木の皮が食べられるのは、2月後半から雪解けまでの期間です。 積雪期には、移動性・水飲み場・隠れ場などの条件が揃う、沢沿いが越冬場所として良く利用されます。 オヒョウという樹種がよく食べられるのですが、エゾシカの越冬場所に生育していたオヒョウの多くは、幹全周の皮を食べられ枯死しています。

 農地でのエゾシカによる被害はもっと深刻な状況となっています。 ふらの農協さんの聞き込み調査によると年間の被害総額が5億円近くになるそうです。 少しでも被害を減らすために電気牧柵が農地の周囲に張り巡らされてきました。 それに加えて、麓郷から布礼別地区ではこの2ヶ年で総延長80km(演習林に隣接する距離は、およそ15km)におよぶシカ柵が、防衛施設庁の予算によって敷設されています。 ちょっとグロテスクな写真で申し訳ないのですが、下の写真はシカ柵の近くで死んだ雄ジカの哀れな姿です。 たぶん、シカ柵に沿って歩き沢の柵が切れたところから農地にでたものの、帰り道が判らなくなり柵を飛び越そうとしているうちに怪我をして、死んでしまったのだと思います。 こんな風に死んだ個体が、どれくらいいるのかと、ヒグマにあったらどうしょうとビクビクしながら、11月下旬に二日間をかけて、シカ柵沿いに15kmを歩きました。 多いか少ないかは判断できませんが、死んでいたエゾシカは4頭でした。 雪が積もりだした畑では山に戻れなくなった何十頭もの群れが、人の気配に驚いたのか一斉に駆け抜けていきました。

 実際に被害を受けている方からは、お叱りを受けるかも知れませんが、最後に動物の立場になって代弁させてもらうと。 「ちょっと聞いてよ!もともと棲んでいたところを追われたり、カラマツ造林地のように一種類だけ樹木をどこまでにもわたって植えられたり、飛行機や船に乗せられて遠くまで運ばれたりと、元をただせば俺たちの責任じゃないでしょう。」という嘆き声が聞こえてくることも忘れてはならないと思います。

Iguchi,K.

 

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