強く・気高く・美しい猛禽、オオワシ(前編)

 著:松井理生

 「三ノ山の電柱にオオワシがいましたよ!」
現場での調査から事務所に戻ってきたK先生が私に言いました。
三ノ山は富良野市の南東部を流れる西達布川の上流域にある地域名で、周囲は北海道演習林の森林に囲まれています。
「えっ、オジロワシじゃなくてオオワシですか?」本当にオオワシかなぁと訝る私にK先生は「写真も撮りましたよ」とデジカメの画像を見せてくれました。オオワシの外見は、成鳥になると黒と白のパターンがはっきり目立つ特徴がありますが、画像を見ると間違いなくオオワシの成鳥です。
「とうとう富良野にまでオオワシが来るようになったのかぁ・・・。」
2005年3月7日の出来事です。

勇壮なオオワシの姿

 オオワシは翼を広げると2m以上になる、日本国内で見られる最大の猛禽類です。国内では繁殖はせず、冬になると日本に渡ってきて越冬します。渡ってくるオオワシのほとんどは北海道で冬を越しますが、その多くは流氷が流れ着く北海道北東部のオホーツク海沿岸部に集中しています。それは、北海道の代表的な冬の漁であるスケトウダラ漁や氷下漁が知床や根室を中心として盛んに行われているからです。ワシ達はその漁のおこぼれを厳しい北海道の冬を過ごす重要な餌資源の一つとしているのです。また、オオワシと同じ大型のワシの仲間にオジロワシがいます。こちらもオオワシと同様に冬に北海道に渡ってきますが、わずかではあるもののずっと北海道にいて繁殖する個体もいます。こちらは精悍で、いかにも正統派なワシの顔立ちをしています。

 私が故郷の新潟県を離れ、北海道の帯広市で大学生活を送っていた1990年頃は、知床がオオワシ、オジロワシの一大越冬地として有名でした。知床半島の北西側は斜里町、南東側は羅臼町になりますが、羅臼町の羅臼漁港で冬のスケトウダラ漁が盛んだったことが影響していました。学生時代に一度は冬の知床に行ってワシを見たいと思いながらも、なかなかその機会がなかったのですが、4年生となった1994年の2月に友人とようやく訪れることができました。車で約5時間かけていよいよ憧れの地、羅臼町の羅臼漁港がある中心部へと近づくにつれて、電柱に止まっていたり、上空を飛んでいたりするワシの姿が目につくようになります。その都度、車を止めては興奮しながら双眼鏡でのぞいている私たちのそばを、地元の小学生が「ワシなんて珍しくないよ~」と小馬鹿にしながら通りすぎていきました。「こんな光景は普通じゃないんだからな!」と気を悪くしながら羅臼漁港に車が着くと、先ほどの小学生の言葉に納得せざるを得ない光景がそこにありました。漁港にたくさんのトビが集まるのはよく見られる光景ですが、最初はここにもトビがたくさんいるなぁと思ってよく見たら、そこにいるのはすべてオオワシとオジロワシではないですか。
「これはすごい!!」
目の前の光景に唖然とさせられたことを今でも鮮明に覚えています。

流氷の上で採餌するオオワシとオジロワシ

 上空を見ると、一羽のオオワシが真っ青な空をバックに勇壮に飛んでいました。オオワシは胴体と羽の黒色と、羽の肩の部分と尾羽の白色のコントラストがとても鮮やかです。そして、嘴と足の黄色が3色の色合いをより引き立たせています。その姿がたまらなく美しく感動的で、私はすっかり見惚れてしまいました。
「こんなにも大きくて美しい鳥が、この北海道にはたくさんいるんだなぁ・・・」
卒業を目前に控えながら、就職が決まらず大学にもう一年残ることになっていた私でしたが、やっぱり北海道で就職したいなぁと、この時に強く思いました。

※なお、これらの画像は2013年2月に羅臼町で撮影しました。