世界の写巣(しゃそう)から in 千葉演習林

 著:阿達康眞

 ちょっと昔の事ですが私が野鳥に目覚めたばかりの頃のお話。 きっかけは偶然2006年4月に、職場の先輩が研究で使っていた防犯用赤外線センサーカメラ (当時フィールド用センサーカメラがあまり普及していない時代)を借りられる事になり 「あ~普段見れぇねぇ世界が見てぇ~!!でけぇ木の上にでけぇ巣箱掛けたら未知の生物が 来るんじゃね?」というとてつもない衝動にかられ何の計画・予備知識もなく勢いだけで樹上に大きな巣箱を掛けたのが始まり。
 巣箱を設置したのは当時配属されていた作業所(君津市)構内のヒマラヤシーダ。 観察方法は当演の間伐材等で製作した大型巣箱(以下:Monster Box)内に取り付けられた センサーカメラの映像が作業所内のビデオデッキに録画され、出勤時毎朝確認するだけの単純作業。 それをとりあえず2年ほど続けてみた。今思えば飽きっぽい性格の私が良く続いたものだ。

ヒマラヤシーダ(現在直径111cm)(左)、設置した大型巣箱(通称:Monster Box)(右)

使用したセンサーカメラと巣箱内の様子(左)、ビデオコントローラー付赤外線センサーカメラ配線接続図(右)

 観察当初は凄くワクワクしながら通勤していたが、無情にも何も録画されることなく月日は過ぎ去った。 しかし、モチベーションが超下がりかけたある日、ついにビデオカウンターが“時„を刻んだのだ!
 テンションMAXで映像を巻き戻し確認してみるとそこに映っていたものは・・・・・・・・・・・・・・・

「えっ!?何?コレ?ハァ?マジ?えーッ( Д) ゚ ゚」

 何とそこには大きなカモの仲間が映っていた。
 今でもDuckり、否ビックリしたことを鮮明に覚えている。当時、無知だった私には(現在も無知進行中)本当に想定外で、 自分の中の“Monster Box利用動物リスト„には【カモの仲間】は微塵も入っていなかった。 ビデオ確認中に他の職員が続々出勤するなか、ただただ在り得ない気持ちで暫く呆然と画面を眺めていた。 ちなみにリストとしては未知なる新種、フクロウの仲間、リス、ホンドテン、ムササビの他、モモンガなどの樹洞を利用する 篭脱けしたペットを想定していた。
 う~ん、カモはさぁちょっとねぇなぁ~って
 しかし、逆に想定外だったので「ちょっと面白いカモなぁ」と興味がわいた。ビデオ映像が白黒なため不鮮明だったが、 顔に特徴があったので図鑑で確認してみるとオシドリのメスだと判明。
 このオシドリを皮切りに色々な動物が訪れてくれた。当時はまだ機器が発展途上?のため日付等が表示されなかったので 映像を確認した出勤日から推察した一例を簡単に紹介する。2年間で色々な動物が利用した。

巣箱内の様子

 中でも特にオシドリが長い期間利用してくれたのでまとめてみた。 ビデオデッキの設定?で2008年の途中から録画画面に時間と曜日が表示可能に。

 今回はハイテク器械?のおかげで巣作り~産卵~巣立ちまで観察する事が出来た。 巣立ちの日は至極の一瞬を逃さぬよう日頃のチームワークを生かし、他の職員がモニター確認、 自分は屋外でのカメラ撮影と万全な体制で臨んだ。「いったいあの高さからどうやって巣立つん? 果たして無事で済むんかい?」と不安と期待のなかその時が来るのをじっと待っていた。 しかし、そんな心配をよそに、親鳥より先に勇敢な雛が「🐤ピョーン」と勢いよく飛び出し「ポトッ」 と地上に落下し普通に歩き始めた。その後、親鳥は心配そうに何度も地上の様子を伺っていたが、 雛の無事を確認したのか残りの2羽を引き連れ一気に地上へDIVE!
 親子は近くにいた犬に追いかけられながらも水辺へと消えていった。その後の消息は不明だが、 無事育っていることを願う。10卵のうち新たな世界へ飛び立ったのが3羽のみという自然界の厳しさ を教わったことは、フィールド管理を生業としている私にはとても衝撃的で貴重な出会いだった。 また、仲が良い夫婦を「おしどり夫婦」と呼ぶが抱卵も育雛もメスのみで行われ、 オスの協力している様子は微塵も確認出来無かった。 のちにオシドリは一夫一妻だが抱卵期にはつがいを解消する事実を知り、 「おいパートナー替えたらダメじゃん!」ってことでご近所さんに「あらまぁ仲の良い事でおしどり夫婦ねぇ~」 と言い辛くなったのは言うまでもない。

巣立ちの様子

巣箱内の様子(孵化しなかった卵と市販のニワトリの卵の比較(左)、孵化しなかった卵を回収する若き日の著者(右)

巣箱内の巣穴から見た外の世界