枝打ちの頃

 著:千嶋 武

 ルリビタキとの出会いは夏の雁坂峠登山道でした。 スズタケの中から急に現れた瑠璃色の美しい姿に感動し、青い鳥が存在することを知った瞬間でした。 それまで興味のなかった野鳥観察を始めるきっかけとなりました。

 童話「青い鳥」ではチルチルとミチルが夢の中で「幸せの青い鳥」を探しに行きます。 ルリビタキも幸せを呼ぶ青い鳥としてコルリ、オオルリと共に「瑠璃三鳥」と呼ばれバードウォッチャーの間で人気があります。
 瑠璃、青といった色に人は惹きつけられるのでしょうか?

 作業所に勤務していた頃、とある冬の日に、鳥に詳しいKさんと枝打ち作業に出かけました。 前の週に降った雪がまだ地面に残っていてほんとうに寒い日でした。 休憩時間にKさんと話していると「ヒッヒッ」とジョウビタキによく似た鳴き声が聞こえてきました。 声の主はルリビタキでした。地上に落ちた枝葉の上を小刻みに飛びまわり何かを啄んでいます。 「枝打ちで枝葉から地上に落ちた小さな虫を食べにきている。 枝打ちの現場に集まってくるのはそのためなんだ。」とKさん。 手の届きそうなところまで近づいてきましたが、逃げる素振りも見せません。 ついつい石を投げつける悪い輩もいると聞きました。 ルリビタキのそんな姿に地元では皮肉を込めて「バカット」(馬鹿な鳥)と呼ぶことも教えてくれました。 そう話すKさんの嬉しそうな目が印象的でした。
 それ以来、枝打ちの現場ではルリビタキを観察するのが私の日課となりました。

枝葉が集積した枝打ち後の林床