小さな猛禽ハイタカ-営巣の思い出

 著:齋藤純子

 ハイタカは富士癒しの森研究所で繁殖記録のある猛禽類ですが、個体数は多くなく、近年は残念ながら確認できていません。 大きさはハトくらいで、山中湖でもなじみのあるトビと比べるとずいぶんと小型です。 しかし小型とはいえ、さすがは猛禽類。鋭い嘴、眼力のあるまなざしからも、容姿は実にりりしく美しい鳥です。 特にオスは胸の橙色の横縞模様が鮮やかで魅力的です。 研究所内ではなかなか出会えないハイタカ。そんな彼らの繁殖の場に運良くも居合わすことができた思い出をお話しします。

 2010年、マメザクラの花がそろそろ咲く4月半ばごろ。針葉樹の森で、カラマツの小枝をふんだんに使用した鳥の巣を見つけます。 誰の巣だろうと一緒に歩いていた職員と話をして歩き進むと、その巣から数十メートルくらい離れた木に何やら気になる鳥の姿が。 ハイタカのメスです。とても穏やかに、時おり周囲を見渡したり、私たちを見下ろしたり。鋭いまなざしと凛とした姿に、心は釘付けでした。
  繁殖するかもしれない!という大きな期待と興奮。観察意欲がふつふつ沸くも、そこはぐっとこらえて。 巣を放棄せず、無事に抱卵してほしいと願い、しばらくは近寄らないようにしました。

メスの個体

 5月末、細心の注意をはらいながら前回確認した場所へ向かうと、巣は更に大きくなり、抱卵中と思われるメスの尾羽も見えました。 安堵と感動で一人胸の内でガッツポーズしたのを思い出します。オスに初めて出会ったのは、抱卵を確認した直後でした。 メスよりも体はやや小さく、こじんまりとした印象でした。それからヒナが孵化するまでの間、オスの姿とキィーキィーという小さな鳴き声を、 巣の近辺で何度か確認することができました。

オスの個体

 6月末、待ちに待ったヒナを2羽確認します。抱卵を確認してから約1ヶ月後でした。 真っ白でふわふわの羽毛に覆われたヒナはよろよろと足元もおぼつかない様子。 ちょうど獲物を持って帰ってきたメスの親鳥から、細かくちぎってエサをもらいはじめます。 ヒナは競い合って食べるのではなく、1羽が独占して食べていたのが印象的でした。 常にヒナたちが親鳥から我先にとエサを奪い合うようにして育っていく小鳥たちの給餌とはずいぶん様子が違いますね。
  一週間後、巣の中のヒナは順調に大きく育っていました。巣を下から見上げる観察方法のため、 前回は2羽の確認でしたが、ヒナが大きくなったことで3羽いたことが分かりました。 しばらく様子を見ていると、オスの親鳥が巣に戻ってきました。足にはモグラかアカネズミらしき小動物を掴んでおり、さっと獲物を置くとすぐに巣を離れました。 今回もヒナたちはエサを奪い合うことはなく、1羽のヒナが自力で食べきってしまいました。さらに一週間後、巣へ向かうと、真っ白な羽毛が抜け始め、ふわふわと羽が舞い落ちていました。 巣は大きくなったヒナで押し合いへし合い。ほとんど抜け変わってしまった1羽は、羽ばたきの練習をしながら近くの枝まで動き回るようになっていました。 そして、驚いたことに、ヒナはもう1羽いたのです。なんと合計4羽、この巣から無事に巣立っていきました。 猛禽類はヒナの数が少ないというイメージがありますが、4羽のヒナの巣立ちはハイタカの繁殖力の高さを垣間見たように思います。

よろよろしながら巣の中を動き顔をのぞかせた3羽のヒナ

 次回ハイタカに出会えるのはいつでしょうか。キィキィと言う繊細な鳴き声、ハイスピードで林内をすり抜ける飛行。突然やってくるチャンスを楽しみに、研究所林を歩いています。