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法面につくられた巣での攻防-オオルリ奮闘記-
著:才木道雄
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2006年5月12日。新緑の美しい秩父・東谷沿いの林道を歩いていると、山側法面の窪みにある濃緑色の塊が目に入った。
その塊に近づき、そっと中を覗いてみると、小さな卵が3つある。オオルリの巣だ。オオルリは一日一卵ずつ産卵する。
だから、最初の卵を産んだのは5月10日だろう。
この渓谷沿い1kmほどの区間ですでに2つのオオルリの巣を確認していたが、
最後に見つけたこの巣は1mほどの高さにあるので最も観察しやすい。
繁殖の邪魔をしないようビデオカメラも使って、繁殖の様子を観察することにした。
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5月13日。卵が一つ増えていた。昼間は親鳥が巣にやってくることはなかったが、日没が近くなると、
メスが巣にやってきた。5月14日。また卵が一つ増えていた。この巣では全部で5つの卵が産卵され、
この日から昼間も夜間もメスによる抱卵が観察された。
本格的な抱卵がはじまると卵をあたためるメスの巣の滞在時間は驚くほど長い。
5月15日の14時40分-18時15分までと5月19日の6時34分-16時59分まで、合計14時間のビデオ記録を確認すると、
1回の抱卵継続時間は43-101分で、ビデオ記録時間のうち、5月15日は77%、
5月19日は83.5%もの時間を抱卵に費やしていた。これだけ長い時間を巣の中で過ごしていれば、当然、
採餌の時間が削られる。そこで重要になってくるのがオスの存在だ。オスは巣の周囲で盛んにさえずっているが、
時折、巣にやってきて抱卵中のメスに餌を与えることもある。オオルリのオスは抱卵こそしないが、
こうやってメスによる抱卵を助けているのだろう。
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抱雛中の♀(右)と給餌に来た♂(左)
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抱卵開始からおよそ二週間がたった5月26日。無事に雛が孵化していた。
ここからはオスとメスが共同で雛に給餌をする。また、何回かに一回は給餌された雛が排泄する糞を嘴に加え、
飛び去っていく。このようにしないと巣や巣のまわりは雛の糞だらけになってしまうので、とても重要な作業なのだろう。
孵化11日目の6月5日。オオルリの育雛日数は12日程度と言われている。この巣の雛は、まだ少し巣立ちには早そうに見えたが、
もうすぐ巣立ちを迎えられるだろう。今日も巣から少し離れたところにビデオカメラを設置して記録をとりはじめた。
そして、何度目かのビデオテープの交換の時、ふと巣の異変に気がついた。
ふだん私がテープ交換にやってくると、雛たちは巣のなかに身を沈め、姿をかくすような格好になっていた。
それでも大きくなった雛の体は巣の上面からはみでているので雛が巣内にいることは一目瞭然だった。
しかし、このときには雛の姿は全くみえなかった。巣に近づいて中を覗いてみるとやはり雛はいない。
巣立ったのだろうか?しかし、巣立ったばかりなら、まだ親鳥も雛も近くにいそうだが・・・
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ビデオ記録を確認してみると、13時40分にシマヘビが巣に侵入していた。
その直前、5羽の雛は接近してくるシマヘビの存在に気がついたのか、巣の中に潜るような格好で身を沈めた。
シマヘビは巣と雛たちの上にのっかり、雛を食べようとしているのか何度か大きな口を開く。
その間、親鳥は巣の近くに飛来し、盛んにはばたき鳴いているようだ。シマヘビを威嚇しているのか、
あるいは雛たちに何かしらのメッセージを伝えているのか。
しかし、シマヘビはおかまいなく、かといって、すぐに雛を食べるわけでもなく、しばらくそのままの状態が続いた。
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巣に侵入したシマヘビ
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そして13時42分、数羽の雛がもぞもぞ動いていたかと思うと、突然、3羽の雛がシマヘビを押しのけるように飛び出し、
その勢いでシマヘビも巣から落下していった。13時50分。巣内に残された2羽の雛が立て続けに飛び立った。
それから10分程して、再びシマヘビが巣にやってきたが、巣内には雛はいない。その体の一部をよくみると、
どことなくだが不自然に膨らみをおびているようにみえる。最初に飛び出した雛のうち、
少なくとも1羽はうまく飛ぶことができず捕食されたのかもしれない・・・
巣立ちには少し早いような気がしていたが、他の4羽は無事だろうか?とはいえ、
あのまま巣内にいれば再来したシマヘビに食べられていただろうから、危険を察知して巣立ったのかもしれない。
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法面につくられた小さな巣で人知れず繰り広げられているオオルリとシマヘビの攻防を垣間見た。
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