はじめに
   
 昨年度7月に制定された国立大学法人法により、本年度より東京大学も国立大学法人東京大学により設置された国立大学となりました。事務官・技官・教官という言い方も事務職員・技術系職員・教員と変わり、国有であった演習林も民有林となりました。伝統的に掛と言う文字を使っていた事務系組織も係という文字を使うようになり、事務の流れも変わってきています。技術系組織も他の演習林と比較できるように見直しを始めました。また技術職員の異動に関して本年度から本人の希望を組織として調査しました。教員組織も各地方演習林の教育・研究の方向性を明確にする中で、研究室組織の見直しを行いました。こうした動きは国立大学法人化に伴って名称を変えただけでなく、7つの地方演習林であって同時にそれらを有機的に結合した1つの演習林であることの利点を活かそうという演習林の方針に基づくものです。国有であった演習林が民有林となることで都道府県の立てる地域森林計画、市町村の立てる森林整備計画の1部分を構成することになりました。これまでにも公開講座や演習林の一般公開など、さまざまな形で地域社会との連携を図ってきましたが、森林管理の面においても地元の都道府県、市町村との連携を進めて行きたいと思います。
 目を世界に転じますと、昨年ロシア政府が京都議定書を批准したことにより、本年2月に地球温暖化防止を目指した京都議定書が発効しました。これにより批准国は議定書で定められた目標値を守る義務が生じました。日本の目標値は温室化ガスの排出量を2008年から2012年の第1約束期間に1990年を基準時として6%削減するというものですが、新規造林や管理がなされている森林の二酸化炭素吸収量も削減目標にカウントでき、我が国は3.9%までこれに計上することが認められています。演習林も管理がなされている森林として地球温暖化防止に貢献するとともに、持続可能な森林管理を正しく評価するための教育・研究を進めていかなければなりません。東京大学演習林は1894年の千葉演習林の創設に始まり、日本の代表的な森林帯に7ヶ所設置され、持続性の原則に基づいた森林管理を行いながら長期にわたって森林生態系観測のデータを蓄積してきました。これを世界の持続可能な森林管理につなげる研究に活かしていきたいと思います。
 本年報が、森林に関わる教育・研究の発展の礎となり、大学演習林の意義をより深く理解していただくための一助となれば幸いです。

                        2006年3月31日
東京大学大学院
農学生命科学研究科
附属演習林長   
永 田  信