樹芸研究所 概要

1. 沿革と概要

 「樹芸」とは、木材利用だけではなく、人が樹に親しみ、樹を暮らしに役立て、樹を育むことを包含するものと樹芸研究所では捉えている。人が暮らす土地土地での樹との向き合い方が顕れる。かつて「樹芸」は日本人にはごく当たり前のものであったが、それらの多くが資本主義の経済原理によって消滅しようとしている。「樹芸」は自然と向き合う人の営みから生まれた「文化」そのものであるから、経済的な価値観ばかりではなく、様々な価値観に照らしてみて、それらの消滅によって失うものを、今一度考えてみるべきではないだろうか。幾ばくかでも取り戻すべきものがないか、「樹芸」を教育と研究に盛り込み、未来の子供たちに一考する機会を繋いで行く。それが樹芸研究所の目的である。
 東京大学演習林は、第二次世界大戦中、熱帯・亜熱帯産の特用樹木の研究施設として、1943年1月14日に現在の南伊豆町青野に民有林241.29haを購入し樹芸研究所を設立した。翌1944年には、現在の南伊豆町加納に0.6115haの土地を借り入れ、1947年に木造大温室が完成した。同年、加納に所長宿舎が竣工し、翌1948年にその一部に青野から事務所を移した。1948年には地下149mから自噴する温泉を掘り当て(温度100 ℃、毎分200ℓ湧出)、温室の熱源とした。源泉櫓は2010年に架け替えを行った。現在、2009年に改築した温室(面積260 m2、高さ7m)と総面積247 haの研究林を利用して、様々な樹芸植物の育成とそれらを教材とする教育プログラムを提供している。2021年に下賀茂寮宿泊施設の移管を受けた。

2. 立地環境

 伊豆半島南端の南伊豆町加納に温室・実験室・事務所がある。交通は、伊豆急下田駅より加納バス停まで東海バスで約25分、下車後徒歩約3分となる。青野作業所へは、加納事務所より8km、車で15分である。
 地質は新第三系中新統の白浜層群からなり、基岩は石英安山岩、ひん岩が貫入岩類として認められる。土壌は、やや乾性の褐色森林土である。標高は青野作業所管内で約100~ 500m、地形は複雑急峻である。
 気候については、青野作業所の観測点(標高100m)における過去10年間(2006~ 2015年)の年平均気温は15.4℃である。年間で0℃以下を記録した日数の平均は23.3日(初日12月7日~終日3月31日)である。平均年降水量は2,391mmで、降雪はほとんどない。

3. 森林の特徴

 樹芸研究所の森林は暖温帯の照葉樹林帯に属し、潜在植生はシイ・カシとなる。薪炭利用されてきた林が1960年頃から放置されたものである。スダジイ、アラカシ、ウラジロガシ、シロダモ、ヤブツバキ、イヌガシ、ヤブニッケイなどが混生する。疎開した陽地には、コナラ、オオシマザクラ、ヤマザクラ、ハゼノキ、オオバヤシャブシ、ミズキ、アカメガシワ、カラスザンショウなどの落葉広葉樹が多くみられる。林内にはヒサカキが多く、林床にはリョウメンシダ、ウラジロ、ナチシダなどのシダ類や、イズセンリョウ、フユイチゴ、ヤブコウジ、アリドオシなどが生育する。2007年頃までアオキが多かったがシカの被食圧により大きく衰退した。
 青野研究林のうち、23.0%がスギ、ヒノキなどの針葉樹人工林で、27.6%がクスノキ、ユーカリ属、アブラギリなどの有用広葉樹人工林である。約48haにおよぶクスノキ人工林は林齢がおよそ110年であるが、他はほとんど65年生以下である。

4. 施 設

 温室には、現在、熱帯・亜熱帯の植物約250種を栽培・展示している。ただ展示するだけでなく、コーヒー、カカオ、バニラ、キャッサバなどの馴染み深い熱帯産植物を利用した様々のアクティビティを提供できる演示型温室としている。
 下賀茂寮宿泊施設は大学教育、社会貢献に活用している。

5. 大学教育

① 全学体験ゼミナール

 樹芸研究所では大学1、2年生対象の全学体験ゼミナールを重視している。体験をきっかけに、都会暮らしでは他人事になりがちの放任竹林や旧薪炭林の問題を、自分事として捉え直す仕組みとしている。その他、温室のカカオ、キャッサバなど知っているようでよく知らない植物に意識を向け、生産地に思いを馳せる機会を与えている。

② 森林実習(農学部国際開発農学専修)

 クスノキ人工林の材積調査と植生調査を行って、樹木・森林の基本的な調査方法を習得するとともに、施業計画を立てたり、施業しない場合に森林の変遷を予測したり、先を見通して森と向き合う感覚に触れる。

6. 研 究

 ユーカリについて、過去数十年に亘る現地適応試験を通じて成長旺盛と評価し得る種を10種選抜し、それらの林業的生産性を確認するために、種ごとに100個体程度からなる新たな試験地の造成を行っている。森林総合研究所の早生樹研究に参加して、数種のユーカリ成木を、材質特性・物理特性試験に供した。

 クスノキに関しては、 100年生クスノキ林内に20m方形区で皆伐した萌芽更新試験地を設定し経過観察を続けている。

 カカオについては、開花・結実などのフェノロジー調査や果実(カカオポッド)の収穫数や大きさに関する調査などの基礎研究を継続している。

 バニラに関しては、新しい簡便なキュアリング法により高品質なバニラビーンズを製造することを目指している。

 油糧植物であるアブラギリに関しては、伝統工芸木炭製造技術保存会(岡山県)の駿河炭焼きと桐油搾りに協力している。

7. 社会連携

 南伊豆町の農林業の発展および大学における教育・研究の推進に資するため、相互に連携・協力を行う旨の協定を締結した。2019年には協定に基づいて、運動会学生と南伊豆町の子供たちの交流会を実施した。また、南伊豆町ふるさと納税を通して樹芸研究所にご支援いただけることになった。他にも隣接する下田市と連携して地域住民向けの公開講座を定期的に実施している。

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