「森の健康診断の10年 愉しくてためになる流域の森のキヅキとマナビ」

 編者/ 矢作川森の健康診断実行委員会
 出版年月日/ 2016年3月15日(予定)
 ISBN/ 9784903321226
 判型・ページ数/ A5・240ページ
 定価/ 本体1,500円+税

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はじめに

 日本の国土の3分の2を占める森林のうち4割は、木材生産を目的として人間が植林した人工林です。 その多くは1955~70年の高度経済成長期に植林されたもので、2015年には45~60年生に達しますが、この間の木材輸入自由化、円高、木材需要減少、林業従事者不足・高齢化などの影響により、多くの人工林は儲けを生む財産ではなくなり、手をかける動機が失われたために放置され、背が高くて細い、もやしのような樹木がたくさん生えている状態になっています。このような森は外から見ると緑に見えるため、多くの人にとっては山が緑に覆われているようにしか見えません。しかし中に入ってみると、暗くて下草が生えず、雨粒が土壌を洗い流し、保水力が弱く、崩れやすい森になっています。しかし森林の専門家以外には、この事実はほとんど知られておらず、また、このような森がどれくらいの割合で存在しているのか、専門家や行政も含め、誰も把握できていませんでした。

 愛知・岐阜・長野の三県を流れる矢作(やはぎ)川の流域では、2000年に襲来した東海(恵南)豪雨がきっかけとなり、森林ボランティアが中心となって、研究者と組み、2005年から「矢作川森の健康診断」を始めました。これは一般市民が熟練した森林ボランティアの案内で山に入り、科学的かつ簡便な手法で森林の混み具合や植生や土壌などの調査を行い、研究者がその結果を解析して、結果を参加者で共有すると同時に、森林管理のための提言を行う試みです。森の健康診断の意義や可能性、草創期の動きは、第1回矢作川森の健康診断終了直後の2006年に築地書館より出版した『森の健康診断―100円グッズで始める市民と研究者の愉快な森林調査』に詳しく記しました。
 
本書は、予定通り2005年から10年間続けられ、2014年に終了した第1回~第10回矢作川森の健康診断の成果報告です。この間、延べ2342人が、610地点を調査しました。さらに、そこから全国に広まった様々な形の「森の健康診断」や、全国各地に出向く出前講座の活動も紹介しています。10年間にはいろいろなことがありましたが、それらをすべて詰め込み、総括し、未来への展開を示唆しています。

 矢作川森の健康診断に参加されたことのある方はその成果を確認し、参加してみたい方、興味のある方はこの本を参考に各地域で実施する道を探ってください。本書がきっかけとなって、多くの方が日本の人工林に興味を持っていただけることを編者一同、心から願っています。

矢作川森の健康診断実行委員会



目次


写真で見る森の健康診断の1年 
森の健康診断調査項目
矢作川森の健康診断調査地点 

はじめに

第1章     矢作川森の健康診断 10年のあゆみ 
 第1節 なぜはじめたか 〜〝はじめ〟の顛末〜 
  第2節 年表「矢作川森の健康診断の10年」 
  第3節 矢作川森の健康診断の概要 
  第4節 悩みはこうして解決した! 
   1 無断で山に入って大丈夫? 
   2 健康診断を安全に行うために 
   3 資金をどうする? 

第2章 進化する森の健康診断
  第1節 方法開発物語 〜市民と研究者の協働で〜 
  第2節 画期的な調査の道具

   1 まさかの100円グッズ 
   【コラム】調査地点の絞り込み ~地図の達人  橋本幸太郎さん~
   2 「尺蔵」開発物語 
  第3節 担い手物語 
  【実践レポート】 リーダーを務めて 
  【コラム】もう一つのサポーター ・
  第4節 参加者が主人公の報告会 

第3章 オプション調査開発物語 
 第1節 土壌動物調査 
 第2節 緑のダム実験 
 第3節 植生調査〝もっと〟

第4章 10年やってわかったこと
 第1節 データからわかったこと 
 第2節 流域内の地域の個性 
 第3節 矢作川森の健康診断の多様な成果 
 【コラム】木の駅プロジェクト 
 第4節 アンケートからわかったこと 

第5章 広がる森の健康診断
 第1節 全国会議 
 第2節 誰でもどこでも参加できる森の健康診断   eb― GIS   
 第3節 世代を超える「子どもの森の健康診断」 
 【実践レポート】 恵那市・長島小学校 
  【コラム】感激・驚きの出会い

第6章 将来への展望 
 第1節 流域圏思想 
 【コラム】流域の森の健康診断
 第2節 矢作川流域圏懇談会 
 【実践レポート】 地域が主体となった あさひ森の健康診断が始動 
  【実践レポート】 山の棚おろし調査 

おわりに

資料1 寄稿感想文 
資料2 矢作川森の健康診断マニュアル+調査票 
資料3 第10回矢作川森の健康診断 チームリーダーマニュアル 

用語解説