斜面に沿ったブナ科実生トランセクトによる動物種子散布発見の試み
石田 健・澤田晴雄・佐藤大輔(東京大学・院・農生命)
多くのブナ科樹木の栄養価の高い大型堅果は、多くの動物に食べられ、その過程でも散布されると推定できる。また、多くのブナ科樹木の不定期大変動結実する形質は、堅果を食べる動物たちの形質に影響を与え、「捕食者飽和仮説」に代表されるように、動植物(捕食者被食者)種間相互作用の結果とも推定できる。動物散布がブナ科樹木の更新に有効であるか否かを調べることは、この2つの推定を検証する試みの一部として役立つだろうと考え、さらに重力散布と識別できる実生の生残を確認することがその1つの方法であろうと考え、斜面に沿ったライントランセクトによる、ブナ科堅果の実生の分布を調べ始めた。【調査地と方法】2000年6〜7月に、埼玉県の西端にある東京大学秩父演習林のブナ・イヌブナおよびツガが優占する天然林に設置した山地帯天然林長期生態系プロットを貫通し、谷底の標高約950mから約1450mまでの尾根地形に沿った斜距離約850m(ST1)と、標高約1300mでST1から分岐し標高約1200mまでの斜面中腹の斜距離約250m(ST2)、それぞれ幅1mのトランセクト内にある、ブナ、イヌブナおよびミズナラの実生の位置、地上高および芽鱗痕によって推定した年齢を記録した。【結果】ST1において、ブナ60個体、イヌブナ39個体、ミズナラ13個体、ST2において、ブナ7個体、イヌブナ11個体、ミズナラ10個体の実生が確認された。ST1上の実生の分布を模式的に右下の図に示す。ブナとイヌブナの実生は、主に母樹の可能性のある成木のある区域に分布していた。ミズナラの実生は、母樹よりも下方に分布が広がっていた。【考察】今回の調査では、明確に動物散布と認識できる実生の垂直分布は明らかにならなかった。さらに上方へ調査を延長する必要があった。2000年の秋は、1993年以来の、ブナ科3種同時の豊作年であった。2001年の春に発芽する実生について、さらに広範囲に記録することによって、より示唆に富んだ結果が得られるものと期待される。
学情センター
英文タイトル:Detecting animal dispersal of Fagacea trees with seedling
transects along slopes.
キーワード:日本語 動物散布、実生トランセクト、斜面、不定期大変動結実、ブナ科、動植物種間関係
英 語 animal dipersal, seedling transect, slope, masting,
Fagacea, plant-animal interaction
英文要旨
Fagaceuos trees produce large seeds in large and irregular annual
fluctuation, predated by various animals. The seeds are supposed
to be dispersed by them. To detect animal dispersal of seeds,
we set about 850m and 250m long and 1m wide transects along the
slope in Central Japan. We recorded 67, 50 and 23 seedlings of
F. crenata, F. japonica and Q. crispula respectively in the transects.
Seedlings of the former two were mainly distributed around the
mature trees, and the last did also lower than the trees on the
slope. We need to elongate the transects to higher elevation and
try to record more in the next spring following all rich crop
of the three.