rev.(2010.12.10)


対趾足の爪のある指  堅い尾羽1 尾羽2 丈夫なくちばし

長い舌の構造 舌骨1 舌骨2 舌先の鈎1 舌先の鈎2  

採食行動(垂直面に三点確保でとどまる)

白い卵 巣内の状態 クマゲラの大きな巣穴 

キツツキとはなにか_アニマ1989-9原稿 をもとに、一部改訂(2002.5)

  キツツキとはどのような鳥だろう。日本各地における観察をもとに、飼育しているアカゲラとコゲラの行動や Short の「世界のキツツキ」(1982)や 世界の鳥類ハンドブック第6巻(2002)の文献を参考にして、キツツキ亜科(いわゆるキツツキ)の形態や生態上の特徴を簡単にまとめ、最後にコゲラをめぐる最近の話題も紹介する。

  キツツキ科の鳥
キツツキ科には世界で約200種余りに分類されており、はっきりと異なった3亜科、キツツキ類(約170種)、ヒメキツツキ類(27種)、アリスイ類(2種)にわけられる。キツツキ亜科は、尾をささえにして木の幹を登り、樹皮や木部のなかをつつき、自分で掘った穴で営巣する。両極地帯、ニュージーランド、オーストラリア、ニューギニア、マダガスカルなどを除く広い範囲に分布している。ヒメキツツキ亜科は、尾を体のささえにしないとても小さなキツツキで、大多数が南アメリカに分布する。キツツキ類の祖先の特徴をそなえていると考えられているアリスイ亜科は、ユーラシアとサハラより南のアフリカに1種ずつ分布している。
日本には、クマゲラ・ヤマゲラ・アオゲラ・オオアカゲラ・アカゲラ・コアカゲラ・コゲラ・ミユビゲラ・ノグチゲラのキツツキ亜科9種とアリスイが生息している。かつて、対馬にキタタキが生息していたが、絶滅した。

キツツキ亜科の特徴
  独得の形態
 足の指が前方と後方に2本ずつのび(対趾足)指先の爪は鋭く湾曲し、中央の4本の尾羽の羽軸が堅く尖っている。対趾足は、もとは枝にとまるための適応の一つの形と考えられ、他のキツツキ目やホトトギス類などの鳥にも見られる。主に、両足の第2〜4指の爪を上と横に引っかけ、堅い尾を支柱にして3点確保で体を支える。第一指はほとんど使わないので、ミユビゲラのように退化してしまった種もある。安定したところにとまって休んでいるキツツキは、しばしば片足を腹の羽毛の中にしまって、伏せるようにしている。
  キツツキの舌は大変に長く延びる。中には、嘴の先から頭の前後の幅ほども遠くへ舌を届かせられる種もいる。舌骨が、あごから頭蓋をぐるりとまわって、付け根が前頭や鼻孔にまで達しているので、このような芸当ができるのである。舌先は、堅く、もり状やブラシ状などになっている。また、ねばり気の強いアルカリ性の唾液を多量にだす。これらの特徴は、木の割れ目や穿孔虫の食孔などの奥から獲物をとらえるのに重宝する。多くのキツツキがアリを捕食し、クマゲラのようにアリ食に大きく依存している種も少なくない。唾液がアルカリ性なのは蟻酸を中和するための適応である。
  くちばしや骨格、皮膚が他の鳥類にくらべてがんじょうである。特に頚・頭部は、強い打撃を生むと同時に、たたいたときの衝撃を体全体に分散してやわらげる構造になっている。キツツキを手に持った時にがっしりした感じを、さまざまの動作には「かたい」印象をうける。羽音でキツツキとわかることが、しばしばある。断続的にはばたき、波状に飛ぶ。

  森林との結びつきが強い定住性の鳥
  Short (1982) の記述をもとに集計してみると、キツツキ亜科の中で渡りをする種は約2%(一部の個体群が渡りを定期的にする種を含めても10%余り)と少なく、定住性の強いグループだと言える。塒穴によって冬の夜の寒さをしのぎ、木の中に潜む節足動物をとれることが、寒い地方でも定住を可能にしている。逆に、生息地が人間の開発によってせばめられたり、営巣木が不足していることによってあやうくなっているキツツキの個体群や種がいる。ヘルパーの存在など多少なり社会性のある種が約5%で、なわばりをもって、つがいで生息する種が大部分である。ただし、これらの生態については種内でもちがう環境に生息する個体群間に差異があるし、詳しくわかっていない種が多い。
  自ら穴を掘って、巣や塒に利用する。少なくとも日本のキツツキは、普通、毎年新しい穴を掘って営巣するが、ヨーロッパのクマゲラのように何年も同じ穴に営巣する場合もある。Lack (1968) によると、キツツキ類の抱卵期間は体の大きさに比べて相対的に短いという。これは、樹洞という捕食圧の低い営巣環境への適応の一つだと予想される。巣で卵やヒナ(親鳥も!)がハブにしばしば捕食される沖縄のノグチゲラのような種で、それがどうなっているのか確かめることは興味深い。キツツキの掘った穴は、樹洞を利用する多くの動物にとって再利用できるありがたいものである。

  たたく能力・みつける能力
  採食や穴堀りのさいにくちばしで木をたたく動作は、強いばかりでなく正確である。私が飼育しているアカゲラは、しばしば、太さ0.5ミリほどの金網の同じ位置をはずさずにたたきつづける。飼育されているキツツキにとっては、ストレス解消になっているいるようだ。転移行動や儀式、あるいは信号として木をたたくこともある。
  枯木や電柱の金具などいろいろなものを連続してたたいて音を響かせるドラミングには、なわばり宣言や異性を引きつけるなど、さえずりのような機能がある。雄の方が多く行うが、雌もやる。ただし、アオゲラやコゲラなどのように、ドラミングの他に、はっきりと自己主張の役目を果たす鳴き声も持っている。それらをどのように使い分けているのかはよくわかっていない。
  キツツキの採食行動をみていると、まず目で木の表面の特徴を確認し、つぎにその場所へ行ってくちばしで打診しながら、隙間などに舌をいれて触覚(と味覚?)でさぐっているのがわかる。目視や打診で木の中に潜む虫を見つけ出す能力は、かなりすぐれていると思われる。飼っているアカゲラに甲虫の幼虫が入っていることのわかっている木片をやったところ、いくつかある穴のなかで最初に、幼虫のいる穴に目をつけ、それを舌で引きずり出して食べたこともある。しかし、外見の同じ入れ物の一部にだけ餌を入れてやった場合には、そう簡単には餌をみつけ出すことができなかった。虫の潜んでいそうな場所の外見をよく心得ていると言えよう。
  キツツキは掘るのが得意だが、掘る手間を省こうとすることもある。アカゲラが、小さな穴をあけ、木の中にいた大きなカミキリムシの幼虫の皮フを破って、体液だけを舌でなめとっていたこともある。

  キツツキの保身術
  キツツキは、タカやカラスなどの捕食者が近くを通ると、自分の体より太い木の反対側にまわって身を隠す。タカの攻撃を木を盾にしてかわしていたという観察例もある。私たちも、木の向こう側から、ちらちらと顔をのぞかせてこちらのようすをうかがう、あいきょうのあるしぐさにでくわすことがある。木の裏でじっとしていることも多く、気がつかずにまんまとやりすごされていることが多いのだろう。

  食性
  キツツキ類は雑食性に近い。通常は、昆虫やクモなどの動物質の食物が主だが、季節によって木の実や種もたべる。北欧のアカゲラなどは、針葉樹の種やナラの実(どんぐり)をたくさん食べて冬をしのぐ。北米のドングリキツツキは、ドングリをたくさん貯食し、その社会性がドングリの生産量にもかなり左右されていることがわかっている。キツツキは、アリをかなり食べ、アリを主食にしている種もいる。その名のとおり、別亜科のアリスイ類もアリを多量に食べるのだが、この習性も特異的だと言えよう。

  更新過程に関与する鳥
  キツツキは、木の中に潜んで木を食べて弱りかけた木を枯死に追いやるような昆虫を食べることで、元気に成長を続けられるような木を助けていることになる。一方で、軟化して弱った木や枯木を掘り、木を倒れやすくして更新速度を早めてもいる。
  ダイナミックなシステムである森林の中には、若い木が多数成長している段階、壮齢木の優占し林相の安定した段階、老大木が倒れて樹冠に穴ができ更新の進んでいる段階などがある(図3)。広い、天然林には遷移過程のすべての相が揃っている。どんな状態を好むかはキツツキの種によって多少異なるが、多くのキツツキが好むのは、壮齢、老熟(と更新の一部)の相である。図4のように、コゲラ・アオゲラは(落葉)広葉樹林を好み、アカゲラは針広混交林をもっとも好むというような種間差があるが、どの種も、若齢林や人工の単純林には少ない。Short (1982) によれば、キツツキ亜科170種のうち、比較的深い森林内部を中心に活動する種が約30%、林縁などもよく利用する種が 60%、木の無い所も含む開けた環境の種が10%弱いる。更新の段階にある部分の周囲には林縁の構造が形成され、そのような場所が多くのキツツキの本来の生息環境だと思われる。キツツキは森林の更新過程に深く関わっていると言える。
 山火事、台風、人の手による一斉皆伐などによっても森林は更新され、枯木が多く出現する。火事や台風による打撃を定期的に受けて、それがその地域の森林の特徴を作っている場合もあり、北米のホオジロシマアカゲラのように、火事跡の新しい枯木だけに営巣する種もいる。しかし、皆伐などがくりかえされるいわゆる人工林の多くは、人の手で更新し木材を収穫するので、通常壮齢・老熟相を欠く奇形の森林で、一般的には、キツツキは少なく、そこの個体群は不安定である。木材生産だけではなく、野生生物の保護なども含めた森林のさまざまな機能の維持をめざして、天然林に近い形の人工林の管理をする努力がもっと行われるべきだ。

  キツツキの生態的地位(ニッチ)と代役
  ある環境における生物の役割を、生態的地位という。前の項に述べたようないくつかの特徴がキツツキの生態的地位を特徴づけている。キツツキのいない地域の森林には、キツツキと似た行動をとる動物がいて、キツツキに近い生態的地位を占めている。例えば、マダガスカル島の猿であるのアイアイは細長い指を、ニュージーランドのオウムの一種カカは先のとがった頑丈なくちばしを持っていて、樹皮をはがし、すき間から虫をとりだして食べる。カカは樹皮に傷をつけて樹液をなめるところもキツツキに似ている。ガラパゴス諸島では、ホオジロの仲間のキツツキフィンチが、枝で楊子(ようじ)のような道具を作っり、それをくちばしで器用にあつかって木の割れ目などから昆虫をほじくり出している。

●キツツキはなぜ脳震盪を起こさないのか

アニマ No.192(1998-9): 38-39
 くちばしで木などをガンガンたたくのは、主にキツツキ科の一部の鳥である。キツツキの頭部の構造は、たたいたときの衝撃を体全体に分散して受けとめるようにできている。強い打撃を生みだす体の構造や動きが、体のうける打撃をやわらげる働きもしている。
 くちばしは、ほぼまっすぐで、元が太く、しばしば先がたてにたいらでノミ状になっている。頭骨は厚く、隙間が少ない。上くちばしを支える蝶番を形成している骨は、幅が広く、くちばしの元にかたまっている。これらの骨を支える筋肉(特に翼状突起骨伸出筋と方骨伸出筋)もよく発達し、衝撃を前頭蓋で広く受けとめる。この筋肉は、下くちばしの伝える衝撃も十分に受けとめるらしい。また、たたくときに伸ばすことで緩衝材の役割をもっているという説もある(イラスト)。強くたたくキツツキほど、頚椎が頭蓋の前の方につき、胸椎背突起の幅が広く、しなりやすいようにその間隔が大きくて、体をエビのようにしならせてたたくという種間差が報告されている。たたいた反動は、くちばしから、蝶番の骨(と筋肉)、頭蓋、頚椎と伝わって、体へと抜ける。
 以上の特徴は、キツツキに独得のものだが、脳震盪を起こしそうなことをやっている動物は他にもいる。鳥では、水面へダイビングするアジサシ類、体当りして土壁に巣穴を掘るカワセミ類、堅果や種をつつき割るシジュウカラ類などである。ゴジュウカラもさかだちして木をたたくが、くちばしの元の筋肉は太い。人間でも、一流のサッカー選手は、時速120キロにも達するボールを額で正確にはじき返す。これらをみていると、衝撃を頭の正しい位置で受けとめ、体全体で支える動作が重要だと思われる。また、キツツキの脳は、0.1グラムたらずから0.5グラムていどと軽いので、たたいたときに脳がうける反作用の運動量は小さいことも忘れてはならない。それにしても、木をたたいているキツツキは、自己陶酔しているように見えることがある。