「身近なキツツキの生活」 朝日週間動物百科29号原稿
コゲラ
分布と外観
コゲラ Dendrocopos kizuki は、東アジアの一部だけに分布する種だが、日本でいちばん身近なキツツキだろう。北海道の利尻島や知床半島から南西諸島まで、亜寒帯の針葉樹林から亜熱帯の照葉樹林まで、奥山から里山まで生息し、最近では都市公園などの緑地でも繁殖している。
背面は灰褐色に白い横縞模様、腹面は白地に灰褐色の縦斑がたくさんあって、スズメより少し大きいくらいの小型のキツツキである。雄の目の後方には赤い羽毛がわずかにあるが、興奮したり風に吹かれたりして頭の羽が逆立たないかぎり目だたない。番の雄と雌がたいてい一緒にいて、鳴き交わすギーという低い声でコゲラに気づくことがもっとも多い。木の幹や枝を縦にも横にもなってかなりせわしなくはいまわっている。
食性や行動
雑食性だが、主に昆虫類やクモなどの動物質を食べている。果実や種子も食べ、飼育しているものは柿や西瓜を喜んで食べる。しかし、アカゲラやアオゲラに比べると、植物質のものを食べているところを観察する機会は少ないようだ。採食方法や食物は、季節によって変化する。
コゲラは、一日中ほとんど休まずに採食している。登っては飛び降りるという基本的な移動様式は、他のキツツキと同様だが、体が小さい分だけ細い枝を多く利用し、方向転換も多くて細かい動きをする。
コゲラは、営巣期以外はいつも、番で連れだって採食している。冬の寒い日などには、よくシジュウカラ類などと混群になって採食する。どちらかというと群れの後の方からついていき、群れの中に入ってしまうことは少ない。
社会性・繁殖行動
コゲラのドラミングは、一部の例外を除いてとても控えめである。そのかわり、梢で「キッキッキッキッキ」というような甲高い鳴き声をはりあげる。コゲラの場合には、遠くまで伝えるなわばり宣言としては、こちらのほうが役だっているように思える。なわばり争いでは、「キキキキ」という声を出し、アカゲラ同様に首を振る誇示行動をする。
巣穴は毎年掘り、入口の直径約3cm深さ約15cmで、ほとんどが広葉樹の生きた木の枯れた枝につくっている。門柱に掘った例もある。コゲラは体やくちばしが小さいので掘る力がやや弱いらしく、いずれもかなり柔らかくなった部分である。抱卵や育雛は、雌雄共同で行う。
巣立った雛は、2〜7ヶ月間親のそばにとどまる。巣立ち直後は、餌をねだり、親から直接給餌されるのが見られる。コゲラは番が一年中連れだっていると同時に、雛も親の近くに長期間とどまる。早くいなくなった観察例も、1羽ずついなくなる場合が多いので、なわばりから出て行ったとは限らず、死亡した可能性が少なくない。
身近に分布を広げるコゲラ
コゲラは、1980年代になってから東京など都市緑地で繁殖するようになり、かなり増えた。その原因はまだはっきりと説明できないが、コゲラの棲める環境が都市の緑地にできてきたようである。コゲラなどキツツキの個体群が安定して生息できる森林は、健全に更新している森林である。これは、緑地管理の1つのめやすとなるだろう。
コゲラの声とドラミング[aif, 115k]