http://www.iwanami.co.jp/hensyu/genbun/ 岩波書店 ホームページから 『生命の多様性』上・下 <<編集部から>> 「生物多様性」という言葉は,地球環境問題を語る際のキーワードとして,すっかりおなじみになりました.動物や植物を絶滅の危機から救い,生物多様性を守らなければいけない! こう言われると,誰しも,そうだろうな,と一応は肯きたくなるでしょう.しかし,「昆虫や野草の一種類や二種類くらい地上からいなくなったって,別にどってことないよ.そうなったからといって何が困るんだい?」と開き直る人が出てきたとき,はたして何人の人がこの人を説得できるのでしょうか?  このような疑問に真正面から答えてくれるのが本書です.アリの研究者として世界各地における動植物の現状をつぶさに見てきた経験が,地球上の生命の現状と未来に対して深い憂慮をウィルソン博士に抱かせ,本書を書かせました.博士は,「生物多様性」という言葉を提唱した人にふさわしく,実に豊かな具体例をあげながら生物多様性の大切さを情熱的に語っています.本書を読んだ後では,「生物多様性」という言葉は,それ以前よりはるかに深くて豊かな内容を持ったものとして立ち現れることでしょう.  地球環境の未来に関心のある人なら一度はお読みいただきたい,生物多様性への最良の入門書です. <<内容>>  ほとんどの人が気づかないうちに,すでに人類の手によって地球史上6度目の生物大絶滅が開始されてしまった.今日,この本の主題である「生物多様性」ほど,人類にとって重大な,しかも差し迫った科学的な問題を想像することはできない.このように考えるウィルソン博士は,物質的な富と文化的な富は大切にしてきたが,生物多様性という生物学的な富については真剣に考えてこなかったことこそ,人類の戦略上の大きな誤りであると警告する.  第 I 部(上巻)は,地上で最も豊かな生物を育む熱帯雨林を案内するところから始まる.そして,生物が絶滅したとき,その多様性はどのように回復されるのかを,実際に起こった火山噴火の例にもとづいて説明するとともに,地球史のなかでおこった過去の大絶滅がいかなるものであったかについて考える.  第II部(上巻)では,進化とはどういうことなのか,地上にはどこにどのような生物がいていかなる生活をしているのか,生物多様性は進化の中でどのように育まれてきたのかを,驚嘆すべき該博な知識と豊富な体験にもとづいて明らかにする.  そして第III部(下巻)では,生物多様性と人間の関係をどのように考えればよいのかを,具体例をあげながら情熱的に語っていく.いまどれほどの生物が人間のせいで絶滅の淵に追いやられているのか.生物多様性という資源には人間にとってどのような価値が潜んでいるのか.博士はこれらのことを明らかにしたうえで,環境破壊の進行を逆転させるための方策をきわめて具体的に示し,最後に環境のための新しい倫理を提唱する.  「生物多様性」を地球環境問題のキーワードに押し出す上で極めて大きな役割を果たした本書は,すでに「生物多様性の古典」としての評価を得ている.  本書は1995年,岩波書店から刊行された. <<著者紹介>> エドワード O.ウィルソン(Edward O.Wilson) 1929年生れ.アラバマ大学で生物学を学び,1955年ハーバード大学で博士号を取得.現在,ハーバード大学教授.専門は社会性昆虫の研究.大変な博識家であり,次々と学際的な書物を世に送り出してきた.そのいずれもが世界中で大きな話題をよび,『人間の本性について』と『アリ』で2度のピューリッツァー賞に輝いている.社会生物学を創始した大著『社会生物学』が思想界まで巻き込んでひきおこした「社会生物学論争」は有名. <<目次>> 〈上巻〉 I 荒々しい,立ち直りの早い生命 1 アマゾンを襲う嵐 2 クラカタウ島 3 大絶滅 II 増えゆく生物多様性 4 基本的単位 5 新しい種 6 進化をもたらす力 7 適応放散 8 未踏査の生物圏 9 生態系の創造 10 ピークに達した生物多様性 〈下巻〉 III 人間の影響 11 種の生と死 12 脅かされる生物多様性 13 未開発の富 14 解決への道 15 環境の倫理