第2回『音声データによる鳥類のモニタリングADAM(Acoustic Data for Avian Monitoring)』
世話人石田健・松岡茂

話題提供
早矢仕有子:シマフクロウの声によるモニタリング
高木 昌興:リュウキュウコノハズクの方言や個体差とモニタリング

コメンテータ
松岡 茂:夜の鳥をモニタリングする

  今回のテーマは、 夜 に 鳥 を声でモニターする
趣旨: 鳥類の生息状況を調べ、継続して、あるいは広い地域間で比較するための、いわゆるモニタリングに音声情報を活用していく可能性、基本的な考え方と適切な技術の共有について、話し合い、情報交換をし、また提案をしていくきっかけにすることを目的に、この集会を行う。
研究者が鳥類の存在を確認する情報として、音声を最初の情報とする割合はそうとう高い。鳥類センサスにおいても、特に森林のように鳥の姿を確認することが容易ではない環境においては、また鳥が多くの声を発する状況においては、音声による鳥の種名や音声の持つ意味を理解していることは、最も重要な調査技術の1 つであり、発見率や調査効率などの調査結果の質の大半を決める。
2回目となる今回は、二人の方にフクロウ類の音声記録についてご紹介していただき、その事例紹介や前回の話題なども参考にしつつ、鳥類集団の音声モニタリングについて検討してみたい。

 春に話題となった、北米におけるハシジロキツツキの再発見(実際は2004年)のための調査においても、自動録音装置による音声のモニタリングが活用されている。鳥類の存在を記録する目的はさまざまであるが、生息密度が低く確認が困難な種の存在確認を、より手軽な装置によって補助できる可能性がある。環境指標としての鳥類群集記録の一部分をなすともいえる。ハシジロキツツキの場合には、近縁種のいくつかの大型キツツキ類との区別をどうするかが課題となる。最終的には、音声記録で生息する可能性の高いこと示唆された後、人が直接探索する必要がある。しかし、いくつかの種群や、目的によっては音声だけで最終確認とすることが可能で、鳥学会の目録記載においても、カンムリカッコウに適用されている。今回は、そのような例ともなりうるフクロウ類について、日本の北端と南端から話題提供をしていただく。

 録音機材や音声データの保存、分析のためのシステムも、DAT(高音質・世界基準)、MD(手軽・ランダムアクセス)、Hi-MD(PCM、長時間)、ハードディスク(大容量)、IC(小型・軽量)など多様で、それぞれに特徴がある。マイクロフォンも、対価格比性能がたいへんよくなっている。昔のスーパーコンピューター並みの演算性能を持つパーソナルコンピューターや大画面のフラットパネルディスプレイを研究者1 人で独占して使用することも今は可能であり、コーネル大学の音声分析ソフトRavenなどを利用して、ソナグラムのような視角情報に変換して音声データを集計、分析することも、より大量・長時間の録音について容易になりつつある。自動音声識別装置も、今後の可能性がある。未整理の状態である、過去に蓄積された録音の活用も可能性、将来にわたって継続して広域の音声情報を蓄積し、集約し、活用していくための方向性についても、引き続き情報交換し可能性をさぐりたい。環境省のモニタリング1000などにおいても、今後、音声情報を有効活用できる可能性や必然性が高まっていくと世話人は予想している。
多くの時間を、参加者を含めた今後の情報交換の方向性についての議論に当てる予定である。

集会報告(日本鳥学会の鳥学通信に画像・音声ありで掲載されます。)

2005.9.19 16:30〜18:30 ADAM 2nd
信州大学総合教育センター

石田intro
今日の話題、
Ivory-billed Woodpecker再発見の報と、批判、録音記録による再反論の紹介。

参考URL
http://www.birds.cornell.edu/brp/Popup.html


話題1:早矢仕有子(はやし・ゆうこ 札幌大学)
Talk Master (語学教材として販売されている)を1台使って、シマフクロウの営巣記録をとった。録音自体はかすかな音が多いが、研究者にとっては利用価値大。繁殖場所の候補地は知っているので、自分が全部行けない(時間がない)場所の確認をとれる。
 希少種の繁殖行動に悪影響を与えるおそれがあるため、Playbackは使わないで鳴くのを待つと、確認に時間がかかる。録音は、その作業を補ってくれる。
 この製品はタイマーで希望する時間だけ録音できるので、日没前後70分ほどのシマフクロウがよく鳴く時間帯にセットしておいておく。
 観察者が近くに長く滞在しないほうが、鳥に警戒させず、また人目を引かないのでよい。

使用機材
サン電子 Talk Master (現在販売終了、新製品 Talk Master II を利用可能)、
  チャック式のビニール袋(ジップロック)に乾燥剤といっしょに録音機を入れ、外部マイクは別の袋から頭だけ外に出し木に縛り付けて使用。

参考URL




話題2: 高木昌興(たかぎ・まさおき 大阪市立大学)
ダイトウコノハズクの個体群動態の解明、希少種にリスクを与えずに個体数を数える ことが目的
個体差が確認できるための3条件、(1) 声に個体差がある、(2) 経年的に変化しない(経年変化 < 個体差)、(3) なわばりを経年的に維持する、が必要。
フクロウの研究例としてモリフクロウやコノハズク属の4例紹介。13変数を使って12年間の、個体の入れ替わり率を推定した2002年のIbisの論文などがある。基準はまだまだ。
ダイトウコノハズクの2005年の繁殖個体数を240羽余りと推定(大会口頭発表)。
そのうち197個体の声を録音した。プレイバックして、個体が近寄って鳴き始めたらプレイバックは止め、5〜10mぐらいの距離で録音。分析に使えるのは、 120個体分ぐらい。今回は、その内の16個体について分析した結果を示す。1個体あたり15個の声の録音のソナグラムから、「ほ ぽろ」の2つのノーツの間隔、ノートごとの周波数上限・下限・長さなど 変数を取り出し多変量分析。8次元空間において、4つの声どうしをのぞいて16個体がすべて判別された。
残りの個体の分析、声を質的に区別するのは、これから。
個体判別に一般的に必要十分な鳴き声の回数を求める。できるかぎり多く、同一個体の声を集める必要がまずある。対象集団の中での重複率を査定したい。
繁殖ステージによる声の違いはあるか? その他、誤差範囲を明らかにしておく必要がある。

地域(島)ごとの変異についても分析した。acoustic adaptation hypothesis (音声適応仮説)の検証をしたい。Ibis 139, 152- などで、開けた都市では高め、森林では低めの声がよく通る傾向が指摘されている。ただし、気象条件などによって有利さは異なり仮説に対して否定的な結論、単なる方言(系統起源)かもしれない。
山原、西表、南大東の15個体ずつ、ホ・ポロのタイプだけでとりあえず比較。
樹形解析したところ、西表、南大東の大部分の個体が固まる。山原の声はちらばる。


使用機材
オーディオテクニカ AT815b (ガンマイク)
マランツ ICレコーダー PMD670(サンプルレート44.1kHz)
ツインバード 防水CDプレーヤー AV-9149BL (プレイバック用)
コーネル大学音声分析ソフト Raven Ver. 1.2
PowerMacintosh G5 2GHz Dual CPU


参考文献
個体識別
Galeotti P R & Paven G (1991) Individual recognition of male Tawny Owls (Strix aluco) using spectrograms of their territoria calls. Ethol. Ecol. & Evol. 3: 113-126.
Freeman P L (2000) Identification of individual Barred Owls using spectrogram analysis and auditory cues. J Raptor Res 34: 85-92.
Galeotti P R & Sacchi R (2001) Turnover of territorial Scopus Owls Otus scops as estimated by spectraphis analyses of male hoots. J Avian Biol. 32: 256-262.
Delport W, Kemp A C & Ferguson W H (2002) Vocal identification of individual African Wood Owls Strix woodfordii: a technique to monitor long-term adult turnover and residency. IBIS 144: 30-39.
地域比較
Galeotti P R, Appleby B M, & Redpath S M (1996) Macro and microgeographical variation in the ‘hoot’ of Italian and English tawny owls (Strix aluco). Ilal J Zool 63: 57-64.
Appleby B M, & Redpath S M (1997) Variation in the male territorial hoot of the Tawny Owls Strix aluco in three English populations. IBIS 139: 152-158.


会場からの質問、コメント
成末雅恵 メスの声は? 集団の動態を知るには必要か
宮崎正峰 アデリーペンギン では気分の違いで声も違う。1匹に対してつぶやくような声が個体判別に向く。

竹中健 知床半島では、元から先に向かって夜行性鳥類の種数が減っていく。
百瀬浩 分析手法の助言、周波数はソナグラムの表現法で範囲がことなって現れるので、上下の中央値を使う、など。

コメンテータ 松岡:
 夜に渡る鳥の鳴き声を,屋根にしかけたマイクとPCで自動的に録音記録するシステム(OLD BIRD)の構築がアメリカで行われている。モニタリングは,非営利活動法人が主体となって,野鳥保護団体や高校等を組織して行っており,データの蓄積が始まっている.




以上

<< 2005年7月10日から分子生物学研究棟4階409-1号室に移転しました>>
石田 健
東京大学大学院農学生命科学研究科
http://www.uf.a.u-tokyo.ac.jp/~ishiken/