2001年,奄美大島自然環境回復計画私案  石田健・東京大学

奄美大島の自然は,開発により天然林が著しく縮小し,著しく分断化されていることによって,植生としてはわずかに5%ていどが残存しているものの(石田ほか1988),林縁の効果が,生態系の外来捕食者の侵入や乾燥化をともなって林内にまで及んでいる(石田ほか未発表,山田私信).そのために,谷などの地形によって海からの風や外来捕食者から保護されているさらにわずかの部分を残して,本来の森林生態系の構造は失われてしまっていると言える.それは,小型の鳥類や両生爬虫類の生息密度の著しい低下によって,はっきりと示されるだろう.

繁殖開始期にさえずっている個体数が全島で100羽前後しかおらず,環境選好性の厳しいオオトラツグミの生息分布は,奄美大島の本来の生態系の残存を,十分にではないが,かなりよく指標していると期待される.極めて個体数の少ない本種の絶滅を回避するためには,生息適地の保存および生息適地となりえる地域の森林を回復させていく生態系管理が不可欠である.この指標と,指針に基づいて,オオトラツグミが連続して生息する唯一の場所である住用川流域をコアエリア(厳正保全地域)とし,さらにオオトラツグミの現生地域と近い過去に生息した記録のある区域,及びそれらの全体を結びつける緑(森林)の回廊の設定を,奄美大島の自然環境回復行動計画として提案する.

拡大図

オオトラツグミの分布および生息適地(推測)にもとづく森林生態系回復計画概念地図

これは,指針であるが,現在,環境省によってすすめられている,奄美大島希少野生生物保護増殖計画(現対象,オオトラツグミ・アマミヤマシギ)と,マングースの駆除事業等の設定目標ともなりえる案である.

文献

石田健・杉村乾・山田文雄. 1998. 奄美大島の自然とその保全. 生物科学 50(1): 55-64.