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研究

房総のヤマビル-日本で唯一の陸生吸血ビル-

千葉演習林 助手 山中 征夫

2006年4月1日

 房総半島南東部では1980年の中頃からヤマビルの大量発生が認められます。本種の防除対策(密度低下及び分布域の局限化など)の基礎として,当地域における個体群変動要因,生活史,生息環境要因などの調査研究を1990年から行っています。

 ヤマビルは環形動物門に属し,日本産ヒル類のなかでは唯一の陸生吸血種です。秋田県から沖縄県まで広く分布しています。乾燥には弱く,主な活動期は4~11月ですが,気温10℃,湿度60%以上であれば冬季でも活動します。

 森林の落葉の下などに隠れていて,人や動物の呼気(CO2)・振動・熱・臭いに反応し,体の前後の吸盤で尺取虫のように吸血対象動物に近寄り,鋭い口で皮膚に傷をつけ,血液中の水分を濃縮しながら,吸血前の体重の約6倍になるまで吸血します。

 野外観察や飼育実験によると,ヤマビルの産卵期は月平均気温が20℃以上の5~10月です。卵のう(Cocoon)から子ビルがふ化するまで約1ヶ月かかります。子ビルが成体になるまで3~4回の吸血が必要で,約1年かかります。吸血後,頻繁に脱皮をします。

 一度吸血すると,長いものでは約2年間の絶食に耐えられます。最長寿命は5年です。雌雄同体ですが,産卵には交尾が必要です。一生の間に最多で8回吸血し,ラクビ-ボ-ルのような卵のうを20個以上産み,100匹以上の子ビルを産出します。

 房総丘陵のヤマビルは30年ほど前まで,ごく一部にしか生息していませんでした。当地域のニホンジカ(Cervus nippon)とヤマビルの分布域の推移を<2>に示します。ニホンジカの生息数の推移を示します。両者の間にはかなりの相関が見られます。

 ヤマビルにとってニホンジカは好適な寄主動物であり,また,運搬者であることが証明されています。昔の人は「シカの糞からヒルが湧く」と言って,ヤマビルとニホンジカとの密接な関係を示唆しましたが,ものの見事に的中しています。

 ヤマビルの有力な天敵は,まだ発見されていません。また,スギやヒノキ人工林の手入れ不足によって,林床は暗く湿気が多く,乾燥を嫌うヤマビルにとって好適な生息環境になっています。ヤマビルの増加するための好条件が当分続きそうです。

 吸血性のヒル類は紀元前から肩こり等の治療に利用されてきました。最近アメリカでは医療用ヒルを「医薬品」としての販売しています。また,「高野聖」(泉 鏡花著)など多くの文学作品にも登場し,人間生活とヒル類とは密接な関係があります。

<参考文献>

[1] 山中征夫・山根明臣・浅田正彦(1993)ヤマビルの生態(Ⅳ)―個体数増加および分布地域拡大の要因― 日林論104:687-690

[2] 山中征夫・山根明臣(1997)ヤマビルの生活環 日林論108:373-376

[3] 山中征夫(2003)ヤマビル―ニホンジカの保護管理がヤマビルの大量発生を防ぐ― 自然保護No.475