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研究

孤立した木にどうしてタネがなるのか?

北海道演習林 講師 後藤 晋

2003年12月12日

 農家の軒先などに1本だけぽつんと残されているヤチダモの木。ヤチダモは北海道の湿地や沢沿いなどの森林(水辺林)によく見られる木ですが、雄木と雌木が別個体(雌雄異株性)であることが知られています[1]。したがって、ヤチダモの雌木がタネをつけるには、雄木から運ばれた花粉が雌木に到達し、そこで受精する必要があります。しかし、中には周りにヤチダモの雄木が全く見当たらないのに、やたらと種子をつけているヤチダモの雌木もあります。花粉は一体どこから来ているのでしょうか?

 このなぞを解くために、私たちはヤチダモの孤立した雌木を中心に約1km×2kmの範囲でヤチダモの雄木を探し、12本の雄木を見つけました。そして、母親、種子、雄木からそれぞれDNAを取り出し、DNAマーカーを使って種子の父親を探しました。その結果、1km以上も離れた雄木から雌木へと花粉が運ばれていることが明らかになりました。驚いたことに、1km×2kmと広い範囲の外からも花粉が運ばれていたのです。一方、個体密度が高い森林内では、ヤチダモの雌木は、50m以内に分布する雄木からひんぱんに花粉を受精していることが別の研究で明らかになっています[2]。この違いはどこから出てくるのでしょう。森林の中では、木と木の樹冠が複雑に絡み合って、花粉の流れも単純ではありません。しかし、農地のような開放系の空間では、一度気流に乗ってしまえば、簡単に1km以上も飛ぶことができるかもしれません。しかし、1km以上も運ばれたあと、雌木に見事に到達するというのも考えてみれば不思議です。これまで、ヤチダモは風によって花粉が運ばれると思われてきましたが、もしかすると小さな昆虫がひっそりと花粉を運んでいるのかもしれません。最近では、虫についた花粉からもDNA分析ができるようになりつつあり、そのような実験を通じて新しい発見がもたらされる可能性もあります。

 ところで、このように孤立した雌木にも遠く離れたところから花粉が運ばれていたという事実は、単純な驚きとともに、水辺林の保全や再生復元を考える上で一つの可能性を与えてくれます。水辺林は生態学的にも貴重な価値を持つにもかかわらず、既に大部分が農地開拓や宅地造成などの影響で消失し、現在の残された水辺林も孤立・断片化が進んでいます[3]。本研究で明らかになったように、孤立したヤチダモ林にも外部からひんぱんに花粉が運ばれているとすると、残された小さな個体群を利用したり、保残帯をうまく設定したりすることで、健全な繁殖を助けることができるかもしれません。また、孤立したヤチダモ林から得られる種子が遺伝的にも多様で健全なものであれば、それらを利用して失われた水辺林を再生復元できる可能性もあります。今後は、孤立・断片化した森林の面積や個体数、周囲の森林との距離などが、繁殖や将来の遺伝的な多様性に与える影響について明らかにしたいと考えています。

<参考文献>

[1] 高橋康夫ほか(2001)雌雄異株性高木ヤチダモの性表現とサイズ構造。 日林誌83:334-339.

[2] 後藤 晋ほか (2001)個体密度の異なる状況におけるヤチダモの花粉飛散パターンの比較。 第114回日林学術講:383.

[3] 渓畔林研究会(2001)水辺林管理の手引き -基礎と指針と提言-。 日本林業調査会,東京, 213pp.