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研究

カシノナガキクイムシの生態解明とナラ枯れの防除に向けて

鎌田 直人(森林圏生態学研究室/研究部・田無試験地 助教授)
2007年2月1日

研究内容 


1980年代後半以降、本州日本海側を中心にナラ枯れの被害<1>が拡大しています。カシノナガキクイムシ<2>(以下、カシナガ)という体長5mmほどの甲虫によって運ばれる、Raffaelea quercivoraという通称ナラ菌と呼ばれる菌が、ナラ枯れの原因です。カシナガの雌の成虫は胞子を貯蔵する特別の器官をもっていて、菌の胞子を自分が育った木から新しい木へ運ぶことによって伝染します。1980年以前にもナラ枯れはみられましたが、被害は単発的で、地域的にもきわめて限られていました。しかし、1980年代の後半以降、被害は拡大を続け、被害量も増加しています。

私は、前任地の石川県に最初に被害が発生して以来、被害の発生の様子や、媒介昆虫の生態について研究してきました。以前から、ギャップや林道周辺で被害が最初に発生することが知られていましたが、カシナガ成虫の走光性が関係していることがわかりました。カシナガの成虫が正の走光性*注を持つため、常にギャップや林道周辺の林冠下で飛翔する成虫が多いのです。また、カシナガ成虫は風下に流される方向に飛翔する個体が多いことが明らかにされ、これが北東方向への被害拡大が早い原因と考えられました。なぜなら、中緯度地方では偏西風が卓越しているからです。

被害発生後の毎年撮影した航空写真を解析した結果、被害の拡大は、スケールの異なる3種類の拡大様式の組み合わせにより起こっていることがわかりました。前年の被害木周辺への拡大、数百メートル離れた拡大、数kmレベルの拡大です。中スケールの移動分散には光環境や地形が、大スケールの移動分散には風が影響しているものと推測されていますが、まだよくわかっていません。

また、小スケールの移動分散には、光環境の他にも、寄主木の臭い成分や、雄が交尾前に出す木くずに含まれる臭い成分が関係していることが知られています。とくに交尾前の雄が出す木くずには、♂♀両方の成虫を誘引する集合フェロモンが含まれており、近年、森林総研を中心とした研究グループによって、(1S,4R)-4-isopropyl-1-methyl-2-cyclohexen-1-olがフェロモンの主成分である可能性が示されました。私たちの研究グループも、独自に研究を進めていましたが、(1S,4R)-4-isopropyl-1-methyl-2-cyclohexen-1-olの純粋合成品がカシナガ成虫の雄雌両方に対して誘引性があることを野外で確認しました。しかし、捕獲数はそれほど多くないため、合成フェロモンとしてはまだ改良の余地があると考えています。具体的には、昆虫のフェロモンは通常数種類の混合物であることが多いため、他の成分の共力作用を調べていく計画です。また、寄主植物の成分のブレンドも試みる価値があるでしょう。合成フェロモンの開発研究は、今後、森林総研グループと協力して行うことになりました。ほかにも、ナラ菌によって辺材部にできる壊死変色部に蓄積するエラグ酸やガロ酸が、カシナガ成虫の穿孔を阻害することもわかりました。もしかしたら、環境に優しい防除法が開発されるヒントになるかもしれません。

なお、ナラ枯れのメカニズムについてわかりやすく解説したHPも公開しています。
http://kamatan.uf.a.u-tokyo.ac.jp/research/research04/contents/content.html

*注 正の走光性:光源に向かって移動する生得的な運動性
 

図表


2007020101.jpg
<1>ナラ枯れ被害の状況

2007020102.jpg
<2>カシノナガキクイムシ

 

参考文献


[1] Kamata, N., Esaki, K., Kato, K., Igeta, Y., Wada, K. Potential impact of global warming on deciduous oak dieback caused by ambrosia fungus carried by ambrosia beetle in Japan. Bulletin of Entomological Research 92(2): 119-126. 2002.

[2] Esaki, K., Kato, K., Kamata, N. Stand-level distribution and movement of P. quercivorus adults and patterns of incidence of new infestation. Agricultural and Forest Entomology 6(1): 71-82. 2004.

[3] Igeta, Y., Esaki, K., Kato, K., Kamata, N. Spatial distribution of a flying ambrosia beetle Platypus quercivorus (Coleoptera: Platypodidae) at the stand level. Applied Entomology and Zoology 39(4): 583-589. 2004.